【3】朝
入学式は、明日だそうで、オリエンテーションが明後日だと聞いた。
春。丁度訪れた四月、窓の外には桜が咲いている。
集団生活というのが、僕にはまだピンと来ない。食事はルームサービスを頼む事にして、タッチパネルで注文した。電話とタッチパネルが、キッチンの隅についていた。自炊用なのか、一通りの家電もある。料理も火や刃物を使用するから、教養では習わなかった。
父と兄はともかく、使用人も不在の食事は、物心がついてから、初めての事である。運ばれてきたフレンチを一瞥してから、僕は食器の返却時もパネルで仕事を頼むのだと知った。寮生活とは、中々大変だと思う。服も自分で全て身につけなければならないのだから。
食後は、ゆっくりとお風呂に入った。ここでも髪を乾かしてくれる使用人はいない。入浴こそ一人で可能だし、体を洗う事も髪を洗う事も僕は出来るが、実家では着替えてからは使用人が髪を乾かしてくれるのが常だった。ドライヤーを自分の手で持つのは、思えば初めてかも知れない。髪も自分で梳かすのだが、こちらは経験があった。
こうしてなんとか眠る準備をし、僕は翌日の入学式に備える事とした。
朝――目覚まし時計の音で、僕はゆっくりと双眸を開けた。朝食を頼まなくてはと考えながら、僕は着替える。規則正しく実家で生活してきたから、体に身に付いたリズムがある。だから起床に不安は無かったが、朝食を見知らぬ人が運んでくると思うと、少し憂鬱だった。既に我が家が恋しい。