【12】初めての感覚(★)



 最初は一本、それから二本と、宰相閣下の指が俺の中を暴いていく。

 ぐっと根元まで挿入され、そこで一度指の動きが止まった。

 びっしりと汗をかきながら、俺は緊張して小さく震える。



「少し力を抜け」

「無、理……っ、ぁ!」

「すぐに良くなる」



 宰相閣下は、左手で再び俺の陰茎を握った。そして右手の指を内部でゆるく抜き差ししながら、前を擦った。そうされると、すぐに俺の体がじんわりと熱を取り戻した。



「ひっ!」



 その時指先が、内部で感じる場所を掠めた。そこを刺激されると、出てしまいそうになる不思議な場所だった。話には聞いた事がある、きっと、前立腺だろう。



「ここが好きか?」

「ぁ……ぁア、ん――っ、そこ、変!」

「もっともっと変になると良い。俺もお前を見ているだけで我ながらおかしくなる」



 宰相閣下の指の動きが早くなり、俺の感じる場所ばかりを責め始める。そうされると、俺の陰茎からは先走りの液が溢れ始めた。左手でその雫を掬うと、宰相閣下がちらりと時計を見た。



「そろそろ心の準備は出来たか?」

「あ、早く出したい!」

「――若いな。心よりも先に体を貰うというのも罪悪感がなくはないが、俺はそれでも構わない」

「待ってくれ」

「もう待てない」

「そうじゃなくて……っ、は……俺、結構きちんとイルゼが好きだ」

「!」

「多分」

「多分は余計だ。ああ、もう、煽るなと何度言えば分かるんだ。バカはお前だ、リュクス」



 宰相閣下はそう言うと指を引き抜き、俺の太ももを持ち上げた。そして一気に挿入した。深々と楔で穿たれた瞬間、俺は衝撃から息を詰めて、思わずギュッと目を閉じた。



 体が熱い。宰相閣下の陰茎に押し広げられている内部の全てが、ドロドロに蕩けてしまいそうなほどに熱い。感じる場所を巨大な先端で、強く刺激された時、俺は大きく声を上げた。



「あ、あン――! ん、うあ、ぁ、ああ!」

「まだキツイな。悪い、俺にも余裕がない」



 宰相閣下が動く度に、ぬめる香油が水音を立てる。それが恥ずかしい。深々と貫いたかと思えば、ギリギリまで引き抜き、また奥深くまで宰相閣下は俺を突き上げる。最初は緩慢だった律動が、次第に早さを増していく。



「ぁ、ア――!!」



 一際激しく貫かれた時、俺は果てた。ほぼ同時に、内部に飛び散る宰相閣下の白液を感じた。必死に息を落ち着けようと呼吸していると、俺の汗ばんだ髪を、宰相閣下が撫でた。宰相閣下は人の頭を撫でるのが趣味なのだろうか? そう考えていると、宰相閣下が体を引き抜いた。それから俺を抱き起こした。そして耳元に口を寄せた。



「足りない。全く足りない」

「え?」



 囁かれた俺は、てっきり終わりだろうと思っていた為、最初は言葉の意味が分からなかった。



「もう我慢をする余裕も消えた。もっとリュクスの全てが欲しい」

「宰相閣下……」

「イルゼ」

「イルゼ……もっと、って?」

「もう一回したい」

「!」



 露骨な言葉に、俺は赤面した。そんな俺を今度は、反転させて宰相閣下が押し倒した。俺は猫のような姿勢になり、思わずシーツを握り締める。



「ああっ!」



 既に硬度を取り戻していたらしい宰相閣下に、今度は後ろから挿入された。すると先程までとは異なる角度から感じる場所を刺激される形になり、俺は思わず悶えた。



 ――気持ち良い。



 すぐに俺の体も熱を取り戻した。先ほど宰相閣下が放ったものと香油が、俺の中での動きをスムーズにしているらしく、一度目よりも宰相閣下のものが深く入ってきているように感じてしまう。体位のせいなのかもしれないが、どんどん俺の体は気持ち良さを知っていくようだった。



「ぁ……ハ……ん、っ、ァ……ああ!」

「気持ち良いか?」

「う、ん――ああ!」



 俺の腰を掴むと、宰相閣下が激しく打ち付け始めた。そうされると全身に快楽が響いていく。性行為なんて、これまでの俺からしたら未知との遭遇としか言いようが無いわけであるが、俺は一瞬で宰相閣下の熱に絡め取られてしまったらしい。



 次第に何も考えられなくなっていき、俺はあんまりにも気持ちが良いものだから、瞳を潤ませた。なんだこれは。セックスってすごい。



「あ……ああ……」



 その時、宰相閣下が一度陰茎を引き抜いた。そして俺の菊門にあてがうと、静かに言った。



「もっと欲しいか?」

「うん、なんで、抜くんだ……あ、あ、早く」

「――お前に求められたくてな。言ってくれ。挿れて欲しいと」

「挿れてくれ、あ、ア!」



 俺が懇願すると、再び一気に貫かれた。しかし今度は、意地悪く、感じる場所から少しそれた場所を刺激される。



「待って、やだ、さっきの所!」

「さて、どこだったかな」

「なんで――っ、あ、あ」

「腰が動いてる」

「だって、あ、だめ、あ、あああ!」



 気づくと俺はもどかしさから腰を揺らしていた。足りない。全然足りない。宰相閣下の熱がもっと欲しい。思う存分に貫かれたかった。



「冗談だ。お前の体の事を忘れたりはしない。金輪際、な」

「あああああ!」



 宰相閣下がようやく求めていた刺激をもたらしてくれた時、俺は二度目の絶頂を迎えた。達した俺は、ぐったりと寝台に沈む。しかし宰相閣下の動きは止まらない。



「待って、まだ、できない」

「悪いが、全く止められる気がしない。年甲斐もなく、お前に夢中なんだ」

「あ、ゃ、ャ、あ、ああ!」



 今度は重点的に感じる場所ばかり連続で突き上げられて頭が真っ白に染まっていく。もう出せないと思うというのに、何かがせり上がってくる。



「うああ、あア!!」



 そうして気づくと、俺は放っていないというのに、中だけで射精した感覚に襲われていた。頭が真っ白に染まり、何が起きたのかわからなくなって怖くなる。しかもその感覚が長く持続している。



「いやあああああ!」



 俺は絶叫した。震えながらポロポロと涙をこぼすと、宰相閣下が後ろから俺の背中に体重をかけて動きを封じてきた。



「中だけでイったか」

「あ、っ、ハ、あ、何、何これ、うあ……やああ、あ、体が熱い、おかしい!」

「これから出来る限り毎夜、じっくり教えてやる。だから――引っ越してこないか?」



 壮絶な快楽は怖すぎたが、宰相閣下の体温と言葉があんまりにも甘く優しく思えて、俺はあまり何も考えられない状態だったのだが、半ば無意識に頷いていたのだった。