クリスマス




 落ち着いてクリスマスを迎えられるのが、俺は本当に幸せだ。
 だけど吸血鬼のローラは……普通にクリスマスを祝っているけれど、大丈夫なのだろうか? 十字架モティーフの飾りがついたリースが、堂々とかけられている絢樫カフェの扉を見て、俺は複雑な気持ちになった。

 本日はホワイトクリスマスで、綿雪が降っている。
 傘を閉じてから、靴とコートの雪をはらって、俺は店の中へと入った。

「藍円寺!」

 すると待っていたローラが、俺を見て、笑顔を浮かべた。綻んだ口元に、胸がドクンと啼く。ローラの姿を見ていられるだけで、俺は本当に幸せでたまらない……。好きすぎる。俺にとっての間違いなく天使だ。

「寒かっただろ? ほら」

 ローラはそう言うと、俺をカウンター席へと促す。最近ではここが俺達の定位置だ。

「悪いな」

 砂鳥くんがそこにホットココアを運んできてくれた。

 俺は甘党なのだが、あまりそうは見られない……し、俺自身も子供舌なのがバレたくないから、甘い物が好きな素振りは見せないでいる。その時だった。

「ほら」

 パチンとローラが指を鳴らす。

 すると目の前に、ブッシュドノエルが現れた。驚いてそのケーキをまじまじと見てから、ローラに顔を向ける。

「俺のお手製だ。藍円寺に食べて欲しくてな」

 その一言がいちいち嬉しい。

「しょうがないから……あ、いや、嬉しいから……その……食べてやる、えっと、いただきます!」

 俺の不器用な口は、いつもぶっきらぼうだ。
 その後、ローラが切り分けてくれたので、俺はフォークを手に食した。

 そうして夜が更けた頃、ローラに誘われて、カフェの後ろにある洋館へと向かった。

 当初はこの家が怖くてたまらなかったのだが、今は平気だ。
 あてがわれた客間に入ると、俺は腰を抱き寄せられた。

「愛してる」

 距離の近さに仰け反る俺に、ぐっと顔を近づけてローラが笑う。俺は、唾液を嚥下してから、勇気を出して、言葉を返した。

「俺も、ローラを愛している」

 これからも毎年、ローラとクリスマスを過ごせたらいいなと、俺は思っている。