お留守番はシャツと共に




 今のご時世、食事と言えばレトルトが主体だ。宇宙レンジに放り込んで、二分くらい。だけど僕はだな、愛するユーガさんのために、現在カレーを手作りしている最中だ。

 ユーガさんは、僕達が暮らすこの宇宙艦ハセガワの副艦長をしている。三十五歳で副艦長というのは、凄い昇進速度らしい。パイロットとして数々の実績を積んだからだと聞いている。なにせ学校の教科書にも、名前が出てくるほどだ。僕の通っている学校は、人型戦術機のパイロット候補生が通う学校で、僕も候補生だったりする。

 宇宙艦ハセガワは、地球防衛軍所属の、入植惑星探査艦だ。入植先が見つからなくても、地球とは三年に一度往復している。宙域超転移空間という移動方法を用いているから、距離は全然問題にはならない。僕は十三歳の時に、僕の家に遊びに来たユーガさんに一目惚れして、ここについてくる事に決めた。口では、『パイロットになりたいからだ』と言っているし、僕の恋心はバレていないと信じたい。僕の地球にいる両親は、応援してくれたものである。出発後、僕の保護者はユーガさんになった。また従兄弟だから、すんなりと書類審査も通った。あれから十年。二十三歳になった現在、僕は干支が一回り違うユーガさんと、現在も同じ家で暮らしている。

 濃い茶色の髪と瞳をしたユーガさんは、長身で細マッチョだ。短い髪に精悍な顔立ちをしていて、性格も人格者……なんだとは、思う。いつまでも僕の事を子供扱いするのは赦せない部分だけどな……。本当、ユーガさんは、アルファらしいアルファだ。なお、僕はオメガだ。

 この宇宙艦に限らず、最近の地球では、男女の性別のほかに、アルファ・ベータ・オメガという第二性が発見されて、男女関係なく恋愛や結婚が可能となった。子供は男女間かアルファとオメガの間で生まれる。昔はオメガ差別もあったらしい。理由は発情期が来ると、アルファを誘うフェロモンを出すからだ。だけど今は抑制剤が開発されたから、その差別もほとんど解消された。

 ただ抑制剤を用いても、本来の発情期の時期には、無意識にオメガはアルファの香りを求めるし、運命の番の場合は、アルファも自然とフェロモンを嗅ぎとってしまうと言われている。僕は発情期が来るのが遅くて、ニ十歳でやっときた。個人差もとても大きいのが発情期だ。

「っ、痛!」

 考え事をしていたら、ニンジンの皮むきに失敗した。僕の指にはうっすらと血が滲んだ。慌てて水で流してから、一度包丁などを置いて、僕はチェストの上の救急箱のもとへと向かった。そして宇宙絆創膏を取り出して、親指にまいた。地味に痛い……。

 その後は、なんとか無事にカレーを作り終えた。

 他には――と、考えて、付け合わせのサラダを作った。型抜きで、チーズを小さな星型にするのが楽しかった。

「ただいま」

 そこへ扉が開く音がして、声がかかった。テノールの聞き心地の良い声は、僕の大好きなユーガさんのものだ。

「いい匂いだな、スバル」

 僕は、ユーガさんに名前を呼ばれるのがすごく好きだ。けれどそんな事は伝えた事も無い。僕はユーガさんの前だと全然素直になれないのだったりする。

「丁度出来たところだから、座ってくれ」

 そう告げると、首元のネクタイを緩めながら、ユーガさんが頷いた。椅子を引く音を聞きながら、まずはサラダを置く。するとまだ立ったままだったユーガさんが、不意に僕の左手首を掴んだ。

「スバル。この絆創膏はなんだ?」
「……別に」
「別にという事は無いだろう。また怪我をしたのか?」
「べ、別にいいだろ!」
「いいはずがないだろう。お前はそそっかしい部分がある。料理をしてくれるのは助かるけどな、レトルト食品で俺は十分だ。スバルが怪我をするよりはずっとマシだ」

 冷静な声音で言われたが、僕は胸がギュッとなった。まるで『迷惑だ』と言われているような気分になったからだ。ユーガさんの手の感触とこもる力にビクリとしてから、僕は思わずその手を振り払った。

「うるさい、うるさい! 座ってろよ! 今から、カレーをご飯にかけるんだからな!」
「スバル……」

 ユーガさんは何か言いたそうだったが、そのまま静かに席についた。僕は意識をカレーに集中させて、皿を手に取る。そしておたまでカレーをご飯にかけてから、二つの皿をテーブルの上へと運んだ。ユーガさんの前と、対面する位置にある僕の椅子の前に置く。

「いただきます! さっさと食べろよ!」
「ああ、いただきます。嬉しくないわけじゃないんだぞ? スバルの料理は、味は最高だ」
「……おう」

 そんなやりとりをしてから、食事が始まった。

 我ながら美味しいと思う。ただユーガさんの反応が気になりすぎて、ついチラチラと見てしまう。僕は……我ながら、こじらせている。ユーガさんの事が、本当に好きで好きで好きで仕方がなくて、そのせいで逆に全然素直になれないどころか、キツくあたってしまったりする。自分が情けない。

「そうだスバル。実は明日から急な任務で管制室に泊まり込みになりそうなんだ」
「ふぅん。またクラゲ型でも出たのか?」
「ああ。クラゲ型の地球外生命体が一体、進行方向前方に出現したから、人型戦術機の指揮をする事になっているんだ」

 巨大なデフォルメしたクラゲのような形の地球外生命体は、時々この宇宙艦に接近してきて、対処しないと艦体に絡みついて進行を妨害する。よって御伽噺(キャロル)シリーズと呼ばれる人型戦術機で、退治する事が多い。基本的には、展開すると同じくらい大きくなる人型戦術機で捕まえて、キャッチボールの要領で別の宙域に放り投げる事になる。

「一人で留守番できるか?」
「僕、もう二十三歳なんだけどな? いつまで子供扱いする気だよ?」
「――別に、そういうつもりはない」

 絶対に嘘だと僕は思った。

「ただ、スバルを一人にするのが心配だというだけだ」
「なんでだよ。それは子供扱いしてるからだろ?」
「違う、だからな、俺は――……まぁ、いい」
「やっぱりそうなんだろうが!」

 濁されたので、僕は唇を尖らせた。するとユーガさんが苦笑した。
 こうしてこの夜は更けていった。




 ――さて、ユーガさんが泊まり込みの日々が始まった翌日。

 僕には、いつもより少し早く、発情期が訪れた。パイロット候補生のオメガは、他のアルファに万が一にでも影響を与えないようにという配慮から、抑制剤を用いていても、基本的に学校を休む事が義務付けられている。発情期は三ヶ月に一度、五日程度の期間続く。僕は元々不順な部分があって、予定よりちょっと早くきたり、遅く来たりする事がある。初めての発情が遅かったオメガには珍しくない事みたいだ。

 ニ十歳で発情を迎えてから、早三年。

 僕は発情期を迎える度に、アルファの――というか、ユーガさんの匂いを、どんどん求めるようになってしまった。最初に異変に気付いたのは二十一歳の頃で、ユーガさんの洗濯物を洗おうとしたら、シャツの残り香に惹きつけられた。ハッと我に返った時には、自分の部屋にシャツを持ち帰っていて、僕は発情期の間、それを抱きしめて眠っていた。発情期の間は、ユーガさんはアルファであるから気を遣ってくれて、僕の部屋には入ってこない。だから幸い気づかれなかったけれど、バレたら絶対にひかれていたと思う……。それをきっかけに、以後、ダメだと思うのに、僕は発情期になると、ユーガさんの匂いがする衣類や布地を求めるようになってしまった。なんでもこういう反応をしてしまうオメガは一定数いるらしくて、『巣作り』と呼ばれる現象らしい。ただ基本的には、番の衣類を借りるらしいから、僕みたいに隠れて行うのは、本当はあまり推奨されないらしい。好意の表れでもあるらしい。だから僕は、いつかバレたらと思うと常にビクビクしている。好きだとバレるのも、ひかれるのも気まずい。

 だが、今回も……勿論、匂いが恋しい。

「出張中だし……ちょっと借りてもバレないよな……?」

 洗濯物をユーガさんのクローゼットにしまいに行く事もあるから、私室への入室は許可されている。それを良い事に、僕はユーガさんの部屋へと向かった。すると良い匂いが漂ってきて、クラクラとしてしまった。惹きつけられるように、僕はユーガさんのベッドを見る。たださすがに毛布を持っていったらバレるだろう。そう考えて、クローゼットに手をかけた。中には洗ったばかりのシャツや予備の制服、私服などがあるが、どれもいい匂いがする。フェロモンは体臭とは違うから、選択しても落ちない。僕はシャツを一枚だけ拝借する事にした。それを抱きしめていると、酩酊感に似ているがもっと幸福感が強い、フワフワした心地になる。そうしたら、よりいっそう、視界に入るベッドに惹きつけられてしまった。立ったまま、僕はチラチラとそちらを見る。あの毛布に包まりたい。もっともっとユーガさんのフェロモンに包まれたい。気づくと僕は、シャツを持ったままで、市ベッドにダイブしていた。すると、幸せを感じさせる匂いが広がって、僕を包み込んだ。アルファの、いいや、ユーガさんのフェロモンだ。

「ユーガさんが運命の番だったらいいのになぁ……」

 思わず呟いて、僕は目を閉じた。

 ギュッとシャツを握りしめて、毛布をかけて、幸せな気持ちに浸っていたら――抑制剤を用いてはいるものの本格的に発情の熱の気配に飲まれて、僕の理性は曖昧になり始めた。同時に抑制剤の副作用で眠気がきたから、そのまま寝てしまう事に決めた。本当は、一人で平気だというアピールをしたけれど、ユーガさんが帰ってこないと分かっている日は、とても寂しい……。早く帰ってきて欲しいと考えながら、僕は微睡んだ。



「――ル。スバル」
「っ……」

 揺り起こされた時、僕は薄っすらと開けた目で、正面にあるユーガさんの顔を捉えた。僕をベッドサイドから、ユーガさんが覗き込んでいる。

「え?」

 今日は帰ってこないんじゃなかったっけ……? と、焦りながら、僕は覚醒した。

「あ……な、なんで? なんでここにいるんだ?」
「クラゲ型の進行方向が変わって、退治する必要が無くなったから、帰宅できる事になったんだ。代休で明日と明後日は休みだ。そのまま週末で、翌週は月曜日と火曜日は有給を昇華しろと言われている。それより――握っているのは、俺のシャツだな?」
「!」
「そもそも、どうして俺の部屋で寝ているんだ? 俺の毛布に包まって」
「こ、これは、そ、その……」
「――巣作りだな?」
「う……」
「今、発情期が来ているんだろう? 学校の時刻にここにいるんだからな」

 バレてしまった。巣作りは、好きな相手の衣類を求める事が多いのだから、好意もバレただろうし、何より勝手にシャツを握ってベッドに入っていたなんて、やっぱりひかれるだろう。じっと僕を見るユーガさんの目がなんだか鋭く思える。独特の威圧感がある気がした。とても深刻そうな表情をしている。きっと、怒られる……。

「ご、ごめんなさい……」
「ん? 何故謝るんだ?」
「だって、僕勝手に巣作りなんて……番でもないのに……」
「巣作りをしていたという事は、俺をアルファとしてきちんと見ていて、好いてくれていると思っていいんだろうな?」
「……うん。ごめんなさい」
「だから、なんで謝るんだ?」
「だって、困らせたと思って。ユーガさんは、僕の事を子供としてしか見てないのに」

 悲しくなりながら僕が言うと、ユーガさんが嘆息した。それから苦笑すると、僕の薄茶色の髪を撫でた。

「だから、違うと昨日も言っただろう。俺は、スバルの事を大切だと思っているし、その――オメガとしてというか、恋愛対象として見てる。歳の差のあるおっさんの俺が言うのもあれだが」
「え?」
「だからだな、好きな相手を一人で家に置いておくというのが心配だっただけだ。それに好きな相手が怪我をするのだって見たくないだろう? そう言う事だ、分かれ」
「え、え? ほ、本当?」

 目を丸くしながら、僕は上半身を起こした。するとそっと僕の頬にユーガさんが左手で触れた。そして少し屈んで覗き込むようにしながら頷いた。

「お前がニ十歳になって発情期を迎えた後だ。抑制剤を俺もお前も服用しているのに、それでも俺はお前のフェロモンを必ず感じて、いつも自分を抑える事に必死になった。そういう反応は、運命の番が相手でもなければ、起こり得ない。だから俺はすぐに、お前が運命だと気づいた。でもな、歳の差もあるし、中々言えなかった。正直、スバルを見ていると、お前は俺の事を好きなんだろうとは思っていた、が、本当に受け入れていいのかという迷いもあった」

 それを聞いて、僕は目を見開いた。気持ちがバレていた事にも驚いたが、ユーガさんが僕を恋愛対象として見てくれていたというのが、震えるほど嬉しい。

「今も、お前が俺の服や毛布に包まって、俺の匂いがついたもので、巣作りしてくれたのが――もう可愛いと思ってしまってダメだ。俺は、心底スバルが好きらしい。もう俺の側のラット抑制剤が全然効かなくなりつつある」

 ユーガさんはそう言うと、今度は右手を僕の顎の下に添えた。そして僕の顎を持ち上げて、上を向かせる。そうすると視線がぶつかった。僕の目をまじまじと真剣な顔でユーガさんが見ている。その瞳には、どこか獰猛な色が宿っている。ユーガさんのこんな目は初めて見る。本能的に僕はゾクリとしてしまった。ユーガさんは、捕食者のような顔をしている。ただ口角だけを持ち上げているから、口元にだけは笑みが浮かんでいるのだが。

「スバル、愛している」
「っ」
「お前のうなじを噛みたい」

 ユーガさんが、左手を僕の首の後ろに回し、僕のネックガードを外した。これは不慮の事態が起きて、アルファにうなじを噛まれないようにとしているものだ。それがパチンと音を立てて外れて、ベッドの上に落下した。僕は呆然とユーガさんを見ていた。

「嫌か?」

 囁くように言われ、僕の頬はカッと熱を帯びた。嬉しすぎて言葉にならなかったから、嫌ではないと首を振って意思表示をする。すると笑みを深めたユーガさんが移動し、僕のうなじに手を添えた。そして――直後、僕はうなじに熱を感じた。痛みよりも、熱いという感覚が強い。

「あ」

 噛まれたのだとすぐに分かった。発情期の最中にうなじを噛まれたオメガは、抑制剤を用いていたとしても、その効果が消失しやすいらしいという知識は僕にもあった。だがその思考が消し飛んでしまうほど激しい発情の熱に、すぐに僕の全身は飲み込まれた。

「あ、あ、あ……やぁァ! あ、あ! 体が熱い、っ」
「抱いてもいいな? 俺達はもう番なんだから」

 ユーガさんが、首元のネクタイを右手で引き抜きながら、もう一方の手で僕を優しく押し倒した。軽く僕は、枕に頭をぶつける。

「うん、あ、うん。欲しい、ユーガさんが欲しい、ッっ」

 僕は気づくと本能のままに願望を口走っていた。ユーガさん一筋だった僕には、これまで性経験なんて一度も無いから、初めて受け入れる事になる。だが恐怖は無い。相手がユーガさんだからというのもあるし、発情の熱で頭が真っ白だからというのもある。

「んぅ」

 僕の胸を愛撫してから、ユーガさんは指先で僕の窄まりをつついた。既にそこはグショグショだった。オメガ特有の分泌液でぬめる後孔に、ユーガさんの二本の指が入ってくる。すんなりと受け入れた僕の内側を、ユーガさんが暫くの間解していた。そして三本目の指を挿入すると、指先をバラバラに動かし始めた。グチュグチュと水音が響いてきて、僕は羞恥を覚えたけれど、それ以上に響いてくる快楽が強すぎて、喘ぐことしか出来なくなる。

「あ、ああっ、んン――!」
「挿れるぞ」
「う、うん……ひゃ、っぅ、ああああ!」

 指が引き抜かれ、ユーガさんの硬く熱い陰茎が僕を貫いた。思わず僕は背を仰け反らせた。初めて感じる熱も硬度も、僕の体を触れている箇所から蕩けさせていく。あんまりにもそれが気持ち良くて、僕はポロポロと涙を零した。

「あ、あン――ひ、ぁァ! や、ぁあ、ダメ、ダメっ!」
「辛いか?」
「気持ち良すぎて変になる、あ、あああ!」
「そうか。それは問題ゼロだ。もっと乱れて、俺の事以外何も考えるな」

 ユーガさんはそう言うと、激しく抽挿を始めた。その度に水音と、肌と肌がぶつかる音が響く。ギュッと目を閉じ、僕は快楽に耐える。しかしどんどん体が孕む熱は酷くなっていき、気づくと僕の陰茎は、解放を求めて、ガチガチに硬くなっていた。

 最奥を貫かれたのは、その時の事だった。僕は喉を震わせる。

「あ、ァ――や、出る、出ちゃうから、ぁっ」
「構わない。イけ」
「ンあ――!」

 その時ユーガさんが一際強く僕を突き上げた。その瞬間僕は絶頂感に飲み込まれ、射精していた。肩で息をしていると、収縮した僕の中に、ユーガさんが放った。長々と精液を注がれながら、僕は快楽の余韻に浸りながら震えていた。すると陰茎を引き抜いたユーガさんが、より獰猛な眼をして、唇の両端を持ち上げた。

「スバルの発情期間と俺の休暇が見事に重なったな。途中で子が出来れば、自然と発情期が収まるだろうが、だとしても五日間は、絶対に離さない」
「ふぇ?」

 ぼんやりする頭で、僕はとろんとした瞳をユーガさんに向ける。そういえば、否認していないと一歩引いた理性が訴えたが、僕はユーガさんとの間になら子供が出来たら嬉しいから気にならない。

「きちんと責任はとる。結婚届を出しに行こう。な? 俺と結婚してくれるな?」
「う、うん。僕、ユーガさんと結婚したい」
「よかった。プロポーズをするタイミングも懸念事項だったんだが、抑制が効かなくなったら、あっという間に事が進んだな。お前が可愛いのが全部悪い」
「なにそれ……んン」

 ユーガさんが不意に僕にキスをした。薄っすらと僕が口を開けると、舌が入り込んでくる。その後僕は深々と口腔を貪られた。思わず僕は、ユーガさんの体に腕をまわした。

 そうして長々とキスをした後――二回目が始まった。その後も僕は、この日何度も抱かれ、それだけではなく宣言通り、五日間に渡って抱き潰された。途中からは何度もうなじを噛まれたあめに完全に発情していた僕は、ほとんど理性を飛ばしていたから、記憶は断片的だ。ただただ気持ち良かった事だけを覚えている。

 四日目の朝には、発情期が収まっていたけれど、それには構わず五日目まで抱かれていたという次第だ。そして六日目も有給を取ったユーガさんと共に、僕は結婚届を出しに行き、帰りにドラッグストアで宇宙妊娠検査薬を購入した。見るまでも無かったが、反応は新しい生命が宿っている事を教えてくれた。宇宙医療シリーズは、結果がすぐわかるし、効果もすぐに発する。絆創膏も同じメーカーだ。

 さて、僕がカレー作りで絆創膏をまいていた指には、今では結婚指輪が鎮座している。同じデザインのものが、ユーガさんの左手の薬指にも輝いている。

 僕達が結婚して夫婦になったという知らせを、地球にいる両親に通信で伝えると、大層喜ばれた。次は、子供が生まれてから地球に戻る事になるから、会わせる約束をしている。

 このようにして、最初はバレる事を恐れていた巣作りだけれど、結果として、素直になれない僕の好意を、目に見える形でユーガさんに伝えられたから、今ではよかったと思っている。僕の気持ちはバレバレだったらしいけどな……! なお、結婚後、僕は少しだけ素直になれた。

「なぁ、ユーガさん」
「なんだ?」
「……好きだよ」

 僕はユーガさんの隣に寝転び、毛布どころか腕に包まれて、現在横になっている。子供が生まれるまでは、もう少しだ。僕の言葉に、ユーガさんは柔和な笑顔を浮かべてから、僕の頬にキスをした。本当に幸せだと感じながら、僕は目を伏せる。ああ、ユーガさんのフェロモンの香りがする。本当に、大好きだ。これからは、愛を沢山伝えようと、決意し僕は改めて目を開く。

 その後、僕達は生まれた子供も加えて、ずっと幸せに暮らしたのだった。



     ―― 了 ――