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正直、俺は、ぼっちだ。コミュ障ではないと自分では思うのだが、出会った瞬間から遠巻きにされる事が多く、中々親しい話し相手が出来ないのである。最初は、両親が、日独ハーフと日仏ハーフで、俺自身がハーフともクォーターともつかないからかなと思った。あるいは帰国子女だから、祖父が外資系大企業の経営者だったり、祖母が茶道の名家の出自でいつも和服を着ていたり、と、色々考えた。だが、どうやら顔が悪いようだった。
俺は、モデルとデザイナーをしている。俺の顔は、人を釘付けにする効果があると言われた。写真だけだから喋らなくて良いし、笑わなくてもそれが個性だと言われたものである。デザイナーは、その縁だ。スカウトではなく母が元々俺をモデルにし、デザインは、絵を描いていたら母に勧められたのである。家でできると言うのも良かった。
外に行っても馴染めないのが大きい。だからと言ってインターネット上なら馴染めるというわけでもなく、大学の講義は、ほぼこれでこなしていたが、友人は一人しかできなかった。資格があればスキップで入学可能となった十三歳の時に、やはり同じ年で入学した相手で、声をかけてもらったのが契機だ。ルシフェリアである。本名かどうかは知らない。
ジュエリーデザイナーだった母は離婚し、服のデザイナーである義父と再婚したから、俺は、各国を行ったり来たりする事はある。父とも義父ともゼクスは仲は悪くない。これを契機に服のデザインも学び始めて、義父の会社で学んでいるイリスとも友人になったのは、良かったと思う。二人目の友人だが、直接会ったことはない。ルシフェリアともそれは同じだ。スカイプで雑談するのである。
年の離れた異母弟が生まれた。それがレクスだ。レクスもまた俺の実父とも親しいようで、むしろ俺より親しいようだ。俺もレクスが可愛いのだが、俺はもう一人暮らしばかりだから、中々会う機会がないのが寂しい。何より俺は、日本に戻って定住したのだ。
幼い頃は、日本は特にみんなが遠巻きにするから嫌だったのだが、モデルになったら、日本が一番環境がマシだったのだ。他の国は勝手に写真を撮られたりサインを求められるが、日本は遠くから眺められるだけで良かったのである。反面、デザイナーとしても、日本企業は一番使ってくれたのだ。この頃には、若手高級ブランド、若者向けのシルバーアクセサリーブランドで、それぞれ時計や指輪、ピアス、ネックレスや腕輪、財布、ネクタイ、カバンなどまで色々作り、その他に、衣類や靴のデザインを手がけていた。
そこに、VR内の衣装デザインの話が舞い込んで来たのは、イリスの経由だ。アメリカで始まったばかりの仮想現実システムで、最初は会話ツールとして広まったのだが、当時服は、デフォルトのものしか存在しなかったのである。みんな同じなのだ。これが結構楽しくて、俺はイリスと二人で頑張った。その内に、VRゲームというのが生まれてからは、武器デザインや防具デザインも始めて、ゲームデザイナーという肩書きも得た。モデルより、こっちの方が楽しかった。ルシフェリアもゲームを始めた頃、ゲーム内で各自がシステムを利用してオリジナルの武器などが作れるようになった。そこでルシフェリアにイリスを紹介して、三人で作ったりするようになった。それもまた楽しい。
こういう生活をしていて少しした時、初の国内産VRMMORPGが発売されるという広告が、日本で流れた。ここまで、仕事でデザインはしてきたが、ゲームはあんまりやってこなかった。そしてゲームだったら、外見も声も変えられるから、友達が出来やすいというのも、段々気づいていた。――やってみようかな? ドキドキしながらそう思った。みんな初めてだから、良いかなと思ったのである。
ゲームに接続するGUI――グラスユーザーインターフェースは、一つ一つが高額なので、日本に限らず、まだほとんど普及していない。実はこれは、ルシフェリアの開発物である。ゲームを始めて、ゲーム専門のGUIをルシフェリアは生み出すに至ったのである。元々VRシステムの研究がメインだったのは知っていたが、さすがに驚いた。さて、これを持っている限定で、ゲームのテストが行われるという事で、応募登録が始まった。先着順だが、それでも余裕があるくらい、持ち主は少ないようだった。
名前は、クラウンズ・ゲートと言う。基本は、キャラクターを作り、街から街へと旅をして、ボスを倒し進んでいくRPGだ。進む間にレベルを上げたり、生産として装飾具や武器を作ったり、個人で受注できるクエストを行ったりするゲームである。自分の作ったものを売買できるし、プレイヤー間でもクエストとして依頼をしあえたりもする。ボスを倒す時は、六人までパーティを組める。ギルドも作成可能だ。チャットとメール機能がある。というものである。
イリスとルシフェリアもやると言う。イリスは、いくつかのアイテムをデザインしたから確認で、ルシフェリアも日本版のGUIの確認をしたいそうだったので、俺がその時やると話したら、じゃあ一緒にやろうかという話になったのである。全員が空いている日にゲーム内で集まろうという事に決まった。
こうして俺は、わくわくしながら、限定テストの初日を待った。朝十時からだったのだが、ずっと待機していた。一人暮らしだから誰も見てはいないのだが。