8(★)



「「今、どっちが挿ってるか分かる?」」

 目隠しをされた俺は、双子の生徒会庶務にクスクス笑いながら言われている。
 全く分からない。分かるのは、気持ちが良い事だけだ。

「「どっちがどっち?」」

 片方は俺の口に挿入し、もう片方が後ろを暴いている。
 これでは答える事すら不可能だ。
 その後、後ろと口をガンガン突かれ、引き抜いた彼らに俺は全身を白く汚された。

 しかし、俺はもう三日も出していない。ずっと根元を戒められたままだ。
 さらに、生徒会メンバーが帰る時は、バイブを突っ込まれて翌朝まで放置されている。完全に俺は、性的な玩具にされていた。それが――嬉しい。

 まず、毎日水栄の顔を見られるのが嬉しくてならない。
 次に、快楽を与えられる事が喜びだった。
 一体いつまでこんな日々が続くんだろう?
 夏休みが明け、秋の学期が始まって久しい。いつまでも続いて欲しい。

 俺は受験のことなどすっかり忘れて、快楽に浸っていた。

 我に返る事となったのは、次の生徒会選挙の頃だった。次世代に生徒会室を明け渡すため、俺も当然仮眠室から出される事となったのである。

 久しぶりに戻った自室で、真っ白なノートと手付かずの参考書を見て、ようやく俺は、自分が受験生であると思い出した。同時に――強い孤独感に襲われた。誰も、俺のそばにはいない……。

 水栄の事を思い出した。漠然と携帯を見るが、トークアプリに水栄からの通知が来なくなって、とっくに半年以上が経過していた。生徒会室での日々も終わったのだから、もう顔を合わせる事も無いのだろう。

 そう思いながら、その翌日は、久方ぶりに部室へと向かった。
 生徒会の補佐は、部長と兼任可能なので、一応形だけは、部活も残っている。
 すると――そこに水栄がいた。

「水栄……」
「部長」
「……何か用か?」
「部長に会えるかなと思って、来てみたんです」

 水栄はそう言うと、俯いた。

「もう、俺の事、嫌いですか?」
「嫌いっていうか……お前にとって、俺は奴隷だったんだろ? それを、受け入れてる」
「あれは……ああ言わないと、補佐に出来なかったから」
「――?」
「俺、誰かと共有してでも、常に部長の顔を見てないと、ダメでした。耐えられなくて、他の相手を試したりしたけど、やっぱり部長がいないと満足できなくて」

 そんな理屈って、あるのだろうか……?
 俺は苦笑しそうになったが、こらえた。

「もう生徒会も終わったし、これからは前みたいに、ここに来られます」
「あ、ああ。そうだな。お前しか、次の部長候補もいないしな。部員、俺達だけだし……ただほら、俺は受験があるから、来られる頻度は減る。もう、引退だ。俺も」
「それは、俺に会いたくないからですか?」
「そういうわけじゃない」
「俺とまだ恋人でいてくれますか?」
「……」

 言葉に窮した俺は、天井を見上げた。俺は、水栄の事が好きである。
 だが――だからこそ、建設的とはとても言えない関係を続けるのは、辛い。
 今回は、良い契機のような気がするのだ。関係を解消するために。

「悪い、水栄。もう無理だ。別れよう」
「ですよね……」

 頷いた水栄は、自嘲気味に笑った。だが、あっさりとしたもので、小さく頷くと部室を出ていった。その後で机の上を一瞥したら、退部届けが置いてあった。水栄も、続ける気など、本当は無かったのだろうと思う。

 こうして俺は、フリーになった。体は寂しいが……我慢している。





 さて。
 そんな過去があった水栄と、俺は数年を経て、現在、再会するに至った。
 きっかけは、仕事である。

 俺は、教師になった。そして、色々な意味で思い出深い母校の高等部で現代社会を教える事になったのである。頭が悪かった俺が、学校の先生……和田など、爆笑していた。雰囲気イケメンを探求し続けるのを止めなかった結果、現在の俺は、親衛隊持ちの教師となって――三年が経過した。そんな今年の春、水栄が生物教師として赴任してきたのである。

 まだ一度も話していない。春に歓迎のための飲み会があったが、俺は風邪(仮病)で欠席した。徹底的に俺は、水栄を避けている。理由は勿論、ようやく立ち直った体の熱を思い出したくないからだ。水栄が嫌いというよりも、俺はもうSMからは遠ざかりたい。

 時折、水栄は俺を見ている。それは知っていたが、俺は気づかないふりを通している。

 そんな俺と水栄が二人きりになったのは、偶発的な事態のためである。
 学園の発電機に落雷事故があり、停電が発生した。
 その時職員室にいたのが、たまたま俺と水栄だけであり、オートロックの職員室の鍵が閉まって開かなくなってしまったのである。

「学屋先生……お久しぶりです」
「お、おう」

 こうして、ぎこちなく俺は返答し、数年ぶりに話をする事になったのである。

「俺、今でも酷い事したなって……後悔してて」
「き、気にするな。俺は忘れたし、お前も忘れてくれ」

 寧ろ頼むから忘れてくれと、俺は言いたかった。

「――忘れて良いんですか?」
「ああ」
「……忘れて、また、一からアタックしても良いんですか?」
「へ?」
「俺、未だに部長の事が好きです」

 その言葉に、俺は焦った。

「お、俺ももう、若くないし、子供じゃないからな。興味本位で、好きでもない相手と付き合ったりはしない」
「……当時は、一瞬でも、俺のこと、好きでいてくれましたか?」
「まぁ……そうだな。好きだったよ」

 そんなやり取りをしていると、電気が復活した。
 この日を境に、時々、俺と水栄は話をする仲になった。戻ったとも言えるだろう。
 そして――ある日、生徒に聞かれた。

「学屋先生って、どうしてあんなに格好良い水栄先生に、そこまで愛されてるのに、付き合わないんですかぁ? 理解できない」

 俺は寝耳に水だった。気が付いてみたら、学園公認的に、誰もが、『水栄先生は学屋先生が好き』と知っていた(?)のである。

「ほ、ほら! 人は見た目じゃないからな!」

 慌てて俺はそう返答したものであるが……愛されて、悪い気はしない。
 しかしながら、水栄の愛は、信用ならない。

「ねぇ、学屋先生」

 ある日。
 水栄に呼び止められた。俺が振り向くと、水栄は微苦笑していた。

「そろそろ、俺に振り向いてもらえませんか?」
「……」
「無理?」
「いや、その……無理というか……」
「俺、好きなんです」

 思えば、水栄の告白は、いつも真っ直ぐで率直だ。

「……もう、SMは無しと誓えるか……?」
「! はい!」
「絶対?」
「はい!」
「俺を他人に差し出したりしないか?」
「しません」
「乗っかられても、浮気しないか?」
「しません!」
「朝晩きちんと連絡をするか?」
「します!」
「俺の事を、きちんと愛するか?」
「既に愛してます」

 このようにして――結果的に俺達は復縁した。
 それはまた、別のお話であるが、少しだけ触れるならば、俺達は至ってノーマルな行いをする、平均的な恋人同士になったと付け加えておく。



(終)