守り刀





「やる」
「?」

 ある日有馬から短刀を手渡され、羽染は首を傾げた。
 おずおずと受け取りながら、困惑する。

「守り刀だ」
「は?」
「俺達はもう家族だろ?」
「……」

 守り刀は、持っている。勿論生まれた時に、奔放な晴親であっても良親に用意した。
 案外家族思いは父でもある。
 羽染だって終始大事にそれを身につけている。
 守り刀は、家族が増えるたびに、作って繁栄を願う代物だ。

「その、俺達の、家族だって証というかだな」
「有馬……」

 珍しく照れた様子の有馬を見て、羽染は思わず吹き出した。
 クスクスと喉で笑う。

「笑わなくたって良いだろ」

 すると有馬がふてくされたように顔を背けた。
 そんな有馬がいちいち愛おしい。
 こんな物無くとも有馬に対する愛は揺るぎない。けれど、こんな好意が素直に嬉しかった。嬉しかったのだ。

「貰っておく。僕も渡さないとな」
「いい。同じモノを作ってもらったからな。お前の洋装には合わないかもしれないとは思ったけど」
「そんなことはない。大切にするから」
「そうか」

 はにかんだ羽染を見たら、安堵と共に幸福感がこみ上げてきて、有馬もまた笑みを浮かべた。今日は羽染の帰りに合わせて、久しぶりにナポリタンを作っていた。

 二人で囲む食卓は幸せで、いつだって気分が、明るくなる。

「今日はどうだった?」

 羽染に日々の出来事を問うことから、大抵二人の食事は始まる。

「保科様がまた家時様とのお忍びデートをスクープされそうになって、もみ消すのが大変だった。家時様には自重して欲しい」
「家時様は保科様しか見えていないからな。俺も羽染しか見えないけど」
「っ」

 有馬の言葉に、カットレモンが入った水に手を伸ばしていた羽染が、思いっきり咽せた。
 有馬の何気ない一言に、いちいち動揺する自分がいることを、日々思い知らされる。

「そう言えば最近俺達もデートしてないな」
「有馬は、どこか行きたい所があるか?」
「羽染と一緒ならどこでも」

 どこでも……最も対応に困る返答に、羽染が視線を彷徨わせた。

「羽染は?」

 しかしその質問にこそ困った。羽染自身、有馬と一緒にいられるのであれば、どこでも良かったからだ。

「そうだな……有馬に見せたい景色なら色々な国にある」
「ワールドワイドって奴だな。スケールが大きすぎるって奴だろう」
「悪い、日本の最近の名所が分からないんだ。有馬の方が詳しいだろう?」
「お前が国外言ってる時は、仕事しかしてないから分からない。最近は昇進して飲みに行く機会も減ったしなぁ。行くとしても近場」
「――久しぶりに、普通に飲みに行くか?」
「いいかもしれないな。出会った頃みたいに安い店」

 そんなことを言い合い、懐かしいなと二人で笑う。
 今では、高級店にばかり接待で行く立場の二人だ。


 二人の物理的距離は時々離れるけれど、それでも心は常に一緒――そんな羽染と有馬だった。