【IF】西園寺ENDだったら






今日は久しぶりにルイズが家に来る。しかも今日はルイズの誕生日だ。
まさか何もお祝いをしないわけにはいかないだろう。うーむ。俺は一人腕を組みながら、プレゼントは用意したし、ケーキは用意したしとあれこれ考えていた。今年で小学五年生。
今後外部入学してきたりもする以上、次第にルイズと会う機会は減る。いや逆に言えば増えるのだが、増えたその時、俺たちが互いに面識があるという行動を取るかはわからない。
そんなことを考えているとルイズが家に着いた。

「久しぶり、誉」
「久しぶり。元気にしてた?」

もうルイズの身長は俺よりも高い。それからしばしの間雑談したあと、俺はプレゼントを渡した。小さな指輪である。陽の光に当てると七色に変わる代物だ。決して高価なものではないが、ルイズはこういう変わったものが好きなのを、俺はこれまでの生活で覚えた。

「ありがとう誉」
「ううん。気に入ってもらえた?」
「ええ、とっても。……だけど」
「どうかした?」
「もっとほかにも欲しいモノがあって」

ルイズがうつむきがちに言った。なんだろう? 俺に用意できるものは限られているんだからな!

「何が欲しいの?」
「誉の初めてが欲しいな」
「初めて?」
「目を閉じて」

首をひねりつつ、言われた通りにする。すると軽く口づけられた。びっくりして目を見開くと、いたずらっぽくルイズは笑っていた。ちょっと見惚れてしまうほどの美貌だ――ってちょっとまて。いくら女装しているとはいえ、ルイズは男だぞ! なんということだ! 俺のファーストキスが男に奪われてしまった!

「これからも、はじめては私にくれる?」
「……う、うん」

曖昧に頷きつつ思った。もっと自分を大切にしろ! ばか! と。


さて、そんな過去があった。俺はすっかり忘れていた。
思い出したのは、西園寺が在沼を注意するために走ってきたとき、運悪くぶつかった時だ。衝撃に俺は床へ激突しそうになったのだが、西園寺に抱きとめられた。腕を背中に回され、西園寺の体重を体で受け止めながら、庇われた事を悟る。
その時、西園寺のYシャツの下に、細いチェーンが見えて、アクセサリーが外へと出たのである。鎖の間に鎮座しているのは、いつか俺が上げた指輪だったのだ。そんなに気に入っていたのだろうか……? 驚いていると、焦ったように西園寺に言われた。

「怪我は?」
「ないよ」
「そうか。良かった」

立たせてもらいながら、俺は西園寺に礼を言ったのだった。
――その二日後のことである。
実は怪我はあったのだ。俺は手首を痛めていたらしい。みょうにじわじわ痛むなと思っていたら、捻挫していたそうだ。そのため体育の授業を休み、俺は保健室にいた。保健の先生は、所要で外へと出て行った。だからただぼんやりと一人で校庭を眺めていた。するとガラガラと扉の音がしたから振り向いた。入ってきたのは西園寺だった。

「怪我をしたそうだな」
「大したことはないよ」
「……そうか」

安堵するように吐息してから、西園寺が歩み寄ってきた。
そして急に俺を正面から抱きしめた。

「ずっと言おうと思っていたんだけどな、誉」
「いやあの、うん、言わなくてもいいから」

なんというカミングアウト。反射的に俺は、西園寺の言葉を遮っていた。
すると息をのむ気配がした。

「気づいていたのか?」

それはそうである。しかし俺は言葉を探しながら静かに笑った。

「何年来の付き合いだと思ってるの?」
「そうだな」

俺の言葉に西園寺は苦笑した。なんとか丸く収まりそうでほっとした時、不意に体重をかけられて、ベッドの上に押し倒された。

「――俺が言った言葉も覚えているだろうな?」
「え?」
「誉のはじめてが欲しい」
「ええと?」

覚えている。覚えていた。だが意味がわからない。
が、直後体で思い知らされたものである。
まぁそんなこんなで――俺と西園寺は付き合うことになった。

なんでも話を聞いてみれば、在沼の注意に精を出していたのは、そばに必ず俺がいるとわかっていたかららしい。なんだか聞いたときには笑ってしまった。


二人でひとつの寝台に寝転がり、同じ天井を見上げる。
もう今では、学外では少なくとも、西園寺が注意をされる側だ。俺もだけどな。

「お前とずっと一緒にいたくて編入を決意したんだ」

腕枕をしながらそんなことを言われた。俺は静かに目を伏せながら、これは甘い甘いピロートークなのかどうか悩む。二人きりの時、西園寺は本当に優しい。デロデロに溶かされてしまいそうになる。頭の中が、西園寺の放つ生クリームでベトベトに絡め取られていくような心境だ。だけど不思議と胸焼けはしない。

「僕も西園寺と一緒にいられて嬉しいよ」
「本心か?」
「どうして嘘だと思うの?」
「惚れたほうが負けだと言うんだろう? 日本では」

そう言ってくすくすと笑った西園寺は、それから俺の髪を撫でた。
どうなんだろう。
今では俺のほうこそが西園寺に惚れている気がしないでもない。学内ですれ違うだけでも緊張する。ちなみに俺たちが付き合っていることは、ごく一部しか知らない。言う気がないわけじゃないけど、聞かれないのだ。聞いてきたのは在沼くらいのものである。和泉には自分から話したし、西園寺がなぜなのか三葉くんには伝えたと言っていたが。

それからキスをして、二人で静かに眠った。そんな俺たちは、多分幸せなのだと思う。