【7】(★)



 翌日からは、大陸新聞にはこの記事しか出なかったし、魔術ウィンドウのニュースも、ほぼリオン様達の動向となった。各地の国々から、祝福され、まぁ擦り寄りとも言えるが……この弱小国は寿がれ、お祝いの品が届きまくり、外賓が絶えなかった。

 ひと段落したのは夏に入ってからで、久しぶりに騎士団にリオン様が顔を出した。
 この時、俺達は誰ともなく敬礼した。
 するとリオン様が、焦ったように苦笑した。前と同じ私服である。

「こんなのは、たまたまだ。が、俺の実力だ。見たか!」

 リオン様はいつも通りだった。そして周囲にも『いつも通り』を望んでいるようだった。それもあって、俺達はすぐに、元々の気さく(?)なやり取りをする関係に戻った。

 ――この間、ヴァイルも部屋に戻ってこなかった。
 ずっと戻ってこないかもしれないと俺は不安だった。
 だが、リオン様を目にしたこの日、期待した。

 だから定時に帰宅し、階段脇に立った。すると――紙袋を両腕に抱えたヴァイルがやってきた。その姿を見て、俺の涙腺は緩んだが、久しぶりだからと笑顔を浮かべた。俺に気づいたヴァイルが立ち止まる。

「会いたかった」
「俺も!」
「急すぎて、連絡できなくて悪かった……何というか、この国の王族は濃いな」
「いつもは、普通よりなんだけどな」

 そんなやり取りをしながら、久しぶりにヴァイルの部屋に入った。
 そして紙袋をテーブルの上に置いてから、ヴァイルが俺を抱きしめた。
 俺もヴァイルの背中に腕を回す。

「あのな、俺、ヴァイルのおかげでクロスの試験、受けられる事になったんだ」
「――そうか」
「すぐに戻ってくるから」
「いいや」
「え?」
「俺も一緒に行く。これからは、ずっと一緒だ」

 そう言ってヴァイルが俺の唇に、唇を重ねた。最初は触れ合うだけの口づけをした後、それが深くなる。口を貪られ、俺は幸せを感じた。

「なぁ、ヴァイル」
「なんだ?」
「ヴァイルは、凄い人だったんだな。俺、きちんと釣り合うようになるからな」
「――もう、十分だ。ディアスがいてくれるから、俺は今、頑張れる。ディアスと出会ってから、生きる気力が湧いてきたとでも言うのか……好きだと、繰り返される内に、俺自身も、少しだけ自分の事を認められるようになったんだ」

 ヴァイルは、腕に力を込めると、俺の額に唇を落とした。

「そう言えば、療養中ってニュースで見たけど……」

 本当は、ルーク様と盗み見ていたわけであるが、ニュースでも取り上げられたので、俺はそちらを見た風に伝えた。

「魔王がいた地下大迷宮の攻略をした時に、肺を瘴気で痛めたんだ。ただ、過度の異質な魔力に晒さなければ、特に日常生活には問題が無い。そして異質な魔力を保持していた魔王は既にいない。俺は――生き残ったからな、最後の人生の時間、ゆったりと生きようと考えて、軍をやめた。やめたとは言っても、一度軍属になれば、籍はそのまま残るんだが」
「じゃあ、平気なんだな?」
「ああ」
「――激しい運動をしても?」
「勿論だ」

 微笑すると、ヴァイルが俺をソファに押し倒した。
 こうして、俺達は、久しぶりに体を重ねる事になった。
 じっくりとほぐされた後、ヴァイルに深々と貫かれる。

「あ、ああっン……ん、んっ、あ、ヴァイル、もっと」
「俺も足りない」

 ヴァイルの動きは、いつもよりも性急な気がした。それにより、俺はヴァイルの存在をより強く実感できる気がして、嬉しくて涙した。ヴァイルに抱きつきながら、深く交わる。奥深くまで暴かれながら、俺は喘いだ。

「あ、ああっ、ン、あ、ああっ」
「好きだ、ディアス」
「俺も、ぁ、ぁぁ、ン、あっ、あ、ア!」
「愛してる」
「俺の方が――っ、ぁあ! ひ、あ、あ、そこ、そこ――ッ!!」

 前立腺を強く突き上げられ、俺は放った。中に、ヴァイルが放ったものも感じる。
 しかし、それでは終わらない。
 俺達は二回戦に突入した。

 今度は正面からヴァイルに乗り、俺はヴァイルに抱きつきながら体を動かす。
 俺の腰を支えながら、ヴァイルもまた体を揺さぶる。
 結合部分が卑猥な音を立てる中、俺は快楽に涙した。
 嬉しさと気持ち良さが、同時に襲って来る。

「いつの間にか、俺の方がずっとディアスを好きになっていた」
「それは無い。っ、ぁ、ああ!」
「いいや。俺の方が、好きだ」
「ああっ、んン――!!」

 こうしてその日は、散々体を重ねた。

 翌朝、幸いにして休日。
 俺はヴァイルの腕の中で目を覚ました。見つめ合い、どちらともなく微笑する。
 そこで俺はふと、疑問に思っていた事を聞いた。

「そういえば、どういう経緯で、大家さんになったんだ?」
「――ルイナだよ、本物の大家は」
「えっ!?」
「あいつが、俺の他のもうひとり――戦略魔術師の生存者だ」
「嘘!?」
「お前に振られたからって、傷心を癒すための旅に出てる」
「……そ、そうか」
「戦略魔術師、二人に惚れられる人間は、相当珍しいぞ」

 そう言ってから、冗談めかしてヴァイルが笑った。俺は苦笑する。



 この後、俺は、無事にクロスの試験を受ける事が出来た。一発合格だ。師匠にも誇れる。お墓に報告に出かけたのだが、その時も隣にはヴァイルがいた。

 ――俺が、大陸の新・三人目の戦略魔術師となったのは、それから数年後の事である。




【完】