【番外】バレバレ(★#BLサイコロ※2020)







 俺とロトの付き合いは、その後も順調だ。ロトというのは、俺が運命のライバルだと定めていた人物であり……現在では、俺の恋人である存在だ。つまり、そんな俺達の付き合いが順調だというのは……恋人同士として、上手くいっているという事である。

 別段俺とロトは、お互いの関係を公言しているわけではない。だから俺達が、恋人同士である事を知っている人は、そんなに多くはないと俺は思っている。

 そんな俺とロトであるが、それぞれ魔術師として、現在――双方が所属する騎士団で働いている。今回は、古い、王国(ロゼリア)の関連の遺跡が見つかったという事で、合同騎士団が編成される事となった。

「それでは、続いて新師団の指揮官を紹介する。ロト・フォン・ローデンフェルド」

 ロトの名前が呼ばれたのを、俺は自分の席で聞いていた。実力が確かな戦略魔術師である師団からロトが選ばれるのは、今では当然の事だと思える。今回、副官は誰になるのだろうか。前回は第一騎士団のヒルトが副官、第二騎士団のロトが大抜擢された形だったが――と、考えていると、司会をしていた騎士が俺を見た。目が合う。

「今回の副官は、ライゼ・フォン・バルシュミーデ。ロトとは幼年士官学校の頃からの友人だというし、気心が知れているようだね。応援しているよ」

 俺はその言葉に目を丸くした。
 正直、俺はロトの次に――いいや、ロトに負けないために頑張って力をつけてきた自信があるし、今回も、もしかしたら選ばれるかもしれないと考えては、いたのだ。立ち上がり、深く腰を折りつつ、それでも緊張してから俺は唾液を嚥下し、そうして顔を上げた時には、完璧な笑顔を取り繕っていた。

「ご指名を頂いた、ライゼ・フォン・バルシュミーデです。ロトの補佐を精一杯努め――」

 そこから俺は、即座に脳裏で用意した挨拶文を読み上げた。幸い、敵対的な視線は飛んでこない。それもそうだろう、俺は我ながら頑張っている。司書魔導師という貴重な事が可能なスキルのある俺ではあるが、俺以外が役にすごく立たなかったり、役立つところを間違えていたり、ICBMとモアイを同列視している現代日本関係者である中において、俺は真っ当に頑張っていると思う。そう、俺は、転生者である。


 この日はそうして終わり――俺は、家へと帰宅した。すると、扉の前に、俺よりも早く本部を出たロトの姿があった。当然だ。俺達は現在同棲中の恋人同士であり、一緒に暮らしているのである。

「事前に打診を受けていたのか?」

 ロトは腕を組み、背中を扉に預けながら俺を見た。

「いいや」
「そうか。なんだかライゼの挨拶を聞いていただけで、今回の調査の成功を確信してしまった」
「大げさだな」

 思わず俺が吹き出すと、ロトもまた両頬を持ち上げた。それから二人で、室内へとはいる。明日から五日間は、休暇である。その後から、本格的に調査会議や行動が始まるので、その前に、俺達にはお休みが与えられているのだ。

「明日は、雪百合を見に行くんだったな?」
「ああ。ロトが気になると話していた庭園のチケット、抑えてあるぞ」
「――気になる理由はまだ話していなかったな」
「ん?」
「ライゼの香水の匂いによく似ている気がしてな」

 そんな事を言うと、ロトが俺を抱きしめた。
 俺は腕を回し返しながら、両頬を持ち上げる。以前であれば、ロトに負けず指揮官になりたいと思ったかもしれないが、現在は、純粋に、力になれる事が嬉しい。

 その後、室内へと入り、食事をした。俺が作ったかに玉を、美味しそうにロトが食べてくれたし、本日も卵の割り方を褒めてくれながら、手伝ってくれた。

「ライゼ」

 食後、入浴を終えると、ロトが俺を寝台へと押し倒した。腕の合間からロトを見上げた俺は、頬が火照ってきたような気がした。端正なロトの顔が、俺を見下ろしている。

「この休暇が終わったら忙しくなるな」
「ああ」
「だが――この任務に従事している間は、昼もいつも一緒にいられるな」
「ロト。私情を仕事に挟むな」
「ライゼの事は特別なんだ」
「ん――っ、ぅ……」

 ロトが俺の首を舐め、噛み付くように吸い付いてきた。ツキンと疼いたその感覚に、俺は震える。俺だって本音を言えば、常にロトと共にいたい。

 ローションを指に絡め取ったロトが、俺の服をはだけ、後孔に指を差し込んだ。そしてゆっくりと抜き差しされ、俺の吐息が上がっていく。震えながら、俺は熱く荒く吐息して、ロトの首に両腕を絡める。

「ロト、ぁ……」
「辛いか?」
「早、く」
「煽るな、馬鹿」

 俺の言葉に苦笑すると、ロトが陰茎を俺の菊門にあてがった。

「ああああああああああ!」

 そしてそのまま一気に貫かれて、俺は涙を零した。交わっている箇所が、とにかく熱い。蕩けてしまいそうな感覚になりながら、俺はただ快楽に喘ぐ。そんな俺の腰骨を両手で掴むと、激しくロトが打ち付けてきた。

 この夜は、散々交わっていた。朝方二人でシャワーを浴びて、何度もお互いの唇を貪ってから、俺達は朝食を取った後、雪百合を見に行った。

 その後の休暇中、俺達は何度も体を重ねながら――愛し合いながら、愛の言葉を交わしながら、様々な風景を見て回った。俺は、本当に幸せだ。なにせ、ロトと一緒にいられるのだから。ロトは、俺をきっと、一人にする事は無いだろう。俺はそう信じているし、願っている。


 ◆◇◆


 ――こうして休暇が終わった。
 俺とロトは、一緒に家を出たが、多分誰も、共に暮らしているなんて気がつかないと思う。

「今日からよろしくな!」

 俺が職場の椅子をひくと、隣から声がかかった。視線を向けると、ヒルトの顔があった。もう何度も組んでいるので、俺は頷いて返す。

「ああ、こちらこそ」
「――いやぁ、でも、不思議と悔しさはない。ゼロ。ロトの横に居るのはお前が自然だわ」
「っ、そ……そうか?」
「うんうん。で? ライゼ。お前は、今回の休暇は何をしてたんだ? 調査といえど危険はある。思い残す事が無いように、色々してきたか?」

 ヒルトは、(俺とロトがいない場合に限って)全体の一位である人物だ。実力も確かだ。最初は俺も敵対視すべきかと思ったが――なんと、とても性格が良かった。現在、ロトを抜いて、俺に気さくに話しかけてくれる数少ない友人は、紛れもなくヒルトだ。

「あー。今回は、雪百合を見てきて」
「雪百合? またコアな」
「それから初代司書魔導師が伝えたというカレーを、ゲレンデで魔導スノボをした後に食べて、隣のオルゴール館に行って」
「――ん?」
「ん?」
「え? その後もしかして、第二代司書魔導師がもたらしたという日本酒を飲んでから、牡丹鍋を食べた感じか?」
「? どうして知ってるんだ」
「い、いや……あー、へぇ……ふぅん。あ、そ、その――ライゼとロトって、プライベートでも親しいんだな?」
「へ!?」

 突然の言葉に、俺は目を見開いた。するとヒルトが、片目だけを細めて、困ったように笑ったのだった。

「そういう仲だとは知らなかった」
「な」
「――いや、お二人を知る僕らにはバレバレですからね」

 その時、俺達に、幼年士官学校時代から一緒の魔術師であるルキが声をかけた。

「だってお休みの日程が、毎回一緒ですもん」
「!」
「な、なるほどなぁ。ま、まぁ、公私ともに親しいんなら、成功率も上がるんじゃね?」

 ヒルトが適当にまとめた。俺は、ルキの指摘の意味に、この時初めて気づいて赤面した。

「何をしているんだ?」

 そこへ、上官と会議をしていたロトが戻ってきた。ロト……まさか俺と同じ休日の日程を周囲に喋っていただなんて……! どうして気付かなかったんだ!

「あー、その、お幸せに?」
「――ヒルト。言われなくとも、俺は幸せだ」

 ロトは首を捻ってから、俺を見た。そしてちょっとグッとくる笑みを浮かべた。胸が疼いた俺は、何も言えないままで真っ赤になるしかない。ロト、格好良すぎる。

 しかし、今気にするべきところは、そこではない。
 まさか、周囲に露見していただなんて……!


 この夜――帰宅し俺は、野菜炒めを作りながら、ロトにどう話そうか考えていた。全く、気恥ずかしすぎるではないか。

「ただいま」

 俺よりも遅く帰ってきたロトの声に、俺はエプロンを解いてソファに投げつけながら、思わず目を吊り上げた。

「ロト! どういうつもりだ!」
「何が? 俺は何か、怒らせるようなことをしたか? 記憶にないが」
「ヒ、ヒルトが! ルキも! 俺達の休暇の日程が同じで、だ、だから――」
「? 同じことをしているのだから当然だと思うが?」
「そ、そんなのは――」
「なんだ?」
「か、隠さないのか?」
「隠すのか? どうして隠す必要があるんだ? 俺達は恋人同士なのに?」

 素直クール過ぎるロトの声に、俺は言葉を失った。確かにそれは事実だ。この、同性愛も寛容な社会にあって、確かに別段隠す必要はないのだろうが……。

「寧ろ、もっと公言して回りたいんだが」
「――え?」
「ライゼが照れ屋だと知っているから、これでも自重しているんだ。分かってくれ。密やかな、俺の自己顕示欲くらい認めて欲しい」
「!」
「俺は本当は声を大きくして言って回りたいのを、我慢しているんだ。ライゼ。ところで、いつになったら正式に結婚してくれるんだ? 俺は、何度もプロポーズしたと思っているんだが?」

 このようにして、その後も俺達の日々は続いていくのだった。






     (終)