【9】俺も陥落した!(★)


 



 キスを終えてから、俺はライナス様を見上げた。俺の顔を両手で挟んでいるライナス様は、目が合うと照れくさそうな顔をしてから、顔を背けた。


「同意を得てからするべきだったね。キスしても良かった? 終わってから聞くのもなんだけど」

「……」


 羞恥に駆られて、うまく言葉が出てこない。


「もっと聞きたいのは……俺の恋人になってくれるかな?」


 ライナス様も照れているように見える。その時ライナス様の腕が、俺の腰を強く引き寄せた。俺達はお互いに照れた状態のままで抱き合っている。


「ライナス様」

「何?」

「俺は魔族だから、人間の恋人同士が何をしているのか知らなくて。恋人になったら、何をするんだ? 俺に出来るかな……」

「別に何かを求める気は無……くはないけど、本音としてはそりゃあ、あるけど……ええと、別に今のままのベルで何も問題はないよ。ベルに出来ない俺が求めることは、俺が一から丁寧に教えるから」


 それを聞いて、俺は少しだけ肩の力が抜けた。


「本当に教えてくれるなら、ぜひ!」


 俺が精一杯明るく答えると、ライナス様が心なしかホッとしたような顔をした。そして俺の髪を撫でてから、今度は俺の額にキスをした。


「これはね、人間にとってはお礼への返事じゃないから、俺から以外はキスされちゃダメだよ。手の甲でもダメ」

「そうなんですか?」

「うん。抱きつくのも俺以外にはダメだ」

「なるほど」


 頭の中で俺がメモをしていると、ライナス様が俯いた。そして今度は俺の両手を取ると、勢いよく顔を上げた。


「あ、あの……ベルさえ嫌じゃなかったら、そこのベッドに行かない? やっぱり既成事実も欲しいというか」

「ベッド? はぁ」


 たった今言葉を交わして既成事実は出来たと思うのだが、ライナス様はもっと何かを求めているようだ。せっかく恋人になったのだから、俺は何か望まれたら当然応えたい。


 手を引かれてベッドに座ると、ライナス様が俺の首元に手をかけた。そしてリボンを引き抜いた。ここにきて俺はやっと、ライナス様が俺に何を求めているのか理解した。エロスだ!


 俺の鎖骨を指でなぞりながら、ライナス様が俺の目を見た。その瞳が獰猛に見えてゾクリとしてしまう。


「そんなに緊張しないで」

「ぁ……」


 鎖骨に口付けられて、俺はピクンとしてしまった。緊張するなと言う方が無理だ。魔族の恋人同士は、甘い言葉も掛けあわないが、あんまりお互いの体も求め合わないからである。そういう行為もあるとは知っているが、大体の場合それは結婚してからだと言われている。よって、俺には知識がほぼない。何せ恋人がいなかったから結婚もしたことがないのだ。


「あ、の……」

「ん?」

「ライナス様は俺と結婚したいですか?」

「……まぁ、別に好きな相手だから結婚しても無論いいけど、俺はそう言う形にとらわれたいわけじゃないよ。既成事実というのは、ベルが欲しいという意味だけど、それはわかる?」


 ライナス様の声に、俺は悩んだ。人間の制度がさっぱりわからない。ただ聞いた感じ、人間の恋の形は魔族とは異なり、恋人同士でも体を求めるものなのだろう。


「あ」


 その時右の乳頭を唇に含まれて、そうした思考が吹っ飛んだ。ジンと甘い疼きが、舐められた箇所から全身に広がる。初めての感覚だった。


「ぁ、ぁ」


 そのままチロチロとした先で刺激されて、思わず俺はライナス様を押し返そうとした。しかしライナス様は俺よりも筋肉があったらしく、全く動かない。


「ゃぁア」


 気持ちよすぎて声を上げると、ライナス様が左手で覆うように俺の陰茎を撫でた。


「嫌? 無理強いはしたくないから、嫌なら――」

「やめないで」

「――気持ち良い? もっと欲しい?」

「そうじゃなくて」

「……これも俺は平均か、それ以下でやめろって? 一応俺は、やめないでって言われたくて焦らす方向で検討中なんだけど」

「ライナス様がしたいようにして欲しくて。俺は恋人に満足して欲しい……っ、ひ、ア!!」


 俺が必死でいうと、ライナス様が一度体を硬くしてから、再び強く俺の胸の突起を吸った。


「あのさ、そういう可愛いことをどうして……はぁ。可愛い。なにこれ。可愛すぎて卑怯だ、魔族は。いいや違うな。可愛いのはベルだ」


 そういうとライナス様が、そばにあった香油を指にまぶし、俺の中へとゆっくりと入れた。


「あ、あ、あ」


 第一関節から根元までゆっくりと進んできた後、その指が二本に増えた。一度動きが止まってからかき混ぜるように動かされた後、抜き差しが始まった。


「!」


 そして指先がある場所に触れた時、俺の体がビクンと跳ねた。


「あ、ああっ」

「ここが好き?」

「う、あ……や、何……」

「何、かぁ。ベルの好きな場所、かな?」

「あああああ!」


 俺が気持ち良いと思う場所ばかりを、ライナス様が刺激し始めた。次第に俺の息は上がり、思わず快楽から涙ぐむ。それからゆっくりと丹念に、ライナス様が俺の中をほぐしてくれた。


「挿れるよ」


 そして、俺の中へと自分の陰茎を進めてきた。指とは全然比べ物にならない衝撃に、俺は思わず怖くなってライナス様に抱きついた。


「あ、あ」


 ライナス様が動くたびに、香油が立てる水音がして、それがどうしようもなく恥ずかしい。


「だめ、あ、だめ、もう出る……あああ!」


 俺が伝えた時、俺の陰茎を握り、同時に突き上げて、ライナス様が俺をイかせてくれた。それから、俺の呼吸が落ち着くのを待って、激しく動き始めた。


「ぁああ、あ、あ、あああっ、ン!!」

「綺麗だな、可愛いんだけど、綺麗でもあって……ごめん、俺は自分を止められない」

「あああああ!」


 そのまま何度も貫かれて、俺は何度もライナス様が俺の内側に放ったのを感じたし、俺もまた果てた。



 ――事後。


 ぐったりとしていた俺は、ライナス様の腕の中で、微睡んでいた。俺を抱きしめて横になっているライナス様は、とても優しい顔をしている。


「ベル、ずっと俺のそばにいてくれる?」

「はい!」

「何だろうな……一応俺達は、魔族は恐ろしいものだと考えて、必死で攻める計画を立てていたんだけど……まさかこういう形で、恋愛的な意味で攻めることになるとは、全く思っていなかったよ」


 そうだったのか。


 確かに言われてみれば、俺は最初「人間が攻めてきた!」と思ったが、最終的には積極的で攻めの姿勢のライナス様(人間)に陥落していたわけである。


 こうして――……俺には恋人が出来た。


 その後の日々、俺は魔術総府で、弟子兼恋人としてライナス様と過ごすのだが、それはまた別のお話だ。ただ一つ言えるのは、俺はライナス様が大好きだということである。



(完)