キスを終えてから、俺はライナス様を見上げた。俺の顔を両手で挟んでいるライナス様は、目が合うと照れくさそうな顔をしてから、顔を背けた。
「同意を得てからするべきだったね。キスしても良かった? 終わってから聞くのもなんだけど」
「……」
羞恥に駆られて、うまく言葉が出てこない。
「もっと聞きたいのは……俺の恋人になってくれるかな?」
ライナス様も照れているように見える。その時ライナス様の腕が、俺の腰を強く引き寄せた。俺達はお互いに照れた状態のままで抱き合っている。
「ライナス様」
「何?」
「俺は魔族だから、人間の恋人同士が何をしているのか知らなくて。恋人になったら、何をするんだ? 俺に出来るかな……」
「別に何かを求める気は無……くはないけど、本音としてはそりゃあ、あるけど……ええと、別に今のままのベルで何も問題はないよ。ベルに出来ない俺が求めることは、俺が一から丁寧に教えるから」
それを聞いて、俺は少しだけ肩の力が抜けた。
「本当に教えてくれるなら、ぜひ!」
俺が精一杯明るく答えると、ライナス様が心なしかホッとしたような顔をした。そして俺の髪を撫でてから、今度は俺の額にキスをした。
「これはね、人間にとってはお礼への返事じゃないから、俺から以外はキスされちゃダメだよ。手の甲でもダメ」
「そうなんですか?」
「うん。抱きつくのも俺以外にはダメだ」
「なるほど」
頭の中で俺がメモをしていると、ライナス様が俯いた。そして今度は俺の両手を取ると、勢いよく顔を上げた。
「あ、あの……ベルさえ嫌じゃなかったら、そこのベッドに行かない? やっぱり既成事実も欲しいというか」
「ベッド? はぁ」
たった今言葉を交わして既成事実は出来たと思うのだが、ライナス様はもっと何かを求めているようだ。せっかく恋人になったのだから、俺は何か望まれたら当然応えたい。
手を引かれてベッドに座ると、ライナス様が俺の首元に手をかけた。そしてリボンを引き抜いた。ここにきて俺はやっと、ライナス様が俺に何を求めているのか理解した。エロスだ!
俺の鎖骨を指でなぞりながら、ライナス様が俺の目を見た。その瞳が獰猛に見えてゾクリとしてしまう。
「そんなに緊張しないで」
「ぁ……」
鎖骨に口付けられて、俺はピクンとしてしまった。緊張するなと言う方が無理だ。魔族の恋人同士は、甘い言葉も掛けあわないが、あんまりお互いの体も求め合わないからである。そういう行為もあるとは知っているが、大体の場合それは結婚してからだと言われている。よって、俺には知識がほぼない。何せ恋人がいなかったから結婚もしたことがないのだ。
「あ、の……」
「ん?」
「ライナス様は俺と結婚したいですか?」
「……まぁ、別に好きな相手だから結婚しても無論いいけど、俺はそう言う形にとらわれたいわけじゃないよ。既成事実というのは、ベルが欲しいという意味だけど、それはわかる?」
ライナス様の声に、俺は悩んだ。人間の制度がさっぱりわからない。ただ聞いた感じ、人間の恋の形は魔族とは異なり、恋人同士でも体を求めるものなのだろう。
「あ」
その時右の乳頭を唇に含まれて、そうした思考が吹っ飛んだ。ジンと甘い疼きが、舐められた箇所から全身に広がる。初めての感覚だった。
「ぁ、ぁ」
そのままチロチロとした先で刺激されて、思わず俺はライナス様を押し返そうとした。しかしライナス様は俺よりも筋肉があったらしく、全く動かない。
「ゃぁア」
気持ちよすぎて声を上げると、ライナス様が左手で覆うように俺の陰茎を撫でた。
「嫌? 無理強いはしたくないから、嫌なら――」
「やめないで」
「――気持ち良い? もっと欲しい?」
「そうじゃなくて」
「……これも俺は平均か、それ以下でやめろって? 一応俺は、やめないでって言われたくて焦らす方向で検討中なんだけど」
「ライナス様がしたいようにして欲しくて。俺は恋人に満足して欲しい……っ、ひ、ア!!」
俺が必死でいうと、ライナス様が一度体を硬くしてから、再び強く俺の胸の突起を吸った。
「あのさ、そういう可愛いことをどうして……はぁ。可愛い。なにこれ。可愛すぎて卑怯だ、魔族は。いいや違うな。可愛いのはベルだ」
そういうとライナス様が、そばにあった香油を指にまぶし、俺の中へとゆっくりと入れた。
「あ、あ、あ」
第一関節から根元までゆっくりと進んできた後、その指が二本に増えた。一度動きが止まってからかき混ぜるように動かされた後、抜き差しが始まった。
「!」
そして指先がある場所に触れた時、俺の体がビクンと跳ねた。
「あ、ああっ」
「ここが好き?」
「う、あ……や、何……」
「何、かぁ。ベルの好きな場所、かな?」
「あああああ!」
俺が気持ち良いと思う場所ばかりを、ライナス様が刺激し始めた。次第に俺の息は上がり、思わず快楽から涙ぐむ。それからゆっくりと丹念に、ライナス様が俺の中をほぐしてくれた。
「挿れるよ」
そして、俺の中へと自分の陰茎を進めてきた。指とは全然比べ物にならない衝撃に、俺は思わず怖くなってライナス様に抱きついた。
「あ、あ」
ライナス様が動くたびに、香油が立てる水音がして、それがどうしようもなく恥ずかしい。
「だめ、あ、だめ、もう出る……あああ!」
俺が伝えた時、俺の陰茎を握り、同時に突き上げて、ライナス様が俺をイかせてくれた。それから、俺の呼吸が落ち着くのを待って、激しく動き始めた。
「ぁああ、あ、あ、あああっ、ン!!」
「綺麗だな、可愛いんだけど、綺麗でもあって……ごめん、俺は自分を止められない」
「あああああ!」
そのまま何度も貫かれて、俺は何度もライナス様が俺の内側に放ったのを感じたし、俺もまた果てた。
――事後。
ぐったりとしていた俺は、ライナス様の腕の中で、微睡んでいた。俺を抱きしめて横になっているライナス様は、とても優しい顔をしている。
「ベル、ずっと俺のそばにいてくれる?」
「はい!」
「何だろうな……一応俺達は、魔族は恐ろしいものだと考えて、必死で攻める計画を立てていたんだけど……まさかこういう形で、恋愛的な意味で攻めることになるとは、全く思っていなかったよ」
そうだったのか。
確かに言われてみれば、俺は最初「人間が攻めてきた!」と思ったが、最終的には積極的で攻めの姿勢のライナス様(人間)に陥落していたわけである。
こうして――……俺には恋人が出来た。
その後の日々、俺は魔術総府で、弟子兼恋人としてライナス様と過ごすのだが、それはまた別のお話だ。ただ一つ言えるのは、俺はライナス様が大好きだということである。
(完)