花札




 花札が、畳の上に舞い散る。
 たまにはボートゲームではなくと話して、無理矢理羽染にルールを教え込み、本日は花札をした。有馬は当然ルールを知っていた。

 ――勝者はビギナーズラックだったのか、実力か、羽染だったりする。

 賭けていた。
 勝者は、その他全員に本日一ついうことを聞かせられると。
 羽染に言うことを聞かせてやろうと考えていた皆の当ては外れたが、羽染の願いなら、そう酷いことにはならないだろうというのが、全員の一致した見解だった。

 が。

「今日一日朝倉大佐は、酒をやめてください」
「え」
「山縣大佐は、今日一日禁煙を」
「な」

 案外大惨事が訪れた。その後羽染はじっと有馬をみる。
 有馬には、これと言った嗜好品はない。
 どんな頼みかと、有馬は一人、そうここでは本当に一人だけ、ワクワクしていた。

 朝倉と山縣は世界が終わったような顔をしている。

「有馬は、その……」
「その?」
「ぱ、パスタが食べたいから作ってくれ」

 その言葉に、山縣が足を組み直した。朝倉は手を組んで肘をつき、
 その上に顎を乗せている。

「それ贔屓だろ。いつも食ってるだろうが!」
「全くだね。これだから恋人同士は」

 すると有馬が、心底幸せそうな笑みを浮かべた。羽染は顔を背けて照れている。

「相思相愛ですから」
「有馬は、いいんです」
「羽染……!」

 有馬が羽染に抱きついた。離せと言って少しもがいたものの、最終的に羽染はおとなしくその腕の中におさまる。幸せそうで何よりだと、山縣と朝倉は思ったが、禁酒禁煙は地味に辛い。

 しかし一度約束してしまったのだ。
 意地というものがある。朝倉と山縣は視線を交わした。


 その日の昼は、トマトクリームソースのパスタだった。
 有馬の料理の腕前は着々と上がっている。

 ――しかしパスタを食べれば酒が飲みたくなる。
 ――食後には一服したくなる。

 朝倉と山縣は悶えていた。ここは羽染に簡単な復讐をしたい。二人の思いは一致していた。さすがは悪友だ。まずは山縣が言う。

「で、羽染は有馬のどこが好きなんだよ」
「え」
「まさか胃袋を掴まれたわけじゃねぇだろ」
「それは、その……」
「早く言え。上官命令だ」
「……真っ直ぐなところです」

 山縣は、さらなるダメージを受けた。これではただの惚気だ。
 何故惚気など聞かなければならないのだ。
 同じ思いの朝倉が今度は続けた。

「じゃあ嫌いなところは?」
「特にないです」

 即答だった。朝倉は辟易した気分になった。

「有馬の様々な部分が有馬だから、すべてを受け入れたいんです」
「羽染……! 俺もだ!」

 再び有馬が羽染を抱きしめた。
 今度は顔を赤くしつつも、羽染は大人しい。



 そんな一日だった。