【四】男娼のごとき成長(★)






 ――もう何日が経過したのかも分からない。
窓の無い部屋で、俺は意識がある時は、ずっと体を弄ばれていた。全身を熱が絡め取っていて、既にまともに思考する事が出来なくなっていた。

 目を開けた俺は、この日も残酷な快楽が訪れるのだろうと、漠然と考えていた。
 すると扉が開いて、ベリアス将軍が入ってきた。

「着替えろ」

 そう言うと、俺の拘束具を外し、ベリアス将軍がベッドの傍らの椅子を見た。そこには、箱に入った貴族服が置いてあった。樹の国のものとは異なる、火の国の服だった。俺はベリアス将軍の言葉には、逆らえない。言われた通りに、気だるい体を起こして、シャツに腕を通す。ベリアス将軍は、俺の首輪に触れてから、ニッと笑って、リボンを付けてくれた。樹の国の服には縁取りが無いのだが、火の国の服には必ず金の線が入っている。赤い装束を纏った俺は、ふらつく足取りを叱咤し、必死に立っていた。ベリアス将軍が、そんな俺の手首を握る。赤い痕が残っている。

「今日は侯爵家の方がお見えでな。樹の国でも有名だった美貌が見たいと仰せだ」
「……」

 僕の母は、確かに国一番の美姫と呼ばれていた。外見が瓜二つの俺の容姿も美しいと言われた事は確かにある。だが、俺は男だ。違和感がある。

「行くぞ」

 そのまま手を引かれ、俺はここに来てから、初めて部屋の外に出た。ふらふらしている僕の腰を抱き寄せながらベリアス将軍が歩く。そうして連れて行かれたのは、広い応接間だった。象の肌に似た色の長椅子に、でっぷりと肥えた貴族が三人座っていた。

「おお、連れてきたか」
「これがネルス殿下か。確かに噂の通りだな」
「どこまで開発したんだね?」

 卑しく笑う彼らの前に連れて行かれた俺は、その瞬間震えた。薔薇が、ジンと熱を帯びたからだ。彼らの視線を受けると、体が炙られたようになる。

「それはマーガス侯爵様達ご自身でお確かめ下さい」

 ベリアス将軍が俺の肩に手を置く。すると中央に座っていた中年の肥えた男が立ち上がった。そして正面から俺を抱きしめ、首筋を舐めた。それだけで俺は果てた。べちゃりと下衣が濡れる。俺の耳にマーガス侯爵が息を吹きかける。ポロポロと俺は泣いた。腹部には彼の脂肪が当たっていて、息からは嫌な臭いがする。だが、手つきはベリアス将軍よりも優しい。それが逆に辛い。そのままするするとリボンを解かれ服を開けられ、ギュッと俺は目を閉じた。

 絨毯の上に押し倒されたのはそれからすぐで、膨張した肉茎を挿入される。

「エーザイン伯爵、中々具合が良いがもっと可愛がってやりたい。乳首を愛でてやれ」
「おや、お優しい」

 クスクスと笑ってから、ひげをたたえた人物が歩み寄ってきた。こちらもでっぷりと太っている。彼は俺の背を起こすと後ろに回った。そして乳首を摘まみ、ゆるゆると指を動かし始めた。短く太いマーガス侯爵の陰茎では、俺の最奥には届かない。もう俺は、太く長いベリアス将軍のものやドリスのもので無ければ、物足りないらしい。乳首への刺激も羽を撫でるようなもので、全然足りない。俺は熱に浮かされたようになり、必死で呼吸して体の熱を逃そうとした。

「ユナーザ男爵は、確か足が好きなんだったかな?」
「覚えて頂いていて光栄です」
「舐めてやれ」
「有難うございます」

 最後の一人が歩み寄ってきて、俺の足首を掴んだ。

「ああ! ひ、ぁ!」

 挿入され、乳首を弄られながら、俺は足の指を口に含まれた。けれどどの刺激も物足りない。このように焦らされるような行為では、辛い。辛かった。思わず腰を動かすと、三人が楽しそうに笑った。そうして侯爵が腰を揺さぶり始め、すぐに内部に放った。そこからは、三人に交互に中を暴かれた。だが俺は果てる事を許されなかった。黒薔薇の魔力だ。

 その後体勢を変えられ、口に陰茎を挿入され、後ろからも犯され、横からは精子を体にかけられる。この夜は、ずっとそうして体を辱められた。

 果てられないままで朝を迎え、三人が帰って行くのを絨毯に転がったままで俺は見ていた。見送りに出た後、戻ってきたベリアス将軍は、俺を見ると馬鹿にするように吹き出した。そして――じっと俺を見た。その視線を感じた時、ドクンと黒薔薇が疼いた。

「ああああ!」

 見られているだけで、俺は果てた。そのまま意識が途絶した。待ち望んでいた解放だった。

 このようにして――俺の毎日には、貴族に嬲られるという行為が加わった。
 どんどん体を開かれていく。黒薔薇へ注がれる魔力が強くなっていく。
 何も考えられない人形のように、俺はただぼんやりと日々を過ごしていった。

 それが数年、続いたようだった。俺が明確に、期間が一年だと知ったのは、ある日貴族達が日時を述べていた時だ。火映歴二十三年――樹の国の暦も、火の国由来だったから同じだ。俺は、十四歳になっていた。二次性徴を迎え、背が伸びはじめいた。時折、繋がれている体が、成長痛を訴える。ある日には喉が痛み、声が少し低くなった。

「艶が出てきたな。この細い腰、たまらない」

 ベリアス将軍は、そんな俺を見ると唇の両端を持ち上げる。今日の俺は、壁に貼り付けれている。十字架に拘束されているのだ。そして、じっと見られている。今の俺の体は、視姦されるだけで果てるようになってしまった。

「その絹のような黒髪が、白い肌によく映えるな。紫色の瞳も美しい。まるで蝶のように、そうして壁に止まっている姿も悪くない」
「あ……ァ……ああ……犯して……犯してくれ……」
「言い方もきちんと覚えたか」

 すると歩み寄ってきたベリアス将軍が、ツツと俺の陰茎を指で撫でた。反り返った俺の陰茎の先端から垂れる雫を手に取った将軍が、口角を持ち上げる。

「今日はプレゼントをやろう」

 そう言うと、ベリアス将軍がポケットから小箱を取り出した。そこには、ボディピアスが入っていた。わっかがついている。

「あああ! うああ」

 俺の右の乳首に、ベリアス将軍がそれをはめた。痛みは無い。強い快楽だけがある。これにも魔力がこもっているらしい。

「ひ、あ、いやああ!」

 続いて左乳首にもピアスをつけられた。俺の双眸から涙が筋を作って流れていく。
 ダメだ、気持ち良い。体が熱い。俺の左胸に広がっている黒薔薇から、快楽が溢れていく。

「あ、あ、早く挿れてぇ」
「もっと啼け。そうすれば、その願い、叶えてやっても良い」

 そう言ってベリアス将軍は笑ったが、この日、挿入してくれる事はなく、終始僕を見て笑っていた。涙する事と喘ぐ事以外許されない僕は、惨めだ。これは、弟を見捨てた報いなのだろうか。どうしてこんな事になってしまったのだろう。