初めてのクリスマス



 今日はクリスマスだ。
 僕と降大が付き合って初めてのクリスマス……緊張するなという方が無理である。ケーキを作り、料理を作り……朝から僕はずっとそわそわしている。イヴの夕方になったら、降大は我が家に顔を出すと話していた(それまではバイトらしい)。

 なお、既に我が家には、赤鐘と日廻が来ている。月極と三人で、新作のVRゲーム中だ。青兎は予備校の関連、頼は仕事の都合でこられないらしい。本日は他に狐塚が顔を出す事になっている。青兎と狐塚が逆だったら、それこそブラッディ・バロンのメンバーだけの集まりだったと言える。二人が来られないのは寂しいし、狐塚が逆に来られるのは喜ばしいのではあるが。

 ……とはいえ、初めてのクリスマスだから、僕としては降大の存在が一番気になる。プレゼントは準備済みだ。マフラーを購入した。果たして喜んでくれるだろうか?

「黒麦も一緒にやらないか?」

 料理が一段落した所で、ゲームに誘われた。脳UIを取り外している皆を見て、僕は迷った。

「今始めたら止まらなくなっちゃうと思うんだよね」

 降大が来た時、に。
 そう考えていた時、エントランスの呼び鈴がなった。降大か、狐塚か。

「なんや、そんな残念そうな顔せぇへんでもよくない?」

 入ってきたのは、苦笑している狐塚だった。そんなつもりは無かったので、僕は狼狽えた。確かに僕は降大を待っているけれども、狐塚にだって会いたかった。

「今日の黒麦は、心ここにあらずなんだよ」
「そうなん?」

 月極の言葉に、狐塚が面白そうな顔をした。赤鐘と日廻も顔を見合わせて笑っている。なんだか気恥ずかしくなったので、僕はゲーム機を手に取った。

「やるよ。僕もやる」

 こうして、今度は五人で、新しいVRMMORPGへログインする事となった。
 これが中々面白い。
 キャラメイク中から僕ははまり込みそうになってしまった。

 ――結果。

「おい若葉」

 訪れた粋龍――こと降大に、ヘッドセットを取り上げられて、僕は漸く我に返った。

「あれは食べていいのか?」
「え、あ、う、うん――いつ来たの?」
「二時間は前だ。誰ひとりログアウトしないもんだから、とりあえず煙草を吸ってた」
「早く声をかけてくれたら良かったのに!」
「随分と楽しそうだったからな」

 幼馴染から恋人になった降大の、地味な優しさが僕は好きだ。

「一緒に食べよう。温め直すから」
「有難う。まぁ、奴らは放っておくか。それとこれ、メリークリスマス」

 降大はそう言うと、僕に小さな箱を渡した。慌てて僕もチェストの上からプレゼントを手に取る。

「僕からはこれ」
「おう」
「開けて良い?」

 降大が頷いたので、僕は箱を開けた。するとそこには、新しい時計が入っていた。時計は過去にも記念日に貰った事がある。そのブランドの新型の品だった。

「有難う」
「こちらこそ――というより、マフラーは普通に嬉しい。今年、買いそびれていたんだ」
「うん。寒そうだったからさ」

 そんなやりとりをしてから、僕達は一足先にケーキを食べる事にした。
 他のみんながいつまでゲームをしていたのかは知らないが、僕はその夜は、降大と二人でゆったり過ごしたのだった(途中からは僕の部屋で)。