【19】インテリジェンス・デザイン――天才博士の最高傑作――



 それからハッとしたように、真夜は今度は英語で述べた。どうやら、「質問は以上だ」といったらしい。その後、この問題が何だったのかの解説が行われた。何でもクイーンズ教室の、今発表した真夜が開発した、最新の知能テストだったのだという。

 既存のものとは異なり、IQ500+まで測定できるとの事だった。+に分類される測定値から、さらにIQ1000まで推測できるらしい。要の推定IQは、なんと700を超えていた。20問で測定できる最高値をたたき出したそうだ。正確に測定したら、至上2人目のIQ1000をたたき出すのではないかと、司会者が述べていた。1人目は、妃廉という博士らしい。

「すごいな」
「ええ。貴方は予想以上です」

 相と縁の言葉に、要が目を伏せ溜息をついた。

「たまたまだよ」
「たまたまでこの数字はでないだろ」

 思わず時野が呟いた。そして、これにて終了しようとした時だった。
 画面が切り替わり、ピエロが出現した。そして日本語の字幕が現れる。

『ここで、サプライズ! クイーンズ教室創始者にして名誉教授であり、現クイーンズカンパニー会長の妃廉から、直接出題があります』

 その言葉に、会場がざわついた。

「すごい人なのか?」

 時野が聞くと、縁がスッと目を細めた。

「なかなか人前に姿を現さない方だと聞いています。人類史上、最も優れた知性の持ち主の一人とされています」
「大天才って奴なんだよな?」

 相が問うと、縁が頷いた。時野は、白髪の老人を想像し、フライドチキンが食べたくなった。会場の最奥に、ブースが設けられる。博士の姿は見えない。白衣がちらっと見えた程度だ。マイクを持つ手は骨張っている。少し間をおいてから、楽しそうに博士は口を開いた。――日本語だった。

「タイムマシンは存在すると思うか?」

 そして博士は突拍子もないことを言った。思わず息を飲んで、時野は要を見る。
 すると呆れたような顔で、要がマイクを握った。

「はい」

 えっ、と会場がどよめいた。それには構わず、吐息に笑みを乗せ、博士が続ける。

「瞬間移動は可能だと思うか?」
「はい」
「反重力装置は実現可能か?」
「はい」
「放射能無効化はできるか?」
「はい」
「不老不死は可能か?」
「はい」
「超古代文明は存在すると思うか?」
「はい」
「集団洗脳装置は存在するか?」
「はい」

 最早、オカルトの領域だ。しかし要は、淡々と頷いている。このような問いは、ただの質問であるし、正答なんてあるとは思えなかった。それから博士は、ひとしきり奇怪な質問をした後、吹き出すように言った。

「ニンジンは食べられるようになったか?」

 その親しげな質問に、会場中の人々が目を見開く。

「いいえ」

 静かに答えた要を見て、知り合いなのだろうかと時野は首を傾げた。
 すると博士が、声のトーンを下げた。

「量子力学的見知に由来しない、異次元の存在証明についてどう思う?」

 要は、初めて沈黙を挟んだ。それから、あからさまに溜息をついた。

「興味深いテーマだけど、ここは廉の疑問に対する答えを共同で模索する場ではなく、クイズ大会の会場だよ。ここで話す意見は特にないかな」

 廉、と、要は博士の名を呼んだ。

 すると今度こそ笑い、博士が立ち上がった。出てきた人物を見て、時野は目を丸くする。
そこに立っていたのは、番宣に出ていた研究者だったからだ。三十代半ばである。若い。

「認定しよう。お前は天才だ。もっとも、お前が天才であることは、既に国際的に認定されているけどな。久しぶりだな、要」

 そう口にし、廉という名の若い博士は、ニヤリと口角を持ち上げた。

「2KHの方が、名前が通っているか。要・妃・北条。妃は、クイーンズ本家が日本に帰化した際の名前だ。会えて嬉しいぞ、お前は俺の、最愛の息子だからな」

 突然の廉の宣言に、静まりかえった後、会場は驚きの声に満ちあふれた。

 行方不明とされていた2KH――天才育成計画第一世代の存在だと、急いで作られたテロップがモニターに映し出される。廉はそれを一瞥してから、笑みを湛えたまま続けた。

「要は俺の最高傑作だ」

 要は何も言わずに目を伏せている。

「そもそもこの番組は、要を探し出すために企画したものだ」

 廉の声に、一同が視線を向ける。どういうことだろうかと時野は首を捻った。
 それにしても、とても親子には見えない。

「要の所在は俺にも分からなかった。天才育成計画は、プロジェクト終了後、天才児の人権保護のため、いっさいのプライバシーを秘匿したからだ。それは両親であっても閲覧できない。しかし俺は、要を探していた。北条要――2KHには、クイーンズ教室から、定期的に最先端の研究論文を送信していたから、その通信記録から日本にいることは特定できた。そこで俺は、嘗て2KHが3歳にして開発した、この、立体パズルを使って、要の所在を特定することにした」

 廉が球体を、白衣のポケットから取り出した。

「在籍していると考えられる日本の学校全てで、テストを行ったんだ。半分は賭だったし、要が見つからなくとも、同等の知性を持つ人間を見つけられればそれでも良かったからな。そして幸い、見つかった。その後は、テレビ番組を通して、現在の知識水準を観察した」

 そのような裏があったのかと考えながらも、いつか陸魚が、『選ばれた』と言っていたことを時野は思い出していた。

「勿論、気づかれれば要は出てこないと思っていた。だからクイズ形式にして、自然の流れでそれとなく、この場へとたどり着くようにしむけたんだ」

 静かに聞きながら、時野は要の様子を窺う。要の表情には、感情が見えない。
 それから廉は真剣な顔をした。周囲の空気がかわった。

「だが、ここからが問題なんだ。なぜ、2KHを呼びだしたと思う? 何も俺は、わざわざ息子に再会したいがために、こんな大会を仕組んだわけじゃない」

 時野は、それはそうだろうと考えた。だが、かといって理由も思いつかない。
 その回答は、すぐに廉の口からもたらされた。

「人類は、今、窮地に立たされている。俺は、世界を救える知性の持ち主を捜していた。そう、世界を救って欲しいんだ」

 ここへ来て、そもそもの番組コンセプトが再提示された。バラエティの架空の話だと思っていたのだが、世界最高の知性の持ち主の一人が言うと、真実味があった。本当に世界の危機なのだろうか。