「お前相手で勃つかは分からない」と言ったら、待っていたのは逆アナル
親同士が決めた政略結婚。
お互いの会社が合併することになったからと言う理由で、それぞれが一族経営であったから、より結びつきを深めるため、御曹司の黒崎碧人の元に、令嬢の陽咲が嫁ぐこととなった。碧人の理解はこれだ。
碧人は長身で凜とした顔立ちの二十七歳、陽咲は二十四歳のゆるくふんわりとした華奢ながらも柔らかな線を持つ女性だ。
「あくまでもこれは政略結婚だからな。俺はお前を愛したりしていない。愛する気も無い」
これまで引く手あまたで女性遊びが激しかった碧人は、不服そうに言い捨てる。
陽咲は黙ってそれを聞いていて、白魚のような手を頬に当てると、少々困ったように笑った。
「それでは、白い結婚ということですか?」
「それは……ッ、抱いてやってもいい。後継者は必要だからな。ただまぁ、お前相手で勃つかは分からないがな」
忌々しそうに碧人は言う。か弱い陽咲を見て、その外見も押しに弱そうな優しげな性格も、実際には好みであったが、状況が気に入らない。
本心としては、碧人は決して陽咲が嫌ではなかった。
本当に気に入らないのは、状況だけで、個人的には陽咲は好きでさえある。
だが、陽咲の方にも愛がないのであろうし、碧人は恋愛結婚に憧れていた。ステータスだけでよってくる女性が好きではなく、そういう相手はヤり捨ててきた。それが、よりにもよって政略結婚などという最悪の結果に至るとは思ってもいなかったのである。
なお少し困ったような顔で柔和に笑うだけの陽咲の方は、どのような考えなのかは傍目には分からないから推測しか出来ない。ただ、人前でもきつい態度を碧人が取るものだから、周囲は陽咲に対して憐憫の視線を向けていた。
こうして二人の婚約をお披露目するパーティーの夜が訪れた。
二人で並んで立ち、その場でだけは、さすがに碧人も微笑をたたえて凜々しい男前ながらも優しい風に立っていた。碧人の腕に控えめに手で触れる陽咲もまた、やわらかそうな髪を揺らし、微笑している。
「本当にお似合いだ」
「美男美女というのは、このことを言うのでしょうね」
参列者の言葉に、碧人は謙遜して見せたり、陽咲を気遣う素振りを見せる。その辺りの外面は、さすがに慣れているようだった。
こうして宴もたけなわ。
パーティー後、碧人と陽咲は同じ部屋をあてがわれていた。ベッドは大きなダブルが一つ。ジャケットを脱ぎ捨ててネクタイを緩めた碧人は、吐き捨てるように息を吐くと、ベッドに座った。
「来いよ。抱いてやるから」
「まぁ……てっきり私が相手では反応しないのかとばかり……」
「あ? 一応お前も女だろ。そのくらいは……」
「私、碧人さんはてっきり勃起しないと思いまして、男性を元気にするという薬を海外から取り寄せましたのよ?」
「は?」
「この部屋に用意させてありますの」
目を丸くした碧人のそばに歩み寄り、優しげににこりと笑った陽咲は、ベッドサイドにある瓶を見た。一見すれば栄養ドリンクに見える。
「私のことが嫌いなのでしょう? どうぞ、飲んでくださいませ。勃起するか不安なのでしょう?」
「ッ、人を馬鹿にしたような……いいだろう。寄越せ。確かにないよりはマシだろうからな!」
碧人はそう言うと、瓶を手に取り蓋を捻る。そしてゴクゴクと飲み干せば、喉仏が動いた。陽咲は形の良い瞳で、じっとその姿を見ている。ふんわりとしたトップスに、洒落たスカート姿の彼女は、碧人の前に立つと、少し屈んだ。豊満な胸元の谷間が覗く。ドリンクを飲みながら、碧人はついそちらに視線が向いた。
――カッ、と。
全身が熱くなったのはその時のことだった。無味無臭のドリンクを全て飲み干してすぐに、胸の辺りから熱が広がり、碧人は目を見開く。
「あ」
碧人は瓶を取り落とした。絨毯に残滓が痕をつける。
ガクガクと震えが指先を走ったと思った時には、碧人は勃起していた。
「即効性だそうです」
にこりと笑った陽咲は、碧人の肩を押す。するとベッドの上に碧人は背中を預けるかたちとなった。陽咲もすぐにベッドに乗ってくる。陽咲はそれから、碧人のシャツのボタンに触れた。高級ブランドの、上質なシャツだ。
「ず、随分と積極的らしいな」
冷や汗をかきつつ、熱い体で碧人が強がりを言う。
そんな姿が――可愛い。内心で陽咲はそう思いながら、綺麗な唇の両端を持ち上げる。
「ええ。碧人さんがその気でない以上、私が頑張らなければなりませんから」
そう嘯いた陽咲であるが、実際には最初から碧人を啼かせたいと思っていただけである。自信家な俺様がブツクサと結婚を嫌がる姿は、どうしようもなく、屈服させてみたくなる愛らしさがあった。見た目はか弱い陽咲であるが、若干……か、どうかは判断に別れるものの、Sっ気があるのは否めない。
碧人のシャツのボタンを外し終えた陽咲は、続いてベルトを引き抜き、碧人の下衣をくつろげる。すると既に存在を主張している陰茎が外気に触れた。筋が浮き出ており、ピクピクと脈動している。
「っ、あ、おい……」
陽咲に親指で筋をなぞられた時、碧人は押し返そうとした。これならばいつでも、陽咲に挿入出来ると思ったからだ。だが、そこで気がつき、ハッとしたように目を見開く。
――体に力が入らない。
「な、なにを飲ませた……!?」
「ですから、元気にするお薬ですよ。多少の弛緩剤なども含まれておりますので、碧人さんはただ寝ていればいいです。私が全てシて差し上げますので」
慈愛に満ちた女神のような顔で、くすりと陽咲が笑う。その表情に、一瞬だけ碧人は見惚れたし、正直欲情して押し倒したくなったが――いかんせん、体が動かない。
碧人が体の熱に震えながら戸惑っていると、陽咲が開けたシャツの下にあった碧人の胸の突起に右手で触れる。
「な、なにを……っ、お、俺はそんなところじゃ感じない!」
「あら、そうなのですか?」
「だ、だから、離せ!」
「感じないのならば、何をしても平気なのでは?」
にこりと笑ってから、陽咲が碧人の左胸の突起を唇で挟む。そしてチロチロと舌を動かしてから、チュッと吸った。
「ぁ……」
すると体が敏感になっていた碧人は、思わず声を零す。なんとか自由になる震える手を持ち上げて、力が入らないものの陽咲の体を押し返そうと、肩に触れた。だがそれは叶わず、なのでせめて声を聞かれたくないからと、己の口へと手を持っていった。
その間も陽咲の胸への愛撫は止まらず、左胸の突起を吸っては舌先で弾き、逆側は手で摘まんだり捏ねたりする。そうされると碧人の両胸から、ジンっと体の奥まで痺れるような熱が染みこんでくる。唇を引き結び、碧人は陽咲を睨む。けれど涙がうっすらと滲み、情欲が見て取れる瞳には、迫力がゼロだ。
肉食動物が草食動物になったような変化が、たまらなく胸に響き、陽咲は恍惚とした表情を浮かべる。本当に、碧人は可愛い。
「ぁ、アっ!!」
左手で陽咲が碧人の右胸の乳首を、強めに抓む。すると、ビクリとして碧人が声を上げる。
「あら、もうこんなに真っ赤に尖って」
「っ、言うな……ぁ、ぁあ」
「それに女の子みたいな声を出していらっしゃるけど、感じないのではなかったのですか?」
「巫山戯るな!」
陽咲のわざとらしい声に、カッと赤面した碧人が、思わず声を上げる。
しかし体には力が入らず、抵抗できない。
「も、もう止めろ」
「そうですね。こちらの方を触って欲しそうですものね」
陽咲は白い指先で、外気に触れている碧人の、そそり立つ陰茎の筋をなぞる。零れている先走りの液を掬うようにすると、今度はネイルが綺麗な親指の腹で、くちゅりと碧人の鈴口を嬲る。
「うっ……ァ……」
その刺激だけで、碧人は出てしまいそうになった。だが、陽咲の手はすぐに離れる。
そして陽咲は、ベッドサイドからローションのボトルを手繰りよせた。
「っ、ハ」
碧人がもどかしさに震えていると、それまでの可憐さが嘘のように妖艶に笑った陽咲が、右手にローションをまぶす。そして人差し指で、ツンツンと碧人の窄まりをつついた。
「なっ」
驚愕して、碧人が目を見開く。
「お前、なにをする気だ……?」
怯えが混じった声が本当に愛らしい。喉で笑った陽咲は、たらりとローションが垂れる右手を、改めて碧人の前に見せる。
「元々は勃起しないのでしょう? このお薬がないと。だったら、他の場所で感じて頂こうと思いまして」
「へ……? っ、あア!!」
陽咲が、ぬめる人差し指をゆっくりと碧人の後孔へと差し入れた。最初は第一関節まで挿入し、それを弧を描くように動かす。そのままゆっくりと第二関節、そして第三関節まで進め、クチュクチュとかきませるようにしながら抜き差しし、解していく。
「ぁ、ァ……っ、おい! 止めろ!」
「あら? 女性には慣れておられるそうですけれど、胸もそうですが、もしかして未経験なのですか? まさかね?」
「な」
「処女なのですね、碧人さん」
「俺は男だぞ!?」
「だから?」
「え」
「天国、見せてさしあげますよ」
くすりと笑った陽咲の方こそが、これまでの清廉さが嘘のように、今この時は、肉食獣めいた眼差しをしていた。長い睫がゆっくりと動き、その黒い瞳には、獲物を捕る猫のような色が浮かんでいる。
指が二本に増える。中指と人差し指をバラバラに陽咲が動かし始めて、すぐの時だった。
「ああっ!!」
思わず碧人は声を上げる。刺激されると射精したくなる場所に、指が触れたからだ。
「な、なんだこれは!」
「ああ、前立腺、ここですね。分かりますか? 前立腺。保健体育、聞いておられました? 授業。頭がよくて留学経験もある碧人さんならご存じですよね?」
「ひっ、ぁ、そこは止めろ! 止めてくれ!」
碧人の制止には反して、陽咲の指の動きが激しくなる。そして強めにぐりっと嬲ったり、トントントンと甘く刺激を続けたりする。碧人の息にすすり泣くような音が混じり始める。既に完全に張り詰めている陰茎はピクピクと動き、目には艶がチカチカと宿っている。
「あ……っ、ぁ……あ、あああ! 頼む、ダメ、ダメだ、止め、っ、出る、出る、ぁ」
「中だけでイけるのですから、碧人さんは才能がある良い子ですね」
「うあぁ……ひっ!!」
そのまま前立腺を弄ばれて、碧人は射精した。飛び散った白液が、陽咲の愛らしい服を汚す。女性の中に放つのとはまた異なる、初めての達し方に、理解も体の感覚も追いつかなくて、はぁはぁと必死で碧人は肩で息をし、落ち着こうとした。
だが。
「あっ、嘘だろ……体が、熱いのが止まらな――うあっ」
「精力剤――……媚薬というのは、そういうものですよ。海外セレブ御用達の品で、体に害はありません。完全に合法のものですから、ご安心を」
くすりと笑いながらそう告げた陽咲は、それから再びベッドサイドに手を伸ばし、今度は箱を手に取った。それを傍らに置いて、蓋を開ける。取り出したのは、男性器の形を正確に模したペニスバンドだった。シリコン製で、赤い色をしている。陽咲は己の体に装着すると、力が入っていない碧人の太ももを持ち上げた。
「な、なにを……なんだよ、それ、それは……まさか……」
ダラダラと碧人が冷や汗をかいている。
陽咲がペニスバンドの亀頭部分を、碧人の窄まりにあてがう。
「嘘だろ、あ――っ!!」
ぐっと押し入ってきた亀頭の感触に、ぎゅっと目を閉じて碧人が背を撓らせる。その男らしい眦からは、涙が零れ落ちる。
「あ、あ、あ」
雁首部分までが挿いりきったところで、陽咲が動きを一度止めた。大きく荒い息をしている碧人が、イヤイヤとするように首を振っている。
「最初の威勢はどこにいってしまったんですか?」
「頼む……うっ……ぁ」
「ああ、もっと奥に欲しいということですね?」
「違っ――ゃああ!! ヤ、あっ、ッ――ンあ!!」
ぐぐっと陽咲がペニスバンドを奥へと進める。そう大きなサイズではないそれが収まりきった時、情けなく碧人は涙を零していた。
「ぁ……ァ……ああ!」
陽咲がペニスバンドで抽送を始める。ごりっと内壁を擦り上げるように動いては、前立腺に当たるように浅くし、そうしてまた深々と進める。その巧みな動きに、媚薬の効果もあるのだろうが、すぐに快楽がせり上がってくるようになり、碧人は怯えた。気持ちが良いのが怖い。
その心情が、手に取るようにわかり、陽咲は意地悪く笑う。
「や、っ」
「気持ちがよいのでしょう?」
「うっ、あ、誰が――」
「あら? まだ否定するのですか? もう、こんなになっているのに」
陽咲に指摘され、碧人は再び己の陰茎が硬度を増していることに気がつき、羞恥を覚えた。だがそれ以上に快楽が強すぎて、頭が混乱してしまう。
――今まで、このように乱れたこと、乱されたことは勿論ない。
――啼かせてやるはずなのに、啼かされている。
――感じるはずがないのに、気持ちが良い。
ぐるぐるとそう考える。だがそんな思考がすぐに快楽に塗りつぶされていく。
「処女ですものね。今日は優しくイかせてさしあげますよ」
「あっ……ああああ!」
陽咲が激しく打ち付け始める。腰を揺さぶられ、気づくと碧人の腰もまた揺れていた。そのまま前立腺を擦り上げるように、ごりっとペニスバンドが動いた時、碧人は震えながら大きく喘いで射精した。そしてそのまま、ぐったりとし、涙を目尻に滲ませながら、意識を落とすように眠り込んでしまった。
「本当に、愛らしいお方」
ペニスバンドを引き抜いた陽咲は、指先でその涙を拭ってから、唇の両端を持ち上げた後、碧人の額にキスをした。
翌朝。
碧人が目を覚ますと、体が綺麗になっていた。シーツの水面から起き上がった碧人を、そばのソファに座り珈琲を飲んでいた陽咲が見る。しばし目をまん丸にしてゆっくりと瞬きをしていた碧人は、直後カッと赤面し、俯いてぎゅっとシーツを握った。
「おはようございます、碧人さん」
「あ……ああ……お、おはよう」
「昨日は可愛らしかったです」
「!」
ビクリとした碧人は、チラリと上目遣いに顔を上げた。陽咲は悠然と笑っている。
「お、俺を馬鹿にして……」
「いいえ? 私では勃たないとおっしゃるから、私が頑張っただけですよ」
「……」
「気持ちよかったでしょう? これから、結婚したら、毎日私が愛でて差し上げます」
「なっ……俺は、べ、別に……」
碧人はしどろもどろに答える。それから窺うように陽咲を見た。
「俺のことが好きではないから、俺を無様な目に遭わせて楽しんでいるんだろう?」
「え? 違いますよ? 私は一目見た時から碧人さんがとても好みで、一目惚れしてしまって、父にも会社の合併を勧めたり、結婚のお話も私から父に言ったのですよ?」
「え?」
「私はきちんと碧人さんのことをお慕いしています。だから想いを遂げられて、昨夜もとても幸せでしたの」
にこりと笑う陽咲は、どこから見ても可憐な令嬢だ。昨日の、碧人から見れば激しいSEXをした女性とは、同一人物なのだがそうは見えないほどである。
ただ、それ以上に、碧人の胸は今、キュンとしていた。
――一目惚れ。
その言葉が嬉しかった。即ちそれは、『恋愛』ということだからだ。
政略結婚でさえなければ、碧人だって繰り返すが陽咲のことは本当に好みなのである。
「本当に俺のことが好きなのか?」
「ええ」
「……嘘だったら許さないからな」
「? 嘘など申しません。それより、朝食に遅れてしまいます。シャワーを浴びていらしては?」
と、こうして二人の朝は終わった。
以後。
婚約者であるから、結婚式の打ち合わせをはじめ、なにかと碧人と陽咲は顔を合わせた。すると、以前とは一転して、碧人の態度が軟化――……というよりは、完全に恋する乙女のような状態に変化した。チラチラと陽咲を見ては真っ赤になり、目が合うと緊張したように硬直してから逸らし、隣に並んでいれば物欲しげに陽咲を見て、時に陽咲が腕に触れようものなら、ビクリとして顔を緩ませるように変化した。
あまりにもの碧人の変わりっぷりに、周囲は、上手くいきそうで幸せそうな二人だなという感想を抱くようになる。それは結婚した後も、おしどり夫婦と呼ばれるようになり、誰しもが同様の感想を抱いた。そんな彼らは勿論知らない。夜ごと碧人が、後孔を陽咲に開発され、愛でられていることを。
体を契機に想いがきちんと交わるようになった二人であるし、ある種体が始まりだったわけではあるが、今、二人は幸せである。
―― 終 ――