第2話 欲しいもの?




「別にそう言うわけでは無い」

 魔術師はそう言うと、俺の真横に座り直した。そしてじっと俺を見た。

「ちょっと、”勇者殿”と話がしてみたくて、この街に訪れたんだ」
「俺に用事? 珍しいな……」

 ポツリと呟いた声は、我ながら小さくなってしまった。最近では、腕試し以外で、俺に来客は皆無と言えるからだ。

「それでどんな用件だ?」

 俺は端正な顔立ちの青年を改めて見据える。すると青年が喉で笑った。

「――好みのタイプが知りたい」
「はぁ?」
「旅の姿が大陸新聞の魔術写真に掲載されているのを見る度に、憧れていたんだ」
「……俺のファンって事か? それこそ珍しいな」

 俺は素直に驚いた。ファンだなんて、もう長らく言われた事は無い。なにせ、現在の俺は脇役と化しているのだからな……。

「お前、名前は?」
「ミルスと言う」
「ふぅん」
「勇者殿は、フォルスという名だったな?」
「そうだけど――なんだよ? サインでもしたら良いのか? 握手か?」
「それでは足りない、な」
「ん?」
「僕が欲しいものは、別のものだ。勇者殿、奢ろう。もう少し飲んだらどうだ?」

 断るのもファンの前では情けなく思えて、俺は飲めない酒のメニューを見る。
 そして弱い弱いカクテルを頼んだ。ミルスはウイスキーを頼んでいる。
 酒に強いのだろう。

「っ」

 しかし、俺に届いたカクテルも、なぜなのかいつもより――強い気がした。飲んだ瞬間に、全身を酔いが絡め取る。店主を見ると、何故なのかウインクしていた。は?

 事態が飲み込めないでいる内に、俺の意識は飛んだ。


「ン……」

 次に俺が目を開けると、そこには見た事のある天井があった。飲み屋の二階にある宿泊部屋の一つだ。え? なんで俺はここにいるんだ? 混乱しながら起き上がると、シーツがバサリと落ちた。その音に下を見て、俺は絶句した。素っ裸だったからである……。

「目が覚めたのか」

 声にハッとして視線を向けると、傍らの椅子に、ミルスが座っていた。彼は――上半身が裸だった。嫌な汗がこみ上げてくる。俺は思わず下を見た。たらりと白液が垂れてきている。腰には不思議な違和感があり、何より肛門がなぜかじくじくとしていた。

 え?

 俺の周囲には同性愛者が多いが(例:魔王達)、俺は後ろの処女を誰かに捧げる予定など、これまで存在しなかった。だ、だが、この状況は、どう考えても事後だ。