【十二】通じた心




 そうして冬が訪れた。しかし二人の心は通じているから温かい――そのように、青海は考えている。

「配偶者の別姓制度も考えものだな。全く気付かなかった」
「見角大尉と束瑳大尉のご夫妻には、俺は何度も食事を振る舞ってもらったから、てっきり知っていると思っていた」
「俺は普通に、見角大尉には嫉妬しかなかった」
「嫉妬……」

 そんなやりとりをしながら、ソファに座っている青海は、後ろから明楽に腕を回され、素直に抱きしめられていた。青海は現在、ノートパソコンで持ち出しが可能な範囲の仕事をしている最中だというのに、ベタベタと明楽が構ってくる。しかし悔しい事に、鬱陶しいが嫌ではない。明楽の事が大好きだ。

 そんな二人の元には、合成児の受胎の知らせが届いている。
 来年には、新しい家族が増える事が決まっている。

「名前、どうする?」
「緋鳫(ひかり)にしよう。明楽緋鳫」
「理由は?」
「直観だ」
「そうか」

 戸籍上は、現在青海も、明楽透という名前にしている。それを理由に、最近では、お互いを『溟露』と『透』と呼び合うようになった。自然と明楽に提案され、『子供にもわかりやすいだろう』と言われたので、特に疑問も抱かず、青海は頷いたものである。

「早く仕事を片付けろ」
「ああ」
「ベッドに行くぞ」
「……がっつきすぎだ」
「お前は思ったより淡泊だった。ストイックは体によくないぞ」
「溟露が絶倫すぎるんだ」

 そう零してから、青海が仕事を終え、ノートパソコンの電源を落とす。
 するとその顎を掴んで、後ろから明楽が口づけをした。

「ん、ぅ……」

 ねっとりと口腔を貪られ、すぐに青海はキスに夢中になった。明楽の優しくも激しい口づけが、青海は好きだ。

 その後は寝室へと移動し、二人で互いの服を脱がせあい、睦みあう。明楽に手ほどきされて、青海は少しだけ、家事能力の他に口淫の技巧も覚えた。手ほどきするからと言って、最初は専ら明楽が青海の陰茎を咥えていたものだが、その後の指導は容赦がなかった。今も、青海は明楽の太く長い陰茎の先端を咥え、必死に頬を動かしている。

 相思相愛になり、気持ちが通じてからの性交渉は、媚薬が齎す灼熱とは異なり、穏やかで満たされる。

「もう良い、挿れるぞ」

 明楽の言葉に、青海が口を離す。口淫をしている間に指でじっくりと解されていたので、すぐに繋がる事が出来た。挿入時の衝撃と温度にも、青海はだいぶ慣れた。この日はバックから交わり、緩慢に抽挿された。

「ぁ、あ、ああ……ん、ぅ……っ、ぁ」
「お前、この体位好きだよな」
「ん、ン……っ、ぁ……違う」
「違うのか?」
「俺は溟露が好きなだけだ。だから、全部好きだ」
「もっと言ってくれ」
「ああああ!」

 明楽の動きが激しく変わる。何度も打ち付けられ、腰を揺さぶられ、青海は快楽に飲まれ始める。そして内部を散々に貫かれ、気づくと射精していた。しかし明楽の動きは止まらない。

「待ってくれ、まだ――ああ、ァあ!」

 そのまま連続で絶頂を促され、青海は次は、中だけでドライオルガズムの感覚を得た。長い絶頂感に全身を襲われ、寝台にぐったりと沈むと、その背中に明楽が体重をかける。そして陰茎を引き抜く事はしないままで、寝バックの体勢でぺろりと震えている青海の首を舐めた。

「んン――!」

 舌の刺激にすら感じ入り、青海が必死で吐息する。快楽由来の涙で濡れた黒い瞳が凄艶だ。明日は非番の週末だという事も手伝い、この日も散々交わった。

 なお、最近の特殊対策班は落ち着いている。それは、青い月の拠点を潰しきった成果だ。既に、罔象市内部での摘発は完了し、任務は成功となった。今後は、また進入された際や別組織の対策が、課題となってくる。残党がいないかの確認も怠る事はしない。だが基本的な任務の多くは、通常訓練や他の機関との連携の調整となっている。

 事後、二人で寝台に寝転びながら、青海と明楽は視線を交わした。

「早く来年になるといいな」
「そうだな、溟露」

 頷いた青海の頬に口づけをしてから、明楽が双眸を伏せた。仮眠を取るつもりのようだ。それを一瞥してから、青海もまた目を閉じる。

 ――なお、翌年二人の元にやってきた緋鳫という子は男子だった。
 成長するに従い、顔立ちは明楽に似ていると判明した。その上、自分に懐いてくれる事もあり、青海は溺愛してしまう。特異な能力は、明楽と青海の両方の力を受け継いでいるはずだが、その訓練の開始よりも、明楽が青海に可愛がられている緋鳫に嫉妬して、青海を抱き潰す頻度が増えた方が先だった。明楽もまた子供は可愛いと思っていたが、今もなお、青海にベタ惚れである。仕事が落ち着いているのもあるから、乳母は雇わず、基本的には青海が特に育児をして二人で緋鳫を育てている。

 数年後には、第二子も迎える決意をし、そのようにして青海と明楽は配偶者として幸せな家庭を築いていった。その後、何度も季節は廻ったが、二人の仲は今も順調である。






     【完】