1


秘密結社、ヴェルジニア・レッドクロスの朝は早い。
 現在――午前四時半。

「えー、これより闇司祭議会を始めまーす」

 気だるげな声で、議長席で、ロードクロサイト議長が宣言した。
 出席者はほぼ全員が、黒色のローブ姿で、フードを深々とかぶっている。
違うのは、議長と二人の副議長だけだ。

 ロードクロサイト議長は、医療院の術着。
 ハルベルト副議長は、赤紫色のローブで、背中に派手な青い薔薇の刺繍がある。
 もう一人の副議長のレクス伯爵は、上質な貴族服そのままだ。
 ハーヴェスト侯爵家の家紋入りである。

「本日の議題は――……」

 この時間に会議が開催されているのは、医療院の医師という表の顔で多忙極まりないロードクロサイト議長が、残業を終えるのが大体いつも深夜四時だからである。彼は、夕方後時には仕事が終わるはずなのに、何故なのか翌日の朝まで仕事をしている。本人も仕事中毒ではあるが、医療院はブラックなのかもしれない。

「……――副総長がお帰りになる?」

 ロードクロサイト議長が首を傾げた。

「俺の兄だ。ロードクロサイト議長がギルドに入る少し前から、王都を離れていたんだが、今回戻ってくることになった。よろしく頼む」
「レクス様の兄……はぁ。おう、分かった」

 明らかに嫌そうな顔でロードクロサイト議長が頷いた。黒曜石のような瞳を細めている。実に端正な顔だが、仕事疲れと会議に対する意欲ゼロが滲み出ていた。

 彼はあんまりにも有能すぎるために選挙で議長になってしまったのだが、本人にはあまりやる気がないのである。さらに、このギルドはハーヴェスト家に忠誠を誓っているのだが、そういう因習にも興味がないため、あまりレクスとも親しいわけではない。

 そのためギルドには、古くからの伝統を守るハーヴェスト派と、新進気鋭で実力主義のロードクロサイト議長派が存在する。ハルベルト副議長もロードクロサイト議長派だ。なお、現総長のクライス=ハーヴェストは、レクスの父であるのだが、時東とも非常に良好な関係である。この人物自体が、あまり伝統を重んじるタイプでは無いからかもしれない。

「何かこちらで用意することはあるか?」
「結構だ」
「そりゃあ何より。じゃ、次の議題は――……何? また生体魔術兵器が発見されたのか……あー、処理状況は?」
「討伐完了しました!」
「よくやったハルベルト副議長。次――」

 このようにして、会議は進んでいった。
 週に一度、月曜の早朝は、大体このような感じである。

 今後もそうだろうとロードクロサイト議長こと時東は思っていたし、周囲もそうだ。強いて言うならば、戻ってくるという副総長が、頭の固い人物で無ければ良い程度に願っていたかもしれない。

 会議は約四十分で終了し、仮眠を取った後、時東は医療院へと出勤した。