俺は、バ会長が嫌いだ。



「委員長! 大変です!」

 駆け込んできた、風紀委員(一年生)の姿に、俺は顔を上げた。

「何があった?」
「生徒会から――風紀委員会の解散要求が! それに伴い、監査が入るそうです!」

 その言葉に、俺は頭を殴られた気がした。

 俺は、風紀委員会の第二十七代、委員長をしている。俺が通っているこの、深歩(ミフ)学園は俗に”王道学園”と呼ばれると、腐男子(?)だった前任の委員長から聞いている。俺は委員長に就任した際、指南本として『欲張りな生徒会長〜俺は王道学園転校生!?〜』というBL本を差し出され――熟読し、模写し、暗記までした。

 それによると、この学園には、昨年も一昨年も、確かに一人転校生がやってきて、当時は平の風紀委員だった俺も、何かと苦労した通りで、その転校生――BL本によると、王道君により、学園は混迷を極めるはず……だった。

 去年も、その前の年も、生徒会のメンバーは、何故なのか転校生に惚れて仕事を放棄し、結果として、生徒会はリコールされた。いつだって、解散するのは、生徒会だった。オレが知る限り。BL本にも、そう書いてあった。

「え?」
「だから、解散の憂き目です!」

 聞き返した俺の方まで駆け寄り、一年生の風紀委員が叫んだ。
 ダンっと俺の執務机を叩いている。

「生徒会いわく、存在意義が不明な風紀委員会は必要ないとの事で、委員会の廃止及び解散を、正式に学園理事会に提出するそうなんです。そのために、要・不要の見極め期間として、明後日から三日間、風紀委員会に監査が入る事になったそうです!」

 生徒の自主性を重んじるこの学園では、当然、生徒会の判断によって、委員会や部活動は廃止や設立が可能だ。生徒が申請し、生徒会が受理し、という流れは、生徒手帳にも記載されている。

「それも直接、生徒会長が直々に、見に来ると宣言しているらしくて!」
「は?」

 俺は、今度こそ頭痛を覚えた。完全に殴られたような気分だ。

 この学園の生徒会長――、梓馬董一郎(アズマトウイチロウ)の事が、俺は大っ嫌いだからだ。一言で表すなら、奴は、『俺様』だ。俺様という言葉を、俺はBL本で学んだ。なお、俺にそっちの気は無いが、俺が通うこの男子校は、同性愛者の巣窟なので、見回りでよく遭遇し、注意をしているので、特に嫌悪感は無い。俺が嫌悪感を抱くのは、それこそ梓馬に対してくらいのものである。

「そうか……こうなったら仕方がないな……」

 俺は、フッと笑った。すると一年生が瞳を輝かせた。

「徹底抗戦ですね!? 我らが風紀委員会の底力を見せつけましょう!」
「いや、解散で良いだろう」
「――え?」
「監査が入る前に、こちらからも解散希望書類を提出すれば、即解散だったはずだ」
「えっ!?」
「仕事もしなくて良くなるしな。俺もそろそろ受験について考えたい所だったから丁度良い――何せ、人手不足で、いまだに後任も決まっていないしな」

 俺がそう言うと、一年生が遠い目をした。それから、彼は気を取り直したように拳を握り、声を上げた。

「風紀委員会は必要です! 委員長がいなかったら、この学園は大変な事になります!」
「そうか? そう言われてもな、俺も来年は三年生だし、どのみち卒業していなくなるぞ? 誰だってそうだ」

 この学園は、お金を積めば卒業可能なので、中退者はほぼいない。

「委員長! 今、すべき事を、よく考えてみて下さい!」
「ああ。幸い今年は、まだ王道転校生が来ていないから、今の内に解散した方が良いな」

 俺が一人頷くと、ついに一年生が叫んだ。

「違ぁあああう! 生徒会に直談判に行くべきです! これは不当な解散要求です! 理不尽さを訴えるべきです! いかに僕達風紀委員会が、学園の秩序を守るために奮闘しているかを、きちんと伝えるべきです!」

 え……と、思った。直談判だと? それって、梓馬の所へ行けという事だ。絶対ヤだ。俺はあいつの顔を見るのも嫌だ。見回り中にうっかり遭遇しそうになった場合、俺はそれとなく方向転換をし、とにかく避けている。

 理由は、一つだ。

 俺には、そっちの気はゼロだというのに、中等部時代に寮で同じ部屋になったら、やつに押し倒されて、突っ込まれたからだ。太いブツを、後ろの穴に、突っ込まれたのだ。痛……く、は無かった。巧い所も、当時、腹が立った記憶がある。

 確か、『この俺様に抱かれるなんて、幸せなやつだな』とかなんとか、頭がお花畑の事を言っていたから、俺は激おこ状態になり、事後――やつを取り押さえて、強姦魔として、当時の風紀委員会につきだした。

 結果、俺はそのまま風紀委員会に勧誘され、今に至る。

 なお、同室だった中等部二年の当時は、三日に一回は突っ込まれて、俺は都度、風紀委員会室につき出していた。そのため、「自分で風紀委員として取り締まったら? こっちも調書取るの怠いし、自作してもらえない?」と、俺にBL本を渡してきた当時は中等部の委員長をしていた前任者に言われたものである。

 思えば、当時から、風紀委員会は役立たずだった。

 俺は自分で調書を作成するようになったし、やつが生徒会に入って一人部屋を入手するまでの間は、犯され続けていたのだ。調書なんか、意味が無いのだ。取り押さえても、この学園は、お金の力で全てどうとでもなるから、大富豪の一人息子らしいやつには、誰も勝てない。教師すらも勝てない。

「大体、委員長ほど品行方正で、校則を遵守し、見回りにもその他にも熱心で、なのに授業を欠席するでもなく、日々淡々と強姦被害を減らしている、素晴らしい人格者、模範的な優等生に対して、生徒会は、『無能!』と言っているんです!」

 へぇ、としか思わない。俺の名前は、加能幸忠(カノウユキタダ)と言う。昔からある渾名の一つは、それこそ『無能』だ。

 しかし――まぁ確かに俺は、品行方正かつ高速は守っているし、自分の仕事はしている。理由は簡単で、俺は、臆病(チキン)だから、校則違反をして怒られるのが怖いのだ。俺は奨学生なので、悪い事をしても、お金ではもみ消せない。

 強姦被害の阻止は、自分が辛かったからだ。何が辛かったって……――言葉責めだ。俺は、非常にキレっぽく、怒りの沸点が低い。すごい低い。なのにその俺に、やつはネチネチネチネチ、「体は喜んでいるようだなァ」だのなんだのと、おっさん臭い台詞を吐きながら……ま、まぁ、実際に俺は、気持ち良いと思う程度には開発されてしまった……。

 授業に出ているのは、奨学生だから、奨学金をもらう条件に単位の取得があるため、お金で単位を買えないので、仕方なく出ている。風紀委員会も、昔は特権で授業に出なくて良かったらしいのだが、何故なのか梓馬が生徒会長になってから、それが廃止された。

 あの時も、この一年生は、非常に憤慨していたような気がする。今年の春の話だ。

 俺は正直、授業にはあんまり行きたくない。理由は、特権があるというのに、生徒会長の梓馬まで、教室にいるからだ。中三の頃は、俺は授業を免除されていたので、梓馬が教室に居る場合、さらっと帰っても、単位がもらえたのにな……。

「とにかく! 抗議に行ってきて下さい! 僕は副委員長と相談して、大至急臨時の風紀委員会の会議を招集しておきます。そこで、結果を教えて下さい!」

 そう言うと、一年生は出て行った。残された俺は、億劫すぎて、肩を落とした。

 コレ……生徒会室に行って、直談判をしなかったら、絶対、委員会メンバーに口?されるだろうな。それはそれで、面倒だ。でも梓馬には会いたくない。

「……」

 暫く悩んだ末、俺は立ち上がった。
 もうすぐ、二限が始まる。
 梓馬は授業に出ているだろうから、今は不在のはずだ。今の内に行こう。

 こうして、俺は欠席する事にし、生徒会室へと向かった。
 コンコン、と、ノックをする。

『入れ』

 響いてきた声に、俺は思わず目を細めた。眉根が下がる。どこからどう聞いても梓馬の声だった。どうして今日に限って、生徒会室にいるんだ? そう考えながら――俺は踵を返した。出直そう。

「入れと言っているだろうが。この俺様が許可しているんだぞ? あ?」

 その時、俺の背後で扉が開いた。うげって思った。出て来ちゃったよ……。
 俺は仕方なしに振り返り――風紀委員長としての仮面を顔に貼り付けた。

「不当な要求があったと耳にしてな」

 努めて冷淡な声を作る。気合いを入れ直し、本来チキンであるのだが、俺は冷徹な風紀委員長になりきった。BL本に出てきた風紀委員長風の台詞を吐く。

 正直、俺が凄むと、みんな逃げていく。俺は冷酷な風紀委員長として名を馳せている。俺は、外面を作るのが得意だ。しかし、普段はやる気が出ないため、風紀委員会のメンバーは、俺のダラダラさを知っている。ちなみに寮で一緒だったから、梓馬も多分知っている……。

「不当だと? ならば、三日後から、それを証明しろ。この俺様に、な。この俺様が、直々に見に行ってやる」

 類い稀なる上目線に、俺は白けた。しかし表情は崩さず、梓馬を睨めつける。
 すると梓馬が、ニヤリと笑った。その瞳は、何故なのか、いつも獰猛そうだ。
 例えるならば、肉食獣のようである。

「まぁ、入っていけ。この俺様が、許可しているんだからな」
「結構だ。そちらの意思が固い事は理解した。風紀委員会の貢献度を、その目に見せてやる」
「入れと言ったら、入れ」
「お前に命令される筋合いは無い」
「貴様は、俺様の言葉に従っていれば良いんだ。何度言わせるつもりだ?」
「ならば校則に、そう記せ。俺はそれが規律ならば、喜んで従うぞ」
「――悪くねぇ案だな」
「は? 頭がわいているようだな、相変わらず」

 俺がそう言った時、舌打ちしてから強引に、梓馬が俺の手首を掴んだ。
 そして強制的に生徒会室の中へと連れ込むと、ガチャリと施錠する。

「どういうつもりだ?」
「久しぶりに、抱いてやる」
「へ?」

 思わず聞き返した瞬間、梓馬が俺をその場で押し倒した。
 毛足の長い絨毯の上で、俺はネクタイを引き抜かれ、シャツを引き裂かれた。

「や、止めろ!」
「俺様のものが欲しかったんだろ?」

 自信満々の様子で、再び梓馬がニヤリと笑った。俺のベルトを神速で外した梓馬は、俺のボクサーの中に手を入れて、直接的に陰茎を握った。これは、やばい。

「ちょ」
「久しぶりに可愛がってやる。有難く思え」

 ユルユルと陰茎を扱かれ、俺は息を詰める。そのまま下着を脱がされて、俺は梓馬に伸し掛られた。抵抗しようともがいた時――梓馬が俺の唇を奪った。

「ッ」

 そうして下を甘噛みされた瞬間、俺の体がツキンと疼いた。
 ――実際、久しぶりだ。

 俺はそっちの気が無いため、恋人も当然いない。

 だから梓馬としかヤった事は無いのだが、なお言えば、風紀委員会の仕事が多忙すぎて、ここの所は、自慰すらしていなかった。正直、溜まっていた……。

「んぅ」

 続いて乳首を軽く噛まれた時、俺は思わず声を漏らした。我ながら恥ずかしい。こうされると、俺は抵抗できなくなる。だから、捕まえるのは、いつも事後になってしまうのだ。事前に取り押さえようにも、それより一歩早く快楽を煽られるため、体から力が抜けてしまう。

「ぁ、ァっ」

 舌先で乳頭を舐められ、唇で挟んで吸われる。そうしながら陰茎を撫でられる内に、俺の陰茎は、あっさりと張り詰めた。それを見計らっていたように、梓馬が胸ポケットから、ローションの瓶を取り出した。

「ん、ンン、んぅ」

 続いて、ヌルヌルした梓馬の指が、俺の中へと入ってくる。その刺激に涙ぐみそうになったが、俺はこらえた。

「いつもそうやって可愛くしていろ。貴様は、俺の性奴隷なんだからなァ」
「だ、誰が――ァ、っ、ン、ん!!」

 その時、前立腺を刺激され、俺は悶えた。内部を刺激されているのに、射精感が募っていく。出したい。

「あ、ああっ、うあ、はッ」
「相変わらず、ど淫乱だな。もう中が蕩けきってるみたいだぞ? 本当に、貴様の体は正直で良いな。挿れて欲しいか?」
「……さっさと指を抜け! 俺は帰る――ああああああ!」

 俺の言葉が終わる前に、強引に梓馬が肉茎を挿入してきた。
 めり込んでくる熱く長い凶悪な陰茎は、容赦なく俺の中を抉るように進む。

「あ、ハ、うあ、ァ、や、止めろ」
「ひくついてるぞ、貴様の中は。締め付けてくる。俺様のものを離したく無いらしい」
「ぁ、ぁ、ァ、ンぅ、ひッ」

 梓馬が体を揺さぶった。その刺激が、俺の快感を煽る。息が上がった俺は、思わず梓馬の首にしがみつこうとした。すると両手を掴まれ、絨毯の上に押さえつけられる。

「清楚で潔癖と名高い風紀委員長のこんな淫らな姿、一般生徒が見たら、どう思うかな? なぁ? 興味があるだろ? ン?」
「あるわけが無いだろう――ぁ!! ッ、ん!!」

 その時、太股を持ち上げられて、斜めに突き上げられた。感じる場所に、よりダイレクトに刺激が届く。そこを巨大な先端で何度も刺激され、思わず俺は目をきつく閉じた。

「貴様は、俺の体の虜らしいなァ」

 嘲笑するように、梓馬が言った。それから一度引き抜き、力が抜けている俺の体を起こすと、梓馬は今度は背面座位で、俺を後ろから抱きしめるようにしながら、再び挿入した。

 俺の腰を持った梓馬が、馬鹿にするように笑った。

「挿れている所が丸見えだな。正面を見てみろ」

 その言葉に、虚ろになってしまっている視線を、俺は正面へと向けた。
 するとそこには巨大な縦長の鏡と――何故なのか、カメラがあった。え。

「取り締まる役のくせに、こうやって俺様に抱かれてよがる貴様の姿を全校生徒にみせてやらねぇとなァ。風紀委員会の解散理由の一つとして」
「な」

 俺が硬直した時、梓馬がイヤホン型のマイクを取り出した。同時に小さなリモコンで、カメラのスイッチを入れていた。え、いや、い、いくらなんでも――!

「や、やめろ! ぁ、ぁ、ああっ、うあ」

 その時、梓馬が俺の感じる場所を突き上げ、再び腰を掴んだ。梓馬の膝のせいで、俺は太股を閉じられない。鏡には、俺と梓馬の結合部分が映し出されている。という事は、カメラにも映っているはずだ。

「ああっ、うあ、あ、ああ、ン、あ、ああっ」

 声を封じたいのに、突き上げられる度に、どうしても声が漏れてしまう。

「えー、全校生徒の皆様ァ、俺様に抱かれて好がっている風紀委員長様をご覧下さい」
「!」

 ニヤニヤしながら、梓馬が言った。俺は凍りついたが、同時に体の熱を意識して、どうして良いのか分からなくなる。体と理性が乖離していた。

「ン――っ、あ、ああっ、うあ、あ、ああっ、ゃ」
「いや? 何がだ? ん? 気持ち良すぎてか? 貴様は本当に、俺様のもので貫かれるのが好きだもんなァ? あ?」
「あ、あああっ、ッ、やぁァ」

 梓馬は俺の腰を掴んで揺さぶってくる。その後、キュッと俺の乳首を両手で摘んだ。その指先に与えられた刺激が、ジンジンと全身に広がっている。腰から手が離れたからなんとか体を上げて抜こうと試みたのだが、そうすると再び腰を掴んで、最奥まで貫かれた。

「うあああっ、ひ、ア、ああっ、ン――!!」
「えー、全校生徒の皆様ァ、中だけでイけるど淫乱の風紀委員長様をご覧下さい」
「あ――!」

 そうして、一際感じる場所を突き上げられて、俺は放った。ゼェゼェと息をしていると、まだ果てていない梓馬が、すぐに俺の感じる場所を再び突き上げた。

「ひっ……あ、あ、まだ……ッ! や、やめろ、辛っ」
「気持ち良すぎて辛いのか?」
「うあああっ!」

 快楽がせり上がってきて、すぐにまた俺の陰茎は、反応を見せた。
 すると、梓馬がコックリングを取り出して、俺の根元にはめる。

「ひ、ア! あああっ、やめろ! ァ、ああッ!」

 その状態で、前立腺をグッと押し上げるように突かれた。

「あ、あ、あああ、あ、あ、ア」

 何かがせり上がってくる。それは水のように静かな快楽だ。

「雌イキしろよ。貴様は、俺の陰茎の虜で、女みたいに中だけでイけるなもんなァ?」
「うあああああ!」

 漣のように快楽が広がっていく。それが快感の本流になった時、俺の頭は真っ白になった。出していないのに、達した感覚がする。

「いやああああああああああ!」

 思わず泣き叫びながら――俺は、中だけで果てた。荒い息をしながら、俺は正面のカメラを一瞥する。そのコードの先が、生徒会の校内放送用のモニターにつながっているのが見えた。放送中の緑のマークが点灯している。

「う、嘘だろ、あ、ああっ」

 羞恥に駆られたが、梓馬の膨張した陰茎は、俺を貫いたままだ。俺は気づくと腰を振っていた。

「ど淫乱な風紀委員長様に、果たして校内の――特に性的な注意をする権利があるんだろうか? あ?」

 小馬鹿にするように、梓馬が言う。カメラが恥ずかしいのに、俺の腰は止まってくれない。更なる快楽を求めて、自然と動いてしまう。

「や、ャア、ま、また、またクる、あ――!!」

 こうして俺は、中だけで再び果てた。前からは放てないままだった。
 ぐったりとして、俺は梓馬の胸に背中を預ける。
 今度は俺が締め付けた時に、梓馬が中に放った気配がした。

「監査の間中、貴様の痴態を全校生徒に当然見せてやる。これで全員が理解するだろう。貴様が俺のものだとな」
「……」
「『無能』な風紀委員長様が、俺様の性奴隷だと、もう大半の生徒は知っただろうがなァ」
「……」
「この俺様がわざわざ見回り先に会いに行ってやってるのに避ける上、教室にまで顔を出してやってるのに無視した報い、きちんと受けてもらうぞ。当然だな。失礼な事に、この俺様が貴様ごときに片思いをしているなどという馬鹿げた噂が流れていてなァ。俺様は激怒している。メロスの七倍は、頭にきているだろう」

 つらつらとバ会長が何かを言っていたが、俺にはもう理解する気力が無かった。

 そのまま力が抜けた体で――俺は、梓馬が陰茎を引き抜く前に、意識を落とすように眠ってしまった。


 気づくと俺は、風紀委員会室にいた。ソファに横になっている俺を囲むように、メンバー達がいた。

「! お気づきになられた! 目が覚めた!」
「大丈夫ですか……? 委員長」

 口々に、皆が心配してくれた。なお、俺は過去に何度も調書を自分で提出してきたため、ここにいる人々は、俺が梓馬にヤられていた事を知っている。

「俺は、どうしてここに? どうやって戻ってきたんだ?」

 尋ねた俺の声は、掠れていた。喘ぎすぎたのだろう。

「バ会長が、お姫様抱っこをして、送ってきたんです!」

 風紀の副委員長がそう言うと、みんなが静かに頷いた。
 腰にだるさを感じつつ、上半身を起こしながら、俺はそれを聞いていた。
 シャツのボタンは飛んでいたが、幸いブレザーは無事で、なんとか隠れている。

「いくら独占欲が強い上、もう三年も片思いをしているとはいえ、あんな形で全校生徒に『自分のものだ』と証明するような、卑劣な生徒会長を、決して許してはダメです!」

 副委員長がそう言うと、周囲が頷いた。俺もそう思う。というか……。

「流れていたのか?」
「「「「……」」」」
「あのカメラ……動いていたしな……」

 俺がポツリと呟くと、皆が視線を彷徨わせた。

「そ、その! 非常に扇情的で、お綺麗でした!」

 一年生が、フォローになっていないフォローをしてくれた。矛盾しているが、フォローのつもりだろうというのは、かろうじて理解した。


 ――なお、その三日後から、監査に梓馬はやってきた。カメラを持参している。

「貴様が淫乱では無いと証明しろ」

 そう言うと、俺の服を剥き、バ会長は、俺に突っ込んできた。
 執務机に手を付く形で、立ったまま貫かれる。
 風紀委員達は、その場にいたのに――誰も止めてくれなかった……。

 こいつら、本当に無能だ。やっぱり風紀委会は、解散しても良いだろう。

「あ、ああっ、ッ――く、ン……ああ!」

 顔を赤らめて、俺を視姦しているメンバーに、殺意がわく。
 自慢げに笑いながら、巨大なブツを、梓馬は俺に突っ込んでいる。
 上半身を執務机の上に、ついに俺は預けた。

 その俺の腰を掴み、荒々しく獰猛に、ガンガンと梓馬は抽挿している。

「気持ち良さそうだなァ? ん? どうだ?」
「あ、ああっ、うあ」

 それは事実だったが、反論したいのに、俺の口からは嬌声しか出てこない。

「貴様は、俺様のものが、大好きだもんなァ?」
「うああああ!」

 感じる場所を一際強く突き上げられて、俺は白液を放った。机の側部が、俺の出したもので汚れ、それはタラタラと下に向かい落ちていく。

「えー、全校生徒の皆様ァ、風紀委員長は自ら風紀をこうして乱していまーす。注意するような権利が、本当にあると思うのか? あ? 風紀委員長じゃなくて、俺様の雌犬が適職だな。無能な風紀委員長は、俺様の虜だからなァ」

 失笑するように、梓馬が言う。俺は泣きたくなってきたが、既に生理的な涙で頬が濡れきっていた。我ながら潤んでトロンとしてしまっているだろう瞳で、俺は生徒会長に振り返る。ズルリと梓馬が陰茎を引き抜いたのが分かった。タラタラと俺の菊門からは、梓馬が出したものが垂れていく。

 そのまま――監査という名目で、風紀委員長の実態を探るとして、俺は梓馬に嬲られ続けた。これは監査であるから、強姦ではないとして、風紀委員達は注意を出来ないらしい。酷い話である。

 三日間ずっと、こうして俺は、梓馬に犯され続けた。

 廊下を歩く度、教室へ行く度、見回りをする度、その場にいた生徒達は、俺を見て頬を赤らめていた。授業中に嬲られていた俺の姿は、その間ずっと各教室のモニターに映っていたらしい。時には、ギラギラした、欲望まみれの視線を向けられた。

 ――そして、やっと監査が終了した翌日、ついに結果が出る事になった。

 もう解散して良い。それに、そうなるだろう。俺は溜息をつきながら、決定を聞くために、生徒会室へと向かった。すると、ニヤリと梓馬が笑った。

「そろそろ自分が、俺様のものだという自覚が生まれたか? ん?」
「……結果は?」

 俺が淡々と聞くと、梓馬が獰猛な欲望の宿る瞳で、ねっとりと舐めまわすように俺を見た。

「風紀委員会の解散は、取り消しとする」
「――え?」
「いやなぁ、全校生徒達の要望が多くてな」
「……どういう意味だ?」
「なんでも、俺様に抱かれて貴様が悦んでいたのは、俺様に惚れているからだそうだ。恋は仕方がないという結論らしい。まぁ俺様は、貴様が俺様に惚れている事など、とうに気づいていたがな」
「いや、それは無い」
「チ」

 俺が断言すると、不愉快そうに、梓馬が舌打ちした。

「――風紀委員会の解散は見送るとして、恋愛関係にある場合の性交を、校内で認めるという校則の変更を行う事にした。全校生徒の要望で、な。よって、風紀委員会の見回りの仕事は、今後は必要ない」

 その言葉に、俺は適当に頷いた。なんだかもう、面倒くさい。

「今後は、恋人として、この俺様が可愛がってやる。この俺様の恋人になれるなんて、貴様は幸運だな」
「は?」
「全校生徒の要望だからな。仕方がない。生徒会長として、その意見は汲まないとならねぇからなァ」
「……いや、なんだその理屈は」

 俺が呟くと、再びニヤリとバ会長が笑った。

「――というより、貴様は鈍すぎる。外堀から埋めるしかなかった。俺様のものだと証明するために」
「へ?」
「これから覚悟しろ。体だけではなく、心も俺様の虜にしてやる」

 意味が理解できず、俺はぼんやりとそれを聞いていた。
 ――その後、何故なのか、梓馬の態度へ激変し、俺のストーカーのようになった。

「ユキ、俺を好きだと言え」

 まず、梓馬は俺を渾名で呼ぶようになった。あまり呼ばれた事がない渾名だ。
 現在、教室で、隣の席に梓馬は座っている。
 何故なのか、急に席替えが行われた結果だ。

「っ」

 帰ろうとして立ち上がっていた俺の横に、梓馬が立った。
 そして強引に俺の顎を持ち上げると、深々とキスをしてきた。
 口腔を嬲られ、俺は息苦しくなる。だが、問題はそこではない。

 ――キスだけで、俺の体は感じてしまい、力が抜けるのだ。

 一番上まできちんとボタンをはめている俺のシャツを、ブレザーを脱がせてから、梓馬が外していく。恋人同士であれば、公衆の面前で性行為をして良くなったため、クラスメイトが何人も残っているというのに、それには構わず、梓馬は俺を脱がせていく。

 ……恋人ではないのだが、俺は校則には逆らえない。周囲が、俺達を恋人同士だと認識しているらしかったから、俺はされるがままになっている。下もおろされ、そのまま梓馬に口淫された。

「ひっ、うあ」
「さっさと認めろ、そろそろな」

 俺の耳元で、梓馬が囁いた。

「ン」
「じゃねぇと、続きはおあずけだ」

 出そうな寸前で、梓馬がフェラをやめた……。こうされると、俺はもうだめだ。いつも言ってしまう。

「好きだ……梓馬」
「董一郎と呼べと何度言えば分かるんだ? あ? 全く、手間がかかる犬だな。これほど躾てやっているというのに。この俺様が、わざわざ。よし、部屋に行くぞ」

 そのまま、俺は、バ会長の寮の部屋に連行され――放課後から、翌朝まで、抱き潰された。俺はいつの間にか理性を飛ばしていたらしく、気づいた時には、窓から朝の陽光が差し込んできていた。

「おい、梓馬」
「名前で呼べ」
「……なんで俺に、こんな事を? 風紀委員会に中等部時代に訴えた報復か? そんなに俺が嫌いなのか?」
「――あ? 俺様が、そんなに器が小さいわけが無ぇだろ」
「じゃあ、何故だ?」
「そ、それは……馬鹿な奴だな」
「なんだって?」
「一度しか言わねぇから、よく聞け」
「ああ」
「――貴様が、好きだからだよ」

 俺は、響いた梓馬の声に、瞠目した。

「バ会長……さすがに馬鹿だけあるな」
「あ?」
「好きだというのが本心ならば、こんなハメ撮りを流される行為をされた上、至る所で視姦されながら、犯されている俺が、お前を好きになるわけがないし、寧ろ嫌いになると、どうして分からないんだ?」

 思わず率直そう言うと――何故なのか、傷ついたような顔で、梓馬が顔を背けた。

「俺様の事が嫌いか?」
「ああ。大っ嫌いだ」
「――まずは、それでいい。執着、愛と憎悪は、紙一重だというからな。徐々に追い詰めて、俺様以外を見えなくしてやる」

 俺に向き直り、獰猛な瞳を輝かせて、梓馬が笑った。それを見て俺は――……この自信に満ちた顔が、嫌いではないと、ふと思ってしまった。

 以来、俺は梓馬の事ばかりを考えている。
 奴の目論見は、成功しているようだ。悔しい事だが。

 そのまま、季節が巡り、俺達は三年生になった。卒業時期が迫ってきた頃には、俺は梓馬がそばにいるのが、自然な事だと感じるようになっていた。絶望的な話だが。

 ――そして。嫌いだと思う心が、僅かに変化した。

 梓馬の体温が、心地良くなっていて、俺は梓馬に触れられるのが好きになった。実を言えば、梓馬の体温だけは、最初から好きだった。だから、押し倒されると、そのまま吸い付けられるように、俺は快楽に身を委ねていたというのもある。

 次第に行為をしていない時も、俺は梓馬を目で追うようになっていた。
 多分、俺はもう、梓馬の事が好きだ。そう思ったから、俺は伝える事にした。

「梓馬」
「だから名前を呼べと何度――」
「俺も、やっと好きになったみたいだ」
「あ?」
「梓馬の事が好きだ」

 唐突な俺の告白に、梓馬が動きを止めた。そして珍しい表情――ポカンとしたような顔をした。間抜けな面だ。その後、梓馬は、俺に対して初めて見せる、柔和な顔をした。微苦笑が浮かんでいる。

「知ってる。貴様ごときが、これだけ相手にしてやっている俺様に惚れないわけがない」
「――悔しい話だが、そうだな」
「やっと認めたか」
「ああ。絆された自分自身が情けないが」

 俺が自嘲気味に呟くと、不意に優しく、梓馬が俺を抱きしめた。いつもは荒々しいのに、この時俺を抱き寄せた腕は、とても柔らかかった。

「愛してる」

 梓馬に耳元でそう囁かれた時、俺の胸がトクンと疼いた。
 やっぱり俺は、いつの間にか、惚れていたらしい。
 ――これは恐らく、体から始まった恋であるが……俺は満足している。

 その後、普段はやっぱり、梓馬は俺様だったが、時折俺に対して、優しい視線を向けるようになった。二人で同じ大学の、同じ学科に進学し、同棲を始めてからは……梓馬は、俺を溺愛するようになる。

 だがそれは、また別のお話だ。俺は、今、梓馬が好きである。



【了】