0(本編開始)



朝、寝起き。
ぼさぼさの髪をかき混ぜながら、僕は半身を起こした。
ピンポーンピンポーンピンポーンと、馬鹿みたいに呼び鈴を連打されたからだ。
誰だよ。今日は水曜日だぞ……大学の講義は、自主休講と決めている。
まぁ僕はテストしか大学に行かないけどな。
思わず自分に対して失笑しながら、僕は立ち上がった。
正直大学に興味はあまりない。ただし、ほかにやりたいこともなかったので進学した。
怠い。
だらだらと扉へ向かう。そして玄関で声をかけた。

「はーい」
「郵便です」

ポストに入れておけよと思いながらも、ドアを開けた。すると人の良さそうな郵便配達のお兄さんがーー……? 古びた封筒を一つ僕に差し出した。蝋で封がしてある。差出人はどこの貴族だよ。首をひねりながら受け取って、日の封筒を透かした。鈍い音を立てる扉を閉めて、片足で廊下を渡ってリビングのソファに戻る。
僕には場違いな、それなりの規模のマンションだ。
端的に言ってこれは両親から相続したものだ。両親といっても血縁的には他人だった。孤児院から僕を引き取ってくれた気持ちの良い人々だった。しかし僕は我ながらだるっとした駄目人間に育ってしまった。さてその両親が亡くなって五年。唐突の事故は僕が高校生の頃に起こった。あまり現実感がない。未だにない。小六で引き取られて、高一まで暮らしただけだから、ぶっちゃけ家族意識が無かったというのが正しい。申し訳ないけれども。
ソファに寝そべって、僕は封筒を見た。

「……七穂積家当主選定のお知らせ……?」

中には一枚の古ぼけた羊皮紙が入っていた。

ナナホヅミ家。


首をひねってみるが心当たりはない。僕は活字を横に目で追った。

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七穂積家ーー当主選定のお知らせーー

砂永 茜 様

歴史ある七穂積家のご当主、七穂積由嘉里様が没し三年が経ちました。
遺言にのっとり、七穂積家の高貴な血を引く、七名の皆様の中から、当主の座にふさわしい方を選別致します。
つきましては五月二十二日金曜日から五月三十一日日曜日まで、下記の七穂積本家へとお越しください。

追記
貴方は、七穂積由嘉里様が五男、七穂積茜様です。


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あまり礼儀正しい内容では無かった。
手紙自体は古びているのに、中に入っているのは薄っぺらい紙と、インクが薄れている上に簡素な内容だった。しかもいきなり、僕の実の親について言及された。
ーー高貴な血?
なんの冗談だろうかと僕は笑った。物心ついてから小学六年生のあの日まで、思い出したくもないが、僕は孤児院で人間以下の生活を送ってきた。僕を捨てた親のことを恨んでいないといえば嘘だ。今では興味がないふりをして生きているが、なんで、どうして、僕がいらなかったのかと、考えた幼き日々の時間が帰ってくるわけではない。

大体なんの冗談だ。誰が行くか。寝そべりながら目を伏せる。

そのまま僕は眠ってしまったのだった。