【一】俺の現在
長閑な初心者村――こと、リューネの村。
冒険者ギルドが併設している一階の酒場で、今日も俺は麦酒を飲んでいる。
周囲からはグラスを掲げて乾杯する音が響いてきたり、何かと賑やかな店だ。
隣街のルルクスに、冒険者登録所がある。この大陸には三ヶ所あるのだが、その内の一つだ。そうしてルルクスで登録を済ませて旅立つと、最初に到着するのが、このリューネ村というわけだ。冒険者の登竜門、そんな位置づけだ。
俺がこの村に流れ着いたのは、半年前の事だ。以来、村のはずれに小さな家を借りて、大体酒場で飲んで過ごしている。冒険者ギルド銀行への蓄えを切り崩しながら、酒場が開く午後二時から終了する朝四時まで、大体俺は、飲んでいる。
「おかわり!」
「今日もルファムはよく飲むな」
吹き出すように店主のバイロが笑った。髭面だ。この壮年のギルドマスターとも、顔なじみになった。新しいジョッキを受け取りながら、俺はカウンター席で、依頼書が貼られているボードへと視線を向ける。
今日も誰かが冒険に出るみたいだ――と、そう考えていた時の事だった。
ダンと音がして、勢いよく扉が開いた。甲冑の音に驚きながら玄関を見れば、このダイネリゼ王国の騎士団の甲冑姿の剣士達と、それらを指揮する高位らしき騎士、一人の魔術師がその場に立っていた。
「騎士団がなんの用です?」
怪訝そうな顔で、バイロがカウンターから回って玄関へと向かっていく。俺はジョッキを手にしたまま、それを見ていた。
「私はダイネリゼ王国第二騎士団の団長、コーゼルネと言う。こちらは、宮廷魔術師のワルズ様だ」
団長が指し示したワルズという魔術師は、長身で黒い単髪に切れ長の瞳をしていた。鋭い眼差しで店内を見渡したワルズは、最後に再びバイロを見た。
「【オズワルドの森】に【雷洛迷宮(ライラクメイキュウ)】が出現した」
凛とした低い声音だった。
――この大陸最北端にあるここ、ダイネリゼ王国、特にリューネ村から北には、【オズワルドの森】と呼ばれる魔術樹が生い茂る場所がある。俗に言う冒険者というのは、護衛をしたり、魔獣を討伐したりして生計を立てている者を言うのだが、この森には大量の魔獣が昔からいた。村にほど近い場所には、非常に弱い魔物が、奥に行けば古代の遺跡があるとされていた。
新米冒険者達の目的は、技能を上げる事なので、大半は奥にはいかないし、この村の冒険者ギルド、即ちここ、冒険者ギルド笹ノ葉でもそれは言い聞かせてあるようではあった。