【火朽×紬】来年も(★)







「縲はまだ帰ってこないの?」

 時計を見ながら僕が言うと、牛乳パックを傾けていた絆が顔を上げた。絆も今年は、ちょっとだけブレイクした。兼貞さんとセットというイメージ戦略は、成功していると思う。事務所が違ってもそういうのって出来るんだなぁ。

「お祖父様もさっき探していたな」

 絆はそう言うと、呆れたような顔をしてから、時計を見上げた。祖父の、玲瓏院統真(レイロウイントウシン)が一足先に玲瓏院家のお寺へと向かったのは、もう二時間は前の事だ。

「良いお年をって言いたかったんだけど、そろそろ僕も行かないと」
「――俺も出かける用事がある」
「兼貞さんと?」
「お、お前こそ火朽君とか?」
「僕は火朽君と今年も御遼神社の初詣に並ぶつもりだよ。絆はいつ帰ってくるの?」
「……久しぶりのオフだからな。ま、まぁ? て、適当に、その」
「良かったね。去年までは仕事が本当に無かったのに」
「うるさい!」

 僕の言葉に絆が牛乳を吹き出しかけた。兄の活躍が、僕は嬉しい。

「じゃあね、絆。良いお年を!」
「ああ。紬も。火朽君にもよろしく伝えてくれ」
「兼貞さんにもね!」

 こうして僕は絆と別れて玄関へと向かった。巫女さんのバイトをしている、楠原(クスハラ)の所に、ゼミのメンバーで集合して初詣の予定なのだけれど、それが終わったら、僕は火朽君と二人で、絢樫Cafeに行く事になっている。火朽君の部屋に遊びに行く。

 なんでも今年はローラさんは藍円寺へ、砂鳥君も御遼神社へ泊まりらしく、絢樫Cafeは僕達だけになるらしい。僕は火朽君の部屋には行った事が無いから、ドキドキする。その後僕は、御遼神社を目指してバスに乗った。

 到着すると、既に並んでいる人々が見えた。僕は人ごみを一瞥してから、待ち合わせ場所へと向かう。すると、時岡(トキオカ)と、南方(ミナカタ)が手を繋いでいた。男女の恋人同士であるから、堂々としていられる――のか、誰も見ていないと思ってイチャついていたのかは知らない。ゼミ公認の恋人関係の二人は、どちらかといえば控えめだ。付き合っていると、僕と火朽くんは無論公言していないけど、客観的に考えて、僕達の方がべったりしているような気がしないでもない。まぁ、南方と楠原の女子二名は、学内では一緒にいる事が多いし、同性同士の親友として見られているはずだから、僕と火朽君にも不思議はないと思いたい……。

「仲が良いですね」

 その時、僕の隣に立つ気配があった。見れば微笑している火朽君がいた。僕達は、ほぼ同じ時間に到着したらしい。僕達の姿を見ると、時岡と南方が、勢いよく離れた。あからさまに照れている。そこへ、宮永(ミヤナガ)と、日之出(ヒノデ)君も合流した。

 このメンバーで、同じゼミだからという理由で顔を合わせるのは、もしかしたら、今年で最後かも知れない。僕と火朽君は、大学院に進学するから一緒だけど、他のみんなは就職組だ。それが少し寂しい。だけど、卒業したら会えないという事もないと思う。

 そんな事を考えていたら、人ごみの中に、砂鳥君と、以前テーマパークへと来ていた、水咲(ミサキ)君という少年がいるのが見えた。多分水咲君も人間ではないと僕は思っている。ただ同年代の見た目の二人が、楽しそうにしている姿を見ていると、どこからどう見ても、人間にしか思えない。

 こうして僕らは並んで進んでいき、無事に初詣を終えた。
 ――その後。

「楽しかったですね」

 絢樫Cafeへと、タクシーを拾って戻った火朽君と、一緒に来た僕は、真っ直ぐに部屋へと向かった。火朽君のお部屋は、良い匂いがする。僕も同じお香を持っているから、なんだか嬉しくなってしまった。

「うん、来年も行こうね」
「ええ。再来年も」

 僕達はそんな事を言い合ってから、視線を交わした。すると立ち上がった火朽君が、寝台に座っていた僕を正面から抱きしめた。その温もりが嬉しくて、僕は彼の腕に両手で触れる。そのまま静かに、唇を重ねた。

 ドサリと音がしたと思った時には、僕は押し倒されていた。
 火朽君の首に腕を回して、僕は思わず笑顔を浮かべる。

「その次の年も、その次も、ずっと一緒にいたい」
「僕もです。初詣に限らず、様々な所に、色々な場面で」

 そのまま再度、唇を重ねた。そうしながらするすると火朽君が僕の服を脱がせた。僕もまた火朽君の服に手を伸ばす。火朽君が寝台の上に上がってきたので、それからも何度もキスを重ねながら、お互いに服をはだけあった。

「ん、ぅ……ッ、ぁ」

 火朽君の陰茎が挿ってきた時、僕は背をしならせた。挿入の衝撃には、まだ慣れない。お互い、実家と絢樫Cafeだから、中々二人きりになれる場所もなく、一緒にいる時間は増えたけれど、体を重ねた回数自体は、そう多いわけではない(と、僕は思っている)。

「あ、あ、あ」

 深く僕を貫いた火朽君が、緩慢に腰を揺さぶった。刺激が全身に響いてくる。

「もっと声を聞かせて下さい」
「ん、ぁァ……恥ずかし、っッ、あ……――ん!!」

 火朽君の動きが早くなった。肌と肌がぶつかる音がする。
 感じる場所を強く刺激され、僕は必死で息をした。いつも火朽君は余裕たっぷりの顔をしているから、すぐに余裕を失ったしまう自分が嘆かわしい。

「あ、ああ……あア!」
「愛しています」
「僕も――ん、ぁあ、あああああああ!」

 一際強く打ち付けられた時、僕は果てた。同時に、火朽君の放ったものを、内部に感じた。汗ばむ体で、僕はシーツに沈む。僕から陰茎を引き抜いた火朽君が、隣に寝転んだ。

「まだまだ夜が明けるまでには時間がありますね」
「うん……」
「姫初めは、続行です」
「ん!」

 その後再び唇を奪われた。そして体勢を変えられて、再び挿入された。
 こうしてこの夜、僕達は散々交わっていたのだった。