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「それが最初のギルドを抜けた理由で、アンチノワールを抜けた理由は、母さんが亡くなったからだ。だからみんなに気にしないように言っておいてくれ」

 俺がそう言うと、場に沈黙が流れた。なんだか気まずい。
 それはそうと、俺は考えた。レクスを養うためには、やはり沢山お金があったほうが良いだろう。さらに、目の前の二人ならば身元がしっかりしているから、安心だと思う。本来選べる立場ではない俺だが……!

「そ、それで、仕事なんだけどな……俺は何からしたら良い?」
「危険だからまず安全確保からだ」
「時東の言う通りだね」
「俺は大丈夫だ」
「レクスにも被害があるかもしれないだろ?」
「!」
「ゼクス、レクス君の事を思うなら、ボディーガード的な何かを雇ったほうがいいよ」

 その通りだと俺はハッとした。だが、雇うお金がない。オロオロしながらレクスとふたりを交互に見る。

「それにVRとはいえ、あんまり顔出しの仕事は望ましくないな」
「うん。俺もそう思う。俺達どころか全員の雇用案、再考すべきかもね」
「え」
「もう出しちゃってるクラウンズ・ゲートはともかく」
「ああ。それにクラウンズ・ゲートは変質者もやっているんなら、運営サイドにいたら、協力してもらって生体接続情報から、次に来たら捕まえられるかもしれない。そうしたら今後は安全だ」

 二人が俺やレクスのために言ってくれているのは嬉しかったが……とすると、残りの350万円はどうすれば良いのだろうか……。

「まずは体調も整えるべきだと思うよ」
「少し点滴するか」

 時東がそう言って、持参していたカバンを開いた。
 するとレクスが頭を下げた。

「よろしくお願いします」
「え、レクス、俺は大丈夫だから――時東、ありがたいけど、本当に――」

 断ろうとしたが、その時には腕を取られていた。チューブを巻かれて、注射針を刺される。なんだか情けない。俺はソファの背に体を深々と預けた。

「……350万円になるインパクトがある企画……」

 思わず俺は呟いた。すると時東と高砂が顔を見合わせた。

「いや、ちょっと待って。顔出さなければ、俺たちのところで雇える」
「おう。俺と高砂に雇われるが方が安全だ」
「その……確かにお金は必要だけどな、無理に……っ……、……」

 無理に雇ってくれる必要はないと言いかけて、俺は言葉を飲み込んだ。自分一人だったらその通りで、迷惑をかけたくない。だがレクスの事を考えるなら、無理にでもなんでも雇ってもらった方が良いだろう。

 そう考えていた時、体がポカポカしてきた。最近冷たかったのだが、ふわふわしてきて……眠気がきた。今は大切な話をしているのだからと気合いを入れるのだが、眠い。すると時東が言った。

「俺と高砂も少し考えておくから、今日はもう休め」
「悪いな……」

 こうして俺は、そのまま眠ってしまったようだった。


 ――俺は、足音で目を覚ました。家の中を、大勢の人が行き交う気配がした。
体を起こすと俺はソファで寝ていて、タオルケットが掛かっていた。腕にはまだ点滴がある。何事だろうかと思っていたら、レクスが俺に気づいた。

「兄上、大変だ。俺と兄上の父親が見つかった」
「――え?」
「兄上の昨日の動画を見て、母上にそっくりだからもしやと思って連絡をして来たらしい。先程時東先生が鑑定してくれたんだが、親子で間違いないらしい」
「!!」
「ここにいる人々は父上の秘書だそうだ」
「秘書?」
「父上は大企業に社長らしい」
「レクスそれ、詐欺じゃないのか?」
「安心しろ、俺は兄上と違って詐欺になど引っかからない」

 本当だろうかと俺が首をかしげると、レクスが自信たっぷりに頷いた。