2





 そのまま、一度、僕は気絶したらしかった。
 目を覚ますと、僕は和服を着せられていて――首輪をつけられていた。思考は相変わらず曖昧模糊としている。両手首にも黒い輪がはまっている。その状態で、僕は椅子に座らせられていた。背もたれに体を預けたまま、室内を見渡す。すると正面にいた青年が僕を射抜くように見据えた。

「自分の体が作り変わったのは、分かったか?」
「……」

 喉が掠れていて、僕は何も言葉を紡げない。

「改めて名乗る。俺は、『蟲』だ。唯一、全ての『蟲』の力を使用可能な、全ての『蟲』の絶対王者だ。無論、七穂積の『蝶』も俺に逆らってはならない。人としての俺の名は、登園峙巳継と言う。登園峙のこの名、忘れる事は許さない」

 僕は無意識に小さく頷いていた。
 すると巳継さんが歩み寄ってきた。そして僕の右手を取ると、人差し指を口に含んだ。
 瞬間――僕は、果てていた。着物が濡れる。

「あ、あ、嘘」
「きちんと作り変わっていて何よりだ。以後、俺に触れられれば、どの場所ですら陰茎を撫でられたかのような快楽をお前にもたらす」
「は、あ、ア」

 巳継さんが、今度は僕の頬を舐めた。その時になって、僕は初めて自分が泣いている事に気づいた。それは――悲しいからではなかった。何故なのか全身が歓喜しているのだ。彼のモノになったという事実が、僕の胸中に、どうしようもない幸福感を与えている。

「堪えられないか、やはり」

 そう言うと巳継さんが黒い輪を取り出した。そして僕の陰茎に触れた。僕は再び果てた。その時、根元に、巳継さんがその輪をはめる。冷ややかな感触と、射精を封じられたと理解した事実に、僕は絶叫した。

「いやああああ、イきたい、あ、あ、ダメ、あああああ」
「俺の許しが無ければ、それは『ダメ』だ。きちんと躾なければならないな」

 巳継さんが僕の和服をはだけて、指を挿入してきた。その感覚だけで再び果てそうになったのに、それは叶わない。僕は髪を振り乱して泣いた。するとクっと喉で笑ってから――巳継さんが僕の感じる場所を二本の指でついた。僕は再び絶叫した。頭が真っ白になり、全身を稲妻のような快楽が襲う。

「やはり『蝶』の力が強い分、『蟲』の影響力に耐えられないようだな」

 冷ややかな声でそう言うと、巳継さんが今度はポケットから二つのピアスを取り出した。そしてまるでピンのようなそのピアスを僕の両方の乳首に突き立てた。痛みはない。代わりに酷い快楽に襲われる。

「ひ、あ、ア」

 その時、巳継さんがピアスを弾いた。すると――僕の中から、少しだけ熱が引いた。

「今の俺は、『蝗』だ。存分に噛ませてもらう」

 巳継さんが、僕の肌を舐め――そして先ほどのように、首筋に葉を突き立てた。やはり痛みはない。代わりに、再び僕は快楽に襲われた。だが、優しい手つきで巳継さんが左胸のピアスを弾いた瞬間、やはり少しだけ、熱が引いた。

 そのまま僕は、全身を舐められ、様々な場所に噛み付かれた。それが、気持ち良かった。しかし射精はできない。リングで戒められている陰茎が限界を訴えている。僕の先端からは、透明な雫がひっきりなしに溢れていく。

「次は、『蜘蛛』になるか」

 巳継さんの声が響いた瞬間、室内に白い糸が張り巡らされた。僕の体を絡め取った糸が、空中で僕を拘束する。僕は目を見開いた。張り詰めた陰茎の先端から、糸が侵入してきたからだ。

「いやああああああ」

 前から陰茎を暴かれる始めての快楽に、僕は身悶えた。しかし糸のせいで動けない。巳継さんは正面の椅子に座りなおすと長い足を組んで、顎に手を添えた。そして嘲笑を浮かべる。彼に視姦されている――それを理解するだけで、僕の体は昂ぶっていく。

「物欲しそうにひくついている菊門からも、刺激してやらないと可哀想だな」

 暫くしてから、そう口にして、再び巳継さんが歩み寄ってきた。そしてほぐれきっている僕の内側を三本の指でかき混ぜ始めた。押し広げられ、前立腺を指先で強く刺激された瞬間、僕はむせび泣いた。

「さて――蠱毒に蓋をするか」

 巳継さんが黒い栓のようなバイブを片手に持った。そしてそれを、僕の菊門へと突き立てる。その瞬間僕は理解した。『蟲』に選ばれるというのは、蠱毒の器になるという事だったのだと。

「あああああああ!」

 僕の内部で、『蟲』の妖力が蠢き始める。僕は悲鳴を上げながら、ボロボロと涙をこぼした。

「ピンで胸を止めてやったというのに、だらしのない体だな。そんなに果てたいのか?」
「あ、あ、あ」

 僕はもう、意味のある言葉を紡ぐ事が出来ない。

「――蝶を殺すのは、本当に心地が良いな。『器』となったお前は、夜毎俺に殺される運命だ。だがそこに、死はない。永劫の快楽に、飲まれるが良い」

 この日から、僕にとっての地獄が始まった。それはあるいは、幸福だった。