第1話 主役誰なの?
俺は、四人で旅をしている。俺、魔術師、剣士、回復術師。
――魔術師と剣士は、付き合っている。そして、回復術師は、魔王と付き合っている。俺達は、魔王を倒すために旅を始めたはずなんだけれども……。
この世界、グリモワールにおいて、俺は、”勇者”として生まれた。世界に勇者として神の祝福を受けたものは、一人きり、俺だけだ。
人間というのは、その各々が自分の人生の主役なのだろうとは思う。ただ、一応、メタ的な発言をするのであれば、この”物語”において、主役は俺のはずだった。魔王を討伐する一連の事象――……俺は、「さすがは、勇者様!」と、魔王を倒した時に言われたし、ひっそりと改心した魔王を逃がしてあげる時は、そちらに感謝されもした。吟遊詩人だって、一応俺をメインに据えた詩を謳う。が、得てして、俺の物語には、人気がない。
そこで神様に会った時に聞いてみた。
「そりゃあさぁ、もうみんな、勇者が主役の王道には、飽きちゃってるんだよ」
俺は衝撃を受けた。そうして――気がついてみると、周囲の、言っては悪いが、脇役達の物語が世界には溢れていたのである。主役、俺のはずなのに。俺が頑張ったから、世界は救われたのになぁ……。
現在、誰も俺には見向きもしない。ハッピーエンド後の、各自の恋愛や”ちょっと和む良い話”だったり、感動の再会などに忙しい。俺は、ぼっちだ。たまに活躍の場があると思えば、それは顔が広い俺に、仲人をしたお礼を伝えるものだったりする。それはそれで良いんだけどな……幸せなのは良いことだが、俺は一人だから、若干寂しい。
別に下心があって世界を救ったわけじゃない。だけど。
「主人公、俺じゃないだろう、もうこれ……」
俺は溜息を漏らした。何だかここの所、やる気が根こそぎ持って行かれている。
肘をカウンターについて、俺は麦茶の浸るグラスを見た。
実は俺は酒が飲めない。
なんだか頭痛がしてきた。コメカミ付近がツキンツキンする。昔から俺は、偏頭痛と戦ってきた。それは魔王との戦いよりも熾烈を極めている。
「どうかしたのか? 暗い顔をして」
その時、隣から声がした。聞き覚えのない声に顔を上げると、目深にローブを被った一人の青年がそこにいた。顔は見えないが、声は若かった。青いローブは高級そうで、ひと目で位が高い魔術師だと分かる。
「別に。なんだ? 腕試しにでも来たのか? 勇者パーティの魔術師なら、剣士とデートに行ってるから、今邪魔をしたら殺されると思うぞ。教会で生き返るのは意外と痛い」
俺は麦茶を飲みながら、一人大きく頷いた。ここは、俺が生まれ育った街で、今では『冒険への旅立ちの街』と言われている。パーティにいた連中と、身元を偽っている魔王も現在、この街にいる。だからなのかは知らないが、噂を聞きつけた腕自慢の奴らが、戦いを挑みにこの街に来ることが多い。狭い街だから、全員の村人の顔を知っている俺は、明らかなる旅行者の青年もまた、腕試しだろうと考えていた。
なおこの世界、死ぬと教会で生き返る。そうすると所持金の三分の一を持っていかれる。お金を所持していないと、誰かが規定額を払ってくれるまで棺桶の中だ。規定額は、無一文で死んだ場合、2300ゴールドである。