【6】卒業式での告白


 雄太くんに関しては、その後ちょくちょく「どうなの?」なんて舞莉ちゃんに聞かれたが、雑談だと思って笑っていた。なぜならば、クラスでは特に話すでもなかったからだ。

 こうして小五までの間、私達は普通に過ごしていたのである。そして小五の年、彼はスポーツ少年団に入った。私は、この頃にはもう完全に健康体だったのだが、球技が苦手なので、入らなかった。クラスの大半の人が入っていたが、私は気にしなかった。しかし親はちょっと不機嫌になった。

「体力作りをした方が良い」

 そう……体重だけは、どうしても平均にいたらなかったのだ。身長も前から数えたほうが早かった。体育は普通にできるが、運動も大嫌いだったので、体力は全然なかった。

 私が運動で活躍できたのは、短距離走や走り幅跳びのような瞬発力でどうにかなるものと、後はマット運動とか跳び箱とか、そういうもの、他には入れていいのかわからないが一輪車と縄跳びであり、それ以外、できなかったのである。運動会の時は、大抵リレーの選手に選ばれたのだが、親はその時だけはいつも泣いて喜んでくれた。

 さて、母親は教師で、運動部の顧問を長らくしており、その競技で県大会優勝を果たすなどしてきた人である。この当時は、教頭先生になる前で、まだちょっとは暇があった。なので私は、習い事をいくつかやめたというのもおるが、特に休日等に、体力作りとして、母と運動した。やりたくなかった。心底嫌だった。

 だから、大嫌いなピアノをもう一度習いたいと言ったら、その時には続けている弟の腕前がすごすぎたのと、そして私の歌がド下手くそだと親も知っていて、私に音楽センスがないことを誰しもが知っていたため、却下された。

 ならば習字を再開したいと言った。よく在住地の賞をもらったから、もっと段をあげたら、きっとすごいと思うのだと力説した。その結果、書道で全国的な賞をもらったことのある父が、プロじゃないけど教えるよと言ってきた。上達したら、また習ったらどうかなと言われ、返す言葉を見つけられなかった。

 その他の習い事は、再開する理由が見つからなかったので、私は結局諦めた。

 こうして私の頭は、スポーツでいっぱいになり、次第に筋肉も付いた。
 みんなと身長も体重もそんなに変わらなくなった。
 そのようにして、小学時代が終わろうとしていたある日、というか卒業式当日。

 舞莉ちゃん達と記念に写真を撮っていたら、雄太くんに呼ばれて告白された。

 最近では女子間で恋バナがとても盛んだったというのに、いっさい私の話題が出ていなかったので、とっくにこの話は無くなっていたと勝手に思っていた。

 だが、違ったのである。雄太くんは、初恋を継続中だったのだ! 本日を最後に、中学校が別になるので学校では会わなくなる。だから言ったのだという。

 私は少しの間考えた。恋? そういえば、入院時代に初恋をした!
 けどあれも、今思うと、恋か分からないし、顔も思い出せない。
 ならば、他にもっと好きな人はいるだろうか?

 ――いる!

「直治さんが好きなの、ごめんなさい!」

 この頃は、純文学が好きだったのである。斜陽に出てくる人物名だ。

 のちの同級会の時、「まさか小説の登場人物だとは思わなかったっつの、バカ!」と言われたことを覚えている。ちなみに現在、雄太くんは自衛隊から出向して警視庁にいるらしいが、そういう制度については、私はよく分からない。子供が二人いるという。

 振られたことがショックだったのか、頷いたあと雄太くんはすぐにいなくなった。今思えば、悪いことをしてしまった。そして舞莉ちゃん達のところに戻ると、みんなに囲まれた。なぜなのか、全員が告白の件を知っていた。

 不思議に思いつつ結果を話すと、ポカンとされた。なんと彼女達は、私と雄太くんが両思いだと確信していたため、最近あえて話題を振ってこなかったらしいのだ。むしろ、付き合っていることを黙っているんじゃないかとまで考えていたらしい。

「どうして付き合わないの!? 中学別だから!? あんなに仲良かったのに!」
「え? 中学は別に関係ない……仲は、悪くはないけど、普通だし――恋愛対象として考えたことが無かったんだよね」
「いやいやいやいや、仲良かったでしょうが! 雄太が同じ委員会に入ろうとか、同じ係になろうとか、そういうこと言うと、全部いいよって言ってたじゃん! 席替えで隣にならないかとかも全部!」
「別に、それは、たまたまじゃないの?」

 みんなが絶句したことを覚えているが、私は幼かったので、意味がわからなかった。
 全部私のことが好きだったからであり、アピールであったのだと説明された。
 この時思った。そんなことを言われても困るのだ。

 もっと早くそういうことは教えてくれるべきなのだ!
 そもそも、もっと早く告白して、もっと早く私に考える時間をくれるべきだったのだ!

 この時私は、自分が悪いとは全く思わず、人のせいにした。