気になる。
「兼貞くん、よ」
暫し歩いていくと、兼貞遥斗は、マネージャーの、遠寺(とおでら)に声をかけられた。
「はい?」
「やっぱ、KIZUNAの事、意識してるのか?」
遠寺から見ると、兼貞が同世代の芸能人に率先して絡みに行く姿は、非常に珍しいものだった。その言葉に、チラリと背後を振り返ってから、兼貞は微笑する。
「ま。若手の中じゃ、存在感ありますしね」
「兼貞くんほどじゃない。お気に入りなら良いけど、そうじゃないなら変な揉め事は起こすなよ? あちらにとってもこちらにとっても接触は迷惑だ」
エレベーターを待ちながら遠寺が言う。彼は純粋に兼貞を心配している。
しかし――そういう事ではないんだけどなぁと、兼貞は内心で考えていた。
その後、車に乗り込みながら、兼貞は本日のロケ地の資料を受け取った。現場は、新南津市という土地で有名な、呪鏡屋敷(ジュキョウヤシキ)と呼ばれる民家らしい。行き先が決定されたのは、三日前の事だった。
――決定したのは、番組スタッフでは無い。スポンサーの一つである、六条総合サポートという会社の意向だ。実はこの会社は、兼貞家の分家筋の者が経営している。
少し前に、この呪鏡屋敷に、大学生達が遊びに行き、構築されていた結界をうっかり一部破壊してしまったらしい。それを契機に、兼貞家の現当主である叔父と六条総合サービスを経営する、六条彼方(ロクジョウカナタ)が、新南津市で活動しやすくする理由作りをしたいらしい――と、兼貞は聞いていた。
兼貞家は、知る人ぞ知る高名な陰陽道の家柄である。しかしそれを知る人はほとんどいない。表立って動くのは、六条家だからである。兼貞家で、陰陽道といった方面で活躍しているのは、兼貞北斗(カネサダホクト)という現当主のみである。兼貞遥斗は悠々自適に芸能活動をしているし、従兄の兼貞泰斗(カネサダヒロト)は現在研修医をしている。
だが後々、兼貞家の当主にと期待されているのは、直系長男の血筋である遥斗だ。
その為、時には家の仕事を手伝う事もある。
例えばそれは今回は、『呪鏡屋敷の結界を完全に破壊してくる事』だったりするのだが、周囲は兼貞のそう言った事情は知らない。
遠寺も疑う事なく、通常のロケだと信じている。
兼貞自身も、多少の霊感を売りにしているとはいえ、普段は無力なふりをしている。
そもそも、オカルトを売りにしていて、本当に霊感がある者など、ほぼいない。それもあって、兼貞は気になる。絆の事が。視えに視えているらしい同業者を見ると、危うさを感じる事もある。
――だから、気になる。
それが端緒の一つだった。