オメガバ戦隊ダイナミクス・プリンス
「街が……っ!」
悪の組織、サイレントマジョリティの放った絡繰兵器により、ビルが倒壊していく。そして舞い上がった砂埃の中から、一般構成員が黒づくめの姿で群がるように走り出てきた。構えていた警察官の斯道昴(しどうすばる)が声を上げる。機動隊達も警戒しているが、少なくとも日本国内、この高松颯(たかまつはやて)市では見たことのない武器を繰るサイレントマジョリティの者達には、対抗する術がないかに思えた。
「そこまでだ!」
そこへよく通る声が響き渡った。
「ダイナミクス・プリンス……!!」
斯道が助かったというかのように目を見開き、頬を紅潮させる。
周囲の機動隊や警察官達も、その羨望の眼差しは同様だった。
現れた、赤・黄色・青のヒーローコスチューム姿の正義の味方は、オメガバ戦隊ダイナミクス・プリンスという名だと、既に高松颯市の市民ならば誰でも知っている。
ある日突如として高松颯市を制圧しようとやってきた悪の組織に対抗するためだとして、彼らは平行世界の地球がやってきてくれたのだという。そちらの世界には、第二性別のアルファ・ベータ・オメガというものがあるそうで、地球からみるとオメガバースという世界観の場所なのだという。訪れた三名も、それぞれがアルファ・ベータ・オメガという性を持っているそうだ。皆、男性でもあるが。
赤いコスチュームが、ダイナミクス・アルファ。
黄色いコスチュームが、ダイナミクス・ベータ。
青いコスチュームが、ダイナミクス・オメガである。
「俺達が来たからには、もう大丈夫だ」
断言したダイナミクス・アルファが、腕を胸の前に掲げる。するとダイナミクス・プリンスが所持している巨大な人型の絡繰兵器が起動し、ビルを破壊している敵の絡繰兵器にぶつかっていった。そしてアルファ達は、迫り来る悪の組織の一般構成員達を倒していく。その雄姿に、斯道をはじめ、高松颯市の面々は感動し、涙を零した。
こうしてこの日も、ダイナミクス・プリンスのおかげで、高松颯市の危機は去ったのだった。
――事件後。
「ふぅ」
一段落したので、ダイナミクス・プリンスの三名は、基地に帰還した。途中で私服に着替えていたので、その場所が基地だと露見することはない。
「しかしきりが無いな」
アルファである高台啓(こうだいけい)の声に声に、ベータこと久堅惟司(ひさかただだじ)が苦笑する。
「そうだな。でもこれも、高松颯市の平和を守るためだろ?」
それを聞き、二人のためにお茶を用意していたオメガの武藤夕貴(むとうゆき)が儚い笑みを浮かべて俯いた。どこか影がある、線の細い美人だ。
「僕たちに、高松颯市のみんなが守れるかな?」
「かな、じゃねぇよ。守るんだ」
すると啓が力強い声で断言した。
「啓……」
夕貴がうっとりするような恋い焦がれる瞳を、啓に向ける。アルファのことをオメガが好きだというのは、誰の目から見ても明らかだった。惟司は、知らんぷりで受け取ったお茶を飲んでいる。ただ、どう考えても恋されているのに、赤いコスチュームの啓は鈍い様子で、一切気づいている様子がない。
その頃。
悪の組織サイレントマジョリティの秘密基地がある高松颯市の駅地下構内において、悪の組織の幹部である紅(くれない)は、黒い装束を脱ぎながら、目を眇めていた。
「また失敗か……」
男前の顔が、忌々しそうに歪んでいる。
彼もまたオメガなのだが、彼の場合は夕貴とは異なり、どちらかといえば外見上はアルファに近しいくらい長身だ。細マッチョである点だけが、アルファより筋肉がつきやすい象徴のようなもので、そこばかりは筋トレしてもどうにもならなかったが、逆に紅のスタイルをよく見せている。
「もうこの高松颯市に来て二年だぞ、二年……」
テーブルの上を指先でダンダンダンと叩きながら、紅は舌打ちする。
「こうなったら……なにか一気に奴らを潰す案を……――!!」
そのときヴンっと音がして、その場に悪の総帥のホログラム映像が出現した。
背の低い総帥は、深々とローブをかぶり、顔を隠している。
『もっとオメガバ戦隊に危機的状況をもたらすことは出来ないのか?』
「ハッ……これでも尽力しているのですが……」
しゅんと紅が項垂れる。
『もっと特にオメガを危機的状況に晒して、アルファに心配させるように』
「はぁ……?」
『そ、その、オメガは最も弱いのだから、弱点になるだろう?』
それを聞いた時、紅はひらめいた。
「そうだ。奴らの内の二人はアルファとオメガなんだ。弱点は明確では無いか。オメガには発情期があり、それに当てられたアルファはラットになって身動きがとれなくなる。すなわち、ダイナミクス・オメガの発情を誘発すれば、オメガと当てられたアルファは我を忘れて身動きがとれなくなるはずだ! そうすれば、ベータだけを倒せばいい。なんという名案なんだ!」
それを聞いた総帥が息を呑む。そして満足げに笑みを含んだ声で述べた。
『期待している』
こうして映像が消えたとき、紅は一般構成員に命じた。
「すぐに発情期抑制剤を用意しろ!」
「はいっ!」
一般構成員が威勢よく返事をする。こうして悪の組織には、発情期促進剤散布爆弾が用意された。ピンク色の球体の代物である。
「これをオメガバ戦隊ダイナミクス・プリンス達にぶつければ……必ずや、総帥にお力添えできる!」
紅は総帥の顔すら知らなかったが、比較的よい給与額で雇われているため、忠誠を誓っていた。とんでもないブラック企業に等しく、睡眠時間は日々削られていくのであったが。それもこれもダイナミクス・プリンスを倒せば終わると、紅は確信していた。
本当は辞めたいという考えもあるが、病気の弟の医療費を捻出するためには、この仕事は絶対に続けなければならない。そう考えるときだけ、紅の目は寂しい色を浮かべるのだった。
この日、悪の組織サイレントマジョリティの面々は、幼稚園を襲撃した。
しかし基本的に人命には被害が出ないように気を配っているため、殺戮などは行わない。園の周囲は、既に機動隊や警察官が包囲している。
斯道はこの日もパトカーのドアを開けながら、ダイナミクス・プリンスの到着を心待ちにしていた。すると、待ちに待った勇敢な声がかかった。
「なにをしているんだ、サイレントマジョリティども!」
現れたのは、赤・黄色・青のコスチュームの三名だった。
ぱぁっと斯道達市民の顔に憧憬が滲む。するとその場にいた一般構成員達の波が割れた。そして、いつもは中々姿を現さない悪の幹部・紅が、ピンク色の球体を持って、三名の正面に立った。
「今日がお前達の最後だ、ダイナミクス・プリンス!」
高らかに宣言した紅が、その球体を放り投げる仕草をした。するとダイナミクス・オメガが前に出た。
「アルファ達を傷つけさせたりしない!」
思うつぼだと紅は思った。ぶつける対象、目標は最初からオメガだったからだ。
高笑いしそうになるのをこらえて、紅は腕を振りかぶる。
そして、放り投げた時だった。
素早く前に出たベータが、それを掌で打ち返した。
「えっ」
紅が目を見開く。直後紅のがわに戻った発情期促進剤散布爆弾は、紅の頭上で爆発した。
「なっ」
すると発情期抑制剤を摂取していたにも限らず、猛烈な熱が、紅の内側からこみ上げてきた。きっと、かなり強い発情期促進剤だったのだろう。理性でそう思った頃には、既に立っていられなくなり、思わず紅はしゃがみこんだ。息をする度に、体の熱がより酷くなっていく感覚がする。
周囲にはむせ返るユリのような甘い匂いが漂い始めた。
「そんな! 僕が発情するはずだったのに!」
愕然としたようなオメガの声が響いている。
「どういうことだ?」
ベータが怪訝そうな声を向けると、オメガが引きつった顔で笑った。
「お前、やっぱり内通してたな? こそこそどこかと通信してたのは、掴んでたんだ」
ベータの言葉に、オメガが真っ青になる。
ベータはそれから、アルファを見た。
「アルファ、俺はオメガの取り調べをする。あとは任せていいか?」
「――っ、ああ」
アルファは、こめかみに汗を浮かべながら頷いた。その瞳は獰猛に輝いている。
アルファはラット抑制剤を常用していたのだが、紅の香りは強すぎた。気を抜くと当てられてしまいそうになる。ざわざわしている一般構成員は、うずくまっている紅を心配そうに見ているだけだ。彼らの大半は、ベータだと調べがついていた。
アルファ――啓は、紅に歩み寄る。
そしてそっと手を伸ばした。
「さっ、触るなっ……あァ……熱いッ」
すると涙声で、震える手で紅が啓の手を振り払う。しかしその手首を掴んで、啓は強引に紅を立たせた。そして首の筋をぺろりと舐める。
「や、やめろ……あ……はな、せ……」
紅の声が、怯えたような弱々しいものへと変化する。一人では上手く立っていられない様子の紅を、その時啓が抱き上げた。そして姫抱きをしながら、背後に振り返る。そこには斯道の姿がある。
「ちょっとパトカーを一台貸してくれないか? 一晩ほど」
「か、構わない。高松颯市の平和を守るためなら、どうぞ使ってくれ……?」
「きちんと掃除はして返す」
そういうと紅を抱えて、啓がパトカーへと歩み寄った。そして助手席のシートを倒すと、そこに紅を横たえる。紅は舌を出して必死に気を逸らしており、既に理性が霞んでいる様子だ。その後スモークガラスにしてから、啓は運転席側に回り、各窓ガラスを全てスモークにした。エンジンをかけ、空調も万全にしている。
そして中へと乗り込んだ啓は、服を脱ぎ捨てた。紅の服も脱がしにかかる。
「やっ、やめ、ろ……ぁ……ァ……ンんっぅ」
直接肌に触れられた時、紅が花を抜けるような甘い声を零した。脳内では、もっと触れられたいとばかり考えていた。
「あぁ……もっとぉ……」
気づくと欲望そのままに、その想いを口走っていた。
「いくらでも」
車内にはどんどん甘い香りが充満していく。啓は紅にのしかかった。そしてまた、ぺろりと首の筋を舐め上げながら、左手では、紅の右胸の突起をもてあそぶ。
するとツキンと乳頭が疼き、そこから熱が全身に広がったように変わり、それだけの刺激で紅は射精しそうになった。尋常ではなく気持ちがいい。
「俺、な? 前からお前のこと、気になってたんだよ。最初は、綺麗な顔だなぁって想ってみてて、そうしたらお前、悪事とはいえ真面目に仕事しているしさ。色々調べてると過労死寸前になってるのに、総帥に従ってたし」
「あ、ハ……」
紅は、ぼんやりする頭で、啓の告白を聞く。
「それに時々、お前って寂しそうな顔をするだろ? 俺はずっとそれが気になってて、俺の手で笑わせてやりたいって思ってたんだ」
つらつらと語ってから、快楽由来の涙で濡れた紅の頬を、ぺろりと啓が舐める。
「なぁ、大切にするから、うなじ、噛んでもいいか?」
「あ……それ、は……嫌だ、怖い……」
「そっか。じゃあ残念だけど、待つ。その悪のコスチューム、ネックガード代わりの首輪突き出よかったな。でも、抱いてもいいか? それも聞きたい」
「ンあ……早、く」
こうして二人の交わりが始まった。
丹念に後孔をほぐされた紅の窄まりからは、水音が聞こえてくる。指を引き抜き挿入した啓は、紅の体に覆い被さるようにして、動き始める。その度に、座席が軋んだ音を放つ。車体も若干揺れているようだ。
「あ、あ、あ」
啓が動く度に、紅が声を零す。
最初は控えめだった声が、次第に大きくなっていく。あんまりにも気持ちがよくて、すぐに紅の頭は真っ白に染まり、何も考えられなくなった。快楽に怯えたように紅がもがくと、その手を恋人繋ぎをして、ぎゅっと啓が握る。そうしながら抽送を早めた。
「出すぞ」
「アあああ!!」
啓の宣言の直後、紅は中に飛び散る熱い飛沫の感覚を、人生で初めて識ったのだった。
「っは……」
すると体が楽になってきた。
「もう平気だ」
「そっか」
「その……抜いてくれ」
結合している状態を露骨に口に出すのが恥ずかしくて、僅かに照れながら紅が言う。
「なんで? 俺はまだまだだぞ?」
「――え?」
「もう、こっちのラットも収まらない。これでも抑止剤のおかげでかなりこらえてはいるけどな、全然足りねぇんだよ」
そう言うと、内部ですぐに啓の陰茎が高度を取り戻した。
「あ、っ、ッ、や、ぁ……待って、待ってくれ――ンあ――!!」
こうしてこの日、いいや、翌朝まで、紅は啓に抱き潰されたのだった。行為が終わる頃には、もう何度意識を飛ばしたか分からないほどで、後孔からはひっきりなしに白液がこぼれ落ちていたのだった。
その痕跡が残るパトカーと、紅の体は、啓が持っていた清浄化する絡繰道具で綺麗にされた。なので事後は、服を纏い、なんとか紅は車の外に出ることが叶ったが、足腰が立たずに、終始啓に支えられていたのだった。
「そうか、オメガが……夕貴が、悪の総帥だったのか」
ベータから報告を聞いた啓は、大きく頷く。ベータこと惟司は、頷き返した。
「様々な無効化効果のある拘束具を嵌めて、斯道警部補と相談して、高松颯市の特別施設に拘束した。悪の組織のアジトも吐かせたし、これで高松颯市の平和は約束された」
「しかし動機はなんだったんだ?」
「――お前への恋心だってさ。危機的状況を生んで、ドラマティックな演出をして、自分に惚れさせる計画だったらしい。浅はかだよな……」
はぁとため息をついた惟司の前で、啓が腕を組む。
「そうだな。俺には紅しかいないからな」
「へ……そ、そうなのか?」
「ああ。いつかうなじを必ず噛ませてもらうと心に誓った。俺の戦いはまだまだ終わらない。これからなんだ。紅の心を掴むその日まで!」
このようにして。
ダイナミクス・プリンスの活躍は一度幕を閉じる。その後二人になったダイナミクス・プリンスは、テーマパークのヒーローショーに、本物のヒーローとして出演し、子供達に人気を博した。
悪の組織の壊滅後、弟の件から情状酌量された紅は、現在は啓に引き抜かれて、ヒーロースーツを調整する研究所で働いている。弟の体調も、快復に向かっているようだ。
「たまには、啓にキスの一つや二つしてやれよ?」
ある日惟司がそう声をかけると、カッと紅が赤面した。
「……た、たまにはな」
案外、啓の戦いが終わる日も近いのかもしれなかったが、それはまた別のお話である。
本日の高松颯市は、平和であった。
―― 完 ――