【SS】甘く、優しく。
東の土地を治める魔王となって、三年が経過した。同時にそれは、僕がセクト・バルバディス公爵と体を重ねるようになって、三年目だという事でもある。今年で僕は、二十六歳だが、相変わらず外見は十六歳のままだ。
「ユーリ」
「ん?」
夜、寝台に寝転がっていると、隣にいた公爵に声をかけられた。炎を司る魔族の彼は、その割に体温は低い。
「もっとお前が欲しい」
そう言うと、僕の顎をきつく掴んで、公爵が僕の口を貪った。舌を絡め取られる。強く吸われると、それだけで淫魔の血が混じった僕の体は、熱を孕む。先程までも、散々交わっていたというのに、公爵は強欲だ。
彼はドロドロに僕を甘やかしている。常に、甘い声で僕の名前を呼び、僕の頭や頬を優しく撫でる。荒々しいのはキスと性行為くらいのものだ。それらに関しては、僕は身を焼き尽くされそうになる。
「人間の世界で、空元気で明るく笑いながら、一人きりになると悲愴で瞳を滲ませていたお前が懐かしいな。やはりお前には、笑顔の方が似合う」
唇を離すと、そう言って公爵が笑った。照れくさくなって、僕は顔を背ける。すると公爵が僕を抱き寄せ、腕枕をした。
「辛かっただろう?」
「……今、僕は幸せだ。あの日々があってこそだから、これは。全部、僕にとっては大切な記憶だよ。確かに最悪だったかもしれないけどな」
僕は公爵の胸板に額を押しつけた。あれらの苦しみの日々は、大本をたどればこの公爵が、僕に人の身には過ぎる力を与えたからではあるが、それは僕が望んだ事だった。今、前東の土地の魔王から譲られた王冠のおかげで、僕の中の魔力は安定している。それは日々も同じだ。心が安からな毎日で、それもまた、与えてくれたのはバルバディス公爵だ。
「俺は、始めからユーリが綺麗な人間だと思っていた。人間にしては、綺麗だという方が正確だ。それに、強い意思を見て取って――光や希望ばかりを見ているその瞳を目にして、絶望させてみたくなった。堕ちてきたお前は、さぞや美味しいんだろうなと思っていたぞ。だが、中々屈しない。それがまた、見ていて面白くてならなかった。それでこそ、魔王様となるには相応しいと思っていた。人間に対する恨み、西の土地への恨み、それらがあるのは更に良い事だと俺は思いながら、毎日お前を眺めていた。が、結果としてお前は人間も西の土地も恨まず……綺麗なままで魔王様になった。魔王様の生い立ちとしては、実に新しい」
つらつらと公爵がいう。いつか彼は、僕を抱きながら、計画通りとなったと口にしていた。僕は静かに目を伏せる。
「今の僕は、美味しくはなかったか? 想像よりも」
「いいや。最高だ。お前は、優しいな。ユーリのそんな所も、俺は好きだ」
この夜、更に僕は、公爵に体を染め上げられた。
僕を好きだと繰り返しながら、僕を深々と貫く、公爵の陰茎に、僕は何度も震える声で喘いだ。
「ぁ……っ、ッ」
「ここが好きだろう?」
「う、うん……あ、ああ……」
「気持ち良いだろう? いいんだぞ、素直に言って」
「あ、あ、気持ち良い……っ、あ……ア!」
散々乱暴に暴かれた後に、穏やかな再挿入であったからなのか、いつになく公爵の手つきが優しかった。いつも以上に、僕の感じる箇所を弄び、優しく昂めてくれた。すぐに吐精した僕が、涙を浮かべながら肩で息をしていると、喉で笑ってから、公爵が緩やかに抽挿を始めた。感じる場合を優しく刺激され、僕は頭を振る。
「あ、ぁ……ああ……っ、もっと」
「良いだろう。快楽を素直に受け入れられるようになってきたな」
羞恥に駆られて、僕は唇を噛む。すると公爵が穏やかに笑った。
「ユーリ。お前の望みを、俺は叶えると約束する。だからその身体、これからも俺にだけ喰べさせろ。俺はお前が好きだ」
「うん……ん、うん……僕、あ……ぁ……僕も好きだよ」
「その言葉、違えるな。そして何度でも繰り返してくれ」
甘く優しく囁かれ、それから感じる場所を突き上げられて、僕は放った。公爵もまた、僕の中で果てた。
現在、僕の生活は、非常に穏やかに、愛に溢れて続いている。
(終)