地底都市の昼穴
「≪呪文≫――Blbry&MGRN!!」
球体魔法が周囲に炸裂した。
巨大なブルーベリーに見える球が爆ぜ、マーガリン色の選考が周囲を染め上げた。
この魔法は、僕が使える≪呪文≫の中でも強力な部類に入る。
僕は、≪呪文≫を宙に書くために切った、右手の人差し指を舐めた。
≪呪文≫は地文字で書くのだ。それから詠む。
このようにして僕は、≪昼穴≫から降ってきた≪廃棄物≫を倒した。
今日の≪廃棄物≫は、巨大で、タコに似ていた。
≪廃棄物≫は僕ら”都民”を喰べるから怖い。
”地上”に通じている≪昼穴≫から、この地底都市へと降ってくるのだ。
空に空いている穴だ。
”地上”は、≪廃棄物≫の巣窟らしい。
一方この地底都市は、善良な都民が多く暮らしている。
都市旗は≪クロ丸≫、都市歌は≪オレガ世≫。
絶対王政だ。
いつも暗い。夜だ。
「流石は、万年主席! 眉目秀麗! 生徒会長! α!」
……褒められた。照れくさい。
この地底都市には、αとβとΩがいる。
αは優れた人種、βは普通、Ωは性的な種とされている。
”地上”には、他に”女性”がいるらしいが、ここには男しかいない。
「流石ですね、ミカミ」
副会長のヒサワが、見物していた生徒たちの波を抜けてやって来た。
見ていたんなら、手伝ってくれればいいのに……!
「俺様を誰だと思っている?」
しかし、”俺様”あ生徒会長を演じている僕には、お願いなんてできない。
何故演じているかと言うと、実は僕は、王族だからだ。
ちなみに兄が国王だ。あとは、弟がいる。
絶対王政のこの国で、王族の威厳を崩すのはまずい。
「ミカミちゃんすごーい」
間延びした声で、会計のナオエが言う。
全くすごいと思っていなさそうだ。
この二人もだ。今この都市に、αは五人しかいない。
僕達三兄弟と、この二人だ。
双子の生徒会庶務と、寡黙な書記はβである。
最近編入して来た所為とのイオンがΩで、フェロモンを出しまくっているため、副会長と会計は仕事をさぼりがちだ。
αはΩのフェロモンに惹かれるのだ。
我が魔法学園には、生徒の自主性を伸ばすために、自主攻撃時間が設けられているので、生徒会役員は率先して≪廃棄物≫を倒さなければならないのだ。
それが仕事だ。
そんな中、俺は、フェロモンにも靡かず、まじめに仕事をしている(近寄らなければ、フェロモンに害はない。Ωも追いかけられて可哀想だ。親衛隊からは制裁を受けているらしいし)。
理由は――……初恋の人が、まだ好きで、その人を≪廃棄物≫に奪われたからだ。
幼馴染のヒルトが、≪昼穴≫に飲み込まれたのは、ちょうど七年前――十歳の時だ。
≪廃棄物≫の触手で、”地上”へと連れていかれてしまったのだ。
僕は今でも、どこかで生きていてくれると信じているが……望みが薄いのは、よく分かっている。
思わずため息を押し殺した。
――帰り道。
学園指定鞄を持ち、≪廃棄物≫を殲滅しながら、僕は城へと向かう。
いつもの事だ。
今日もいつもと変わらない一日が過ぎていく。
そう思っていた時だった。
「うわぁぁあああ!! 危!! 退けぇぇえええ!!」
「!?」
頭上から唐突にかかった声に、ポカンと口を開ける。
な、なんと≪昼穴≫から人が降ってきて――僕の上に落ちてきた!!
押し倒される形となった僕は、風の≪呪文≫で衝撃を緩和させる。
しかし、地上すれすれで魔法が切れて……気づくと唇が触れ合っていた。
空から降って来た人と、突然のキス、と言う展開に唖然とした。
そして――さらに驚くべきことがあった。
「ヒルト!?」
見間違えるはずがない。
そこに立っていたのは、初恋の相手、ヒルトだった!
「……ミカミ?」
「そ、そうだよ!!」
僕は、俺様口調すら忘れて、ヒルトを抱きしめた。
良かった!!
生きてた!!
「って事は、地底都市か……チッ。帰る」
「え? か、帰るって、え?」
僕を押しのけながら言うヒルトに、思わず首を傾げた。
「どこに帰るの?」
「地上に決まってるだろ」
「え」
”地上”は、≪廃棄物≫の巣窟だ。
変えるような場所じゃないし、何よりヒルトの家は、ちゃんと地底都市にある……よね?
そのはずだ。
「ま、真ってよ。僕ずっとヒルトの事、心配して――」
「あー、そういうの良いから」
「いや、本当に――」
「しっかしまぁ、相変わらず整った顔してるな」
「え、ええと……」
僕は赤面した。
――その時だった。
「!?」
急に甘いような匂いがして、意識がグラグラしはじめた。
「っと、悪い、発情期きたわ」
「――え!?」
発情期?
と言うことは、ヒルトはΩだ。
「ヤらせてくれ」
直球!
呆然としながら、必死で考えた。
この七年間、ずっとヒルトの事だけを想って生きてきたから、僕は童貞だ。
そんな僕にヒルトが抱けるのだろうか?
いやきっとできるよね。
僕、αだから優れた能力持ってるはずだし。
「ちょ、あれ? 待って!?」
しかし気づけば、押し倒されているのは、僕の方だった。
下衣を脱がせられる。
「挿れるから。力抜け」
「えッ!! 待、僕αだから、濡れないから!! 切れちゃうから!!」
全力で逃げようと試みる。
「それに普通、αがΩを押し倒すんだよ!!」
「知るか。俺、今、すっごい出したいんだよ」
「なッ」
そして――僕は、バックバージン(?)を失った。
そのまま一週間、ヤラれ続けた。
発情期だからなのか、ヒルトは絶倫だった……。
気づくと引っ張りこまれていた、何処かの廃ビルの一室で、僕は茫然とした。
――αなのに、Ωに強姦されてしまった……!
絶対にこんなこと、人には言えない。
というか、初恋の人に無理矢理されるって……!
「フゥ。いい汗かいたな! それに流石α! 後ろも優秀!!」
「え、いや……」
「俺達相性良すぎるだろ。”番”だな」
「え、え?」
「一緒に地上に行こう。拒否っても連れてくから」
「は?」
このようにして、僕は地上へ行くことになったのだった。
人生何が起こるか分からないものである。