【二十一】陥落(※/★)






 バシン、と、音がする。ベリアス将軍が魔王となり建造した城において。俺は鞭打たれていた。痛みが臀部に走る度に、同時に快楽も駆け抜ける。

「真っ赤だ。しかしこれで射精できるのだから、本当に淫らだな」
「あ、あ……もっと、もっと叩いてくれ……うう……うあ、ァ」

 夜通し俺は鞭で打たれた。背中も尻も、茨の痕が突いているらしく、翌朝目が覚めたらシーツが血で汚れていた。俺は、再び黒薔薇の刻印で、射精管理をされる体に変わった。ベリアス将軍――……魔王ベリアスの許しが無ければ、果てられない体となったのだ。

 普段俺は、首輪を付けられ、繋がれている。
 その端は、玉座の肘掛けに繋がっていて、玉座に座った状態で魔王は俺を貫きながら、部下となった者達と謁見をする。果てられないまま腰を揺らしている俺をねっとりと眺めながら部下達は、口調だけは真面目に言葉を放つ。しかし、魔王のそばを離れれば、皆が俺を犯す。

「また部下を誘ったらしいな」

 俺は輪姦されたのだが、それを見通す目を持っているはずの魔王は、意地悪く笑って、この夜も俺のがわに罰を与えた。

「ひ、ぃ……う、ッ――」

 膝を立てて座らされた俺は、陰茎に細いチューブを突き立てられた。魔導医療用のカテーテルが、ゆっくりと俺の尿道を暴いていく。震えながら快楽に怯え、同時に期待していると、前立腺をその先端が刺激した。ぐぐっと刺激された瞬間、プツンと俺の理性が途切れ、あまりにもの快楽に声を失う。その後、チューブを通して、媚薬を注がれた。

 もう俺の体が熱を孕んでいない時は無い。

「あ、あ……挿れて、挿れてくれ……あ、あ。ベリアス様、ベリアス様ぁ……!!」

 俺は、ベリアス様と呼ぶ事を義務づけられている。それ以外の名で呼ぶと、罰が酷くなる。今、俺の体の内側には、魔王の魔力がたまっている。もうすぐそれは形となり、俺と魔王の間の子が生まれるそうだ。魔族に変化したベリアス将軍の子は、闇の光の形で産まれてくるのだと囁かれた。

「産むまでは安静にしなければな」
「あ、ああ……あ……ひ、ぅ……うう、ン――!!」
「今日は日取りが良い。産んで見ろ、俺の後継者を」

 それを聞いた直後、俺の体の内側で魔力が固まる気配がした。俺の体から闇色の光が溢れ、直後、黒い蛍に似た巨大な闇が出現した。

「よく出来たな」

 片手でその巨大な光をたぐり寄せ、俺の体を放置して、魔王が出て行った。その夜俺はずっと、尿道へと媚薬を注がれていた。俺の体は、液体を与えられると全て吸収するように作り替えられていた――その夜は。日ごと、魔王は俺の体を作り替えて、弄ぶ。

 ぐったりとしていた翌日は、昼過ぎに魔王が顔を出した。玉座の間に連れて行かれない日というのは、魔王の休日だ。それは、俺にとっては残酷な一日だ。

「熱い、ああああ!」

 ダラダラと蝋燭を背中に垂らされ、俺はシーツを握りしめる。

「火傷をしない体に作り替えてやったんだ。問題はない」
「熱い、いや、嫌だ、熱い、いやあああ」
「そんなに嫌か? では、何が良いんだ?」
「あ、あ、あ……ベリアス様の、あ、早く、う、うあ、挿れてくれ……ひ」
「俺の何を?」

 意地悪く中指の先だけいれ、魔王が俺を嘲笑う。ガクガクと震えながら俺は懇願した。

「あ……ベリアス様の、う……あ……」
「――まぁ良い。俺も今日は、後継者を得て気分が良いからな」

 魔王が俺に、太く長い肉茎を突き立てた。一気に根元まで挿入され、結腸をぐっと押し上げられ、俺はその衝撃で放った。今日は放つ事を、刻印が許しているらしい。それはそれで、俺にとっては辛い。もう果てられないと思っても、魔王が満足するまでイかせられるという事だからだ。

 巨大なもので貫かれた状態で、太股を持ち上げられる。不安定な体勢で魔王の上に乗った俺は、身動きが出来なくなって、ガクガクと震えた。

「そういえば、折角俺が贈ったピアスを、どこかでなくしてきたようだな。またつけてやらなければな」
「ひ」

 乳首を強めに噛まれ、俺はまた射精した。そのまま魔王が動かなくなったため、繋がった状態で、ずっと感じる場所を押し上げられる事となり、快楽から俺は泣きじゃくった。しかし魔王は動かない。

「たまにはスローも良いだろう?」

 ニヤニヤとそう笑う魔王の前で、俺はタラタラと液を零した。よだれも零れる。涙も止まらない。だが――幸せだった。黒薔薇の刻印が、教えてくれるのだ。魔王が俺を求めていると。トロトロと炙られるように、体が熱くなっていく。同時に、心が癒やされていく。魔王だけは、俺をきちんと求めていてくれるような気がするのだ。

「錯覚だぞ?」

 何か囁かれたが、俺は理解出来ない。ただ泣いていた。
 魔王がべろりと俺の首筋を舐める。そして噛みついては、強く吸い付いてくる。

「背中に散った傷も、花のようで良いな。もっと鞭うってやろうな。今度。期待していると良い」
「あ……あ……もっと打って、お願い、打って」
「そうだ。正解の言葉を覚えてきたらしいな」
「ベリアス様の好きにしてくれ、俺を、好きにして」
「ああ。よく分かっているじゃないか」
「だから動いて、動いてぇ、も、もうだめであ、いやああああ」

 中だけで俺は果てた。白液は出ない。衝撃で目を見開くと、ボロボロと涙が落ちていった。全身を快楽の漣が襲っている。怖い。また、クる。

「あああああああああああああああ!」

 直後、ぐりと最奥を刺激され、俺は気絶した。
 目が覚めた時、俺はバシンという音を耳にした。背中が痛む。ああ、俺はまた、打たれている。それが、気持ち良い。

「見ろ。お前の痴態が、鏡に映っているぞ」

 鞭打たれる度に放つ俺の姿が、確かに正面の大きな鏡に映っている。
 涙でドロドロの俺の顔は、蕩けきっていた。

「愛おしいといえば、愛おしいんだ。健気に俺を追いかけてきて、黄泉の国から解放してくれたのは、紛れもなくお前だからな」
「う……あ、ア……もっと、もっとぉ……ああ、叩いて、お願い、あ、あ」
「もうじき、人の国の征服が終わる。そうしたら、きちんと俺の妃にしてやろうか?」
「ああ……ぁ……あ……あア」

 鞭打つのをやめた魔王が、ゆっくりと俺に屹立を挿入した。その切ない感覚に、俺は震える。もどかしい。中は満杯だが、連日の行為で、俺の体は解けきっている。

「嬉しいだろう? 喜べ」
「あ……ああ……俺、は……ベリアス様の、お妃様、う……あ」
「そうだ。お前ほど汚れた体の人間を、俺以外の誰が愛してやるんだろうな?」

 魔王が『愛』と述べた瞬間、黒薔薇の刻印から熱が広がった。

「随分と俺に愛されたいようだな」
「あああ……俺、もう、嫌だ。辛いのは、一人は嫌だ、お願い、あ」
「――心を堕とすのは、少しは面白いかと思ったが、意外と簡単でつまらないな」
「ベリアス様、あ、好き、大好き、愛してる」

 何度も言うようにと記憶させてた言葉を、無意識に俺は紡いでいた。本心であるはずがないのに、繰り返していると不思議とそれが真実のように思えてくる。

「そんなに俺が好きか?」
「好き、あ、だから、あ、早く、動いて。突いて、もっとめちゃめちゃにして。俺の体、もうダメだから、あ、あ……」
「そうだな。お前のような雌に堕ちた淫乱など、俺以外もう食指も動かんだろう。いいな? 今後は俺の部下を誘惑するなよ? 破ったら、捨てるからな」
「いや、捨てないで。お願い、ずっとそばにいて」
「可愛い事も言えるようになったんだな。ああ、馬鹿な子ほど可愛いというのは真理だな」

 嘲笑いながら、魔王が律動を開始した。すぐに俺は、快楽に飲み込まれた。