【十二】罪(※/★)





 今日は目隠しをされ、木馬に乗せられている。公爵が木馬の端を蹴る度、俺は声を上げて泣いた。襲いかかってくるのは、今は痛みだ。だが、公爵が指を鳴らせば、それは快楽に変わる。もう訳が分からない。

 ただ泣くしか出来ない日々の中で、俺はもう考えるのを放棄した。
 痛くなければそれで良い。

「お願いだ、もう、もう痛くしないでくれ、いやぁ」
「――どうすれば、痛みを与えられなくなると思う?」
「分からない、分からな――あ、ああ、助けて」
「どうすれば、助かると思う?」
「あ、は、お願い、お願いだから、もうやめてくれ」

 ボロボロと泣きながら俺が言うと、公爵が俺の目隠しを取った。そして俺の耳元で囁いた。乳首を摘まみながら、公爵は言ったのだ。

「調べておいたぞ、お前の身元を」
「あ、あ……」
「ネルス殿下、か。よりにもよって敵国で兵器を生み出すとはな」
「ッ、ぁ……ああ……あ……あああああ気持ち良い、やぁああ」
「――さて。今日はプレゼントがあるんだ」

 公爵はそう言ってから、扉の方を見た。

「入ってくれ」

 ギシリと音がし、扉が開く。涙で滲んだ瞳を向け、直後俺は目を見開いた。

「まさか」
「――お久しぶりですね、ネルス兄上」
「ミネス……ミネスなのか? っく、あ、あああああ!」

 俺が成長した弟の名を呼んだ時、公爵が木馬を蹴った。壮絶な快楽に襲われ、無我夢中で俺は首を振る。

「感動の対面だな。樹の国の末期に、増援に言った地の国で、弟君を救出保護していたんだ」
「ええ。地の国は、これまで僕を保護してくれました。僕を見捨てて逃げた兄上とは違い、慈しんで育ててくれましたね。大変恩義を感じていますよ」

 冷たい表情で、ミネスは俺を見ている。一目で分かったが、今年で――俺はもう十八になっているから、十歳になったはずのミネスは、少しだけ大人びて見えた。

「さすがは僕を置いていっただけあって、堕落が早い。淫乱だと噂には聞いていましたが、これほどとは。僕を見ても、快楽に飲まれている」

 冷徹な声、子供らしからぬ言葉を、ミネスは放つ。俺は快楽と悔恨に同時に苛まれて、体を震わせた。

「亡命国家の樹立準備は既に整っているが、計画通りミネス殿下が即位するという事で構わないのだろうね?」
「ええ。兄上には、そんな資格はありませんから。今後は政略の道具になってもらう事とします」
「君は大人だな」

 俺の口の中に指を入れ、舌を弄びながら、公爵が笑った。
 踵を返し、ミネスは出て行く。俺の中で、何か糸のようなものが切れた。絶望感が襲ってくる。ああ、恨まれている。自業自得だと、分かっている。それでも辛い。だが、生きていてくれて嬉しい。しかしこの気持ちを、どう伝えれば良いのか分からない。

「暫く木馬で遊んでいると良い。私はミネス殿下と会談をしてくる」
「いやああああ、痛い、いやああああ」
「お前が悪いんだ」

 俺の頬を伝う涙を舐めてから、公爵が歩き去った。その日、俺はずっと痛みに耐えていた。気絶したのがいつだったのかは分からない。


「う……」

 目を覚ますと、俺は久方ぶりに服を着ていた。
 そして、見知らぬ場所にいた。

「目が覚めましたか、兄上」
「ミネス……」
「魔法陣で移動しました。ここは、地の国の王宮です」
「……」
「兄上、僕は一生貴方を許さない。復讐させてもらいます」

 ミネスは寝台に横たわっている俺を冷たい表情で見おろしてから、唇にだけ笑みをはり付けた。俺はその表情を見ていたくなくて、きつく目を閉じる。

「ただ一つ、仕事として、こちらの兵器ともなる神産みだけはしてもらいます。そのためにも、その淫らな体に、再び樹の神の魔力を戻さなければ。ああ、貴方なんかと交わらなければならない人々が哀れだ――入れ」

 ミネスがそう言うと、扉が開き――懐かしき樹の国の服を纏った人々が入ってきた。その姿に、中には見慣れた顔もあって、俺は生きていた事が嬉しくなった。しかし人々は、皆冷たい顔で俺を見ていた。

「犯して魔力を注げ」
「御意」

 同意した人々が寝台を取り囲んだ。俺が青ざめていると、嘗て近衛騎士団長をしていたマイダだ俺にのし掛かってきた。

「ミネス殿下を置き去りにした非道な行い、決して我々は許しませんよ、殿下」
「……っ」
「魔力を注ぐ――良い口実だ。その性根、たたき直して差し上げますよ」

 冷酷な顔でそう言ったマイダが、俺の纏っていた服を引き裂いた。
 直後、他の人間のも寝台に乗ってきた。彼らは俺の体を後ろから抱いたり、前からじっと見つめたりした後――炎で真っ赤になった鉄の焼き印具を俺の前に掲げた。

「うあああああああ」

 俺の太股に焼き印が押しつけられた。じゅっと皮膚が焼ける音がした。痛みから俺が絶叫するが、皆冷たい顔をしているだけだった。これは、罪人印だ。これを押された者は、樹の国において、全ての権利を剥奪され、人として扱われなくなっていた。概念では、俺も知っていた。講義で習ったからだ。

 鉄が離れると、肌に刻まれた罪人印から魔力が零れた。

「さぁ、罪を償ってもらいましょう」


 そこからは、昼夜など関係無く、俺は同郷の人々に犯された。魔力のこもる精液を注がれ続け、膨れた腹部、黒薔薇の刻印の力が薄れているのに菊門は広がってしまい、ひっきりなしに精液が零れていた。この寝台にも排泄不要の魔術がかかっているらしかった。だが、食事は必要らしい。けれど俺には、三日に一度、ひなびた野菜の皮が与えられるだけだった。それでも無いよりはマシだ。

 泣き疲れ、声は枯れ、俺は終始虚ろな瞳をしていた。俺が眠っていようが起きていようが、人々はお構いなしだ。その内、いつしかミネスの背が伸び始めた。俺は、気づけば数年に渡り、その環境に置かれていた。

「兄上、今日は兄上の誕生日ですね。二十一歳。おめでとうございます」

 ミネスは十三歳になっていた。俺がミネスの手を離したのと、同じ年齢だ。
 俺の顎を持ち上げたミネスは、俺を睨み付けると、唇にだけ弧をはり付ける。

「地の国の第一王子殿下が、兄上の存在を知って、興味を示しておられますよ。非常に光栄だ。神産みの第一候補の相手でもあります。失敗しないで下さいよ。いつもの通り、ただ喘いでいれば良い。ああ、汚らわしいな」

 吐き捨てるようにそう言うと、強引にミネスが俺を立たせた。俺はふらつく足取りで、ミネスの後に従った。