2(★)
「来たか。北寮の眠り姫」
西寮のキングの部屋に入った僕は、そう声をかけられた。
非常に豪奢で広い部屋だ。これもポイントを多く取得すると、好きな部屋に改造出来るから、その結果だ。大抵のキングは、その寮で最も高ポイントを稼ぎ出す。
今回僕を獲物指名した西寮のキング――ルクスは、僕と同じ学年で、つまり最高学年ではないのにキングを任せられている、学年でも有名な高ポイント所持者だ。僕は一度も同じ寮になった事は無いが、それでも顔と評判は知っていた。
艶やかな黒髪に、紫色の瞳をしている。少しつり目だが大きな瞳だ。それが獰猛そうに輝いている。長い膝を組んで、顎を持ち上げ、見下すように彼は僕を見ていた。
「ポイントのために体を差し出す気分はどうだ?」
「……」
「姫だ姫だとチヤホヤされて守られてきたその貞操、存分に弄んでやる」
愉悦混じりに笑ったルクスは、形の良い唇の片端を持ち上げた。ゾクッとして、僕は両腕で体を抱く。
「脱げ」
言われるがままに、僕は首元のリボンを解いた。制服の上着を脱ぎ、シャツのボタンを外していく。
「下も、だ」
恥ずかしかったが、ベルトも外した。下衣をおろし、下着姿になると、それも下ろせと命じられた。従うしかない。体を差し出すと決めた時点で、獲物には抵抗する権利が無くなる。仮に抵抗したとしても、無理矢理体を暴かれても文句を言えない。既に部屋の鍵は閉まっていて、もう朝まで開かない。
「綺麗な体だな」
「……」
じっとルクスが僕の体を見る。その舐めるような眼差しに、僕は羞恥を覚えた。
「舐めろ」
そう命じられ、僕は陰茎を露出させたルクスに歩み寄った。跪いて、唇を開ける。
当然、誰かのものを咥えた事など無い。それでも必死に、口に含んだ。
「中々巧いじゃないか」
ルクスが僕の髪を掴む。必死で舐めながら、僕は泣きそうになった。
「清楚で有名な眠り姫を、淫乱にして返したら、寮のやつら、どんな顔をするだろうな。きっと喜ぶ事だろう」
「……っ……」
口の中で、ルクスのものが、どんどん存在感を増していく。息が苦しい。
「もう良い。上に乗れ。自分で挿れろ」
ルクスの言葉に、震えながら僕は腰を浮かせた。寝台に上り、座っていたルクスの上に跨る。――ポイントは、性技にも割り振れる。自分の中の技術に割り振る事が可能だ。その場合、性技レベルが高ければ、慣らさずとも慣らしたがごとく、相手に挿入可能らしい。
僕は聞いた事があった。ルクスは、寮に献上する以外のポイントは、部屋と性技にしか割り振らないと。だから、一度ルクスに体を開かれると、もうルクス無しではいられなくなる程らしい。
「うっ……ぁ……」
そそり立ったルクスの先端が、僕の中にめり込んでくる。それだけで――気持ちが良かった。噂通りだったのである。もっとその熱が欲しくて、僕は腰を性急に下ろした。結果、すぐに根元までルクスを飲み込み、内側に彼の形を感じた。
「中も良い具合だ。ポイントを餌にしたとはいえ、素直なのも悪くないな」
「あっ」
「自分で動け。初めてなのに、自分でよがり狂う姫というのは、いつだって見ものだ」
「ぁ、ああっ、あ、あ、あっ」
その言葉通り、僕の腰は勝手に揺れた。あんまりにも気持ち良くて、ルクスの熱に体が熔かされていく。すぐに出したくなった。だが、初めて貫かれている中だけで、射精するなんて出来ない。
「っ、ッ――、ン、ぁ」
「そう締めるな。もっと腰を使って動いてみろ。気持ち良い場所に当たるように、な」
「ああっ」
強くルクスが、一度突き上げた。すると、ズドンと僕の全身に快楽が走った。前立腺を突かれたらしく、僕の前もそそり立つ。反り返った僕の陰茎の先からは、蜜が垂れた。
「ゃ、ぁあっ、やぁっ」
その時ルクスが、僕の乳首を甘く噛んだ。それから舌先でチロチロと舐める。ルクスのように性技のポイントが高いと、触れる箇所の全てを性器のように出来てしまうらしい。そうであるのに性感帯を直接刺激されたら、体が蕩けないはずもない。
僕の頬を手で撫でながら、意地悪い顔でルクスが笑っている。
「実家に連絡しろ。この夏は帰れないと、な。夏休みいっぱい、仕込んでやる」
「あっ、はうっ、うあ、あ、ああっ」
「返事をしろ」
「わ、わかった、わかったから、あ、ああっ、く」
突き上げられながら言われて、僕は無我夢中で頷いた。
「ああっ!!」
その後、僕の中でルクスが果て、僕もその衝撃で果てた。
――僕はそれから、吊るされた。
天井から下がっていた鎖で、両手を頭上で固定される。
ギリギリ立てる状態で、右の太ももを持ち上げられた。
それからルクスが細く長い棒を手に戻ってきた。球体がいくつもついている。彼は、魔法薬らしい瓶から半透明の液体をたっぷりとまぶし、ニヤリと笑った。
「これが何だか分かるか?」
「……?」
「俺特製の媚薬だ。これでお前の中を存分に広げてやる。何のためか分かるか?」
「え?」
「――俺以外の低ポイントの性技の持ち主じゃ、お前に突っ込めないからだ。お前にはこの夏、西寮の性のはけ口を務めてもらわないとならないからな。俺だけが楽しんだんじゃ、他の寮生が不憫だ。俺は、優しいキングだからな」
「ひっ!!」
そう言うと、どろりとした感触がする硬い棒を、僕の中にルクスが入れた。球体が進んでくるたびに、僕の中が蠢く。
「ううっ」
棒が三分の一程入った時には、僕の中はいっぱいだった。ルクスのもので穿たれていた時よりも、棒は奥深くまで暴いてきた。そう感じていたら――ジンと体が熱を持った。
「あ、あ、あ」
込み上げてくる熱は、すぐに快楽に変わった。僕は、めちゃめちゃにかき混ぜられたいと願っていた。無意識だ。そして――ルクスはすぐに、それを叶えてくれた。細い棒で僕の中をかき回し始めたのだ。
「ぁっ……ぁ、ァ……ああっ」
ぬちゃりと卑猥な音が響く。ゆっくりとかき混ぜられ、不安定な体勢のまま、僕は震えた。もう立っていられないと思うのだが、頭上で手首を拘束する鎖が許してはくれず、ガシャガシャと鎖の音が響くだけだ。
しかし――媚薬で侵された体には、その無機質な棒では物足りない。
「挿れてぇっ!!」
気づくと僕は叫んでいた。
「良いだろう」
その夜は、一晩中体を暴かれた。
さて――鬼畜に思えたルクスであるが、翌朝、すんなり僕を開放してくれた。
考えてみると、獲物は、ひと晩限りと決まっていて、毎日指名しないとならない。それに指名できるのは、基本的に一人につき一人だから、複数人の相手をするという事態も発生しない。あれは――言葉責め(?)だったのだろうか。
寮に戻ると、みんなが無事を半分くらい涙ぐんで喜んでくれた。
悪かった悪かったと謝られた。
このようにして、僕は初めての経験をしてしまったが――だからと言って、その後、特に変化は無かった。幸いにして、体が熱くなる事も無い。
こうして――僕の夏休みは、幕を開けたのである。