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翌日、ゼストからチャットが飛んできて、お礼を言われた。個別チャットは、一回につき一人としかできない電話のようなものなので、そこからはグループチャットにして、それぞれ自分のレベルを上げながら、ダラダラ話した。パーティだと経験値が減るというのもある。それにレベルだけ上がっても使い方が覚えられないというのもあるし、ゼストもレベル上げが好きらしく、俺も自分のが好きだから、別々という感じだ。だけど一人だと暇なのである。という意気投合により、ダラダラ話しながら、黙る時もいきなり黙り、それぞれで活動した。質問されたら答える。俺は他には、桃花源グループとギルチャがあるので、三つをやりながら、という感じだ。ギルチャでは、ずっといるのはイリスである。みんないるのだが、パーティを組んでいる事が多いから、彼らはそっちも忙しい。グループチャットは、個人作成は基本都度解散なのだが維持設定ができるので、ゼストと俺は三回目くらいから維持にして、ずーっと話していた。直接は会っていないが、毎日話しているという感じだ。こうして八ヶ月目が終わった。
九ヶ月目に入ってすぐにも、ダンジョン攻略に行った。今回は一週間半ほどかかった。今度のは、非常に強かったというのが理由だ。総合は全員カンストだし、各自必要スキルは全部カンストだが、それでも強かったのである。大人数向けなのかもしれないという話になった。ちなみに俺達以外は、全員『マイセスの街』から進んでいないようだ。以降はちょこちょこ挑戦してはいるが、到達できていないという話である。優越感もゼロではないが、他を頼れないのは切なくもある。俺と同じくらいの時間やっているプレイヤーはいても、レベルが同じなのは、このギルドくらいのようだ。うちのギルドはレベルが高いというのもあるが、他が低いというのもある。もう交流にシフトした人がかなり多いのだ。
さて、しばしの間、グループチャットを切っていたので、久しぶりに、ゼストにチャットを送った。維持していても聞こえないようにもできるので、集中しているから切っていたのだ。まだ残っているかなと思ったら残っていた。ゼストに、ダンジョンが終わるまで消すけどどうすると聞いたら、残しておくから終わったらダンジョンの事を教えてと言われたのである。
ゼストは、マイセスの都にいるそうだった。前線に追いついていたのである。流石である。俺はレベル50過ぎの状態でキャップと街開放後に付いたが、ゼストは48だと言っていた。みんな、35前後で到着するらしい。そのまま、55くらいまでで停滞するそうで、俺達と同じ頃に開始した人々も55くらいが圧倒的に多いそうだ。全然知らなかった。久しぶりに遊ぼうという話になった。
行ってみたら、装備が俺が上げたやつのままだった。
「買わないのか?」
「それがさ、買ってみたんだけど、こっちの方が強かったんだ。多分だけど、武器レベルより、製作者の生産レベルで威力変わるみたい」
「そうなの?」
「うん。耐久性は、もうみんなそれを知ってる。武器レベルと生産レベルは、まだ噂や検証が色々。ほら、使う人のステとかもあるから」
「なるほどなぁ。何買ったんだ?」
「ええとね、『マニシスの双剣』かな」
「マニシスの方が、俺の時は確実に良かったな。検証してみるか? 俺、マニシスある。俺作とルシフェリア作と共同作の三つ空いてるのあるから、ゼスト持ってるやつと四つで試したら?」
「えっ、いいの!?」
と、こうして、ゼストに三つ渡して、プラス元々持っていたものと、ゼストに俺が上げた初心者双剣と五種類でテストする事にした。ついでに、その次の街である『ミナセスタの砦』にも行ってみる事になった。ゼストは行きたかったらしいが、向かうパーティ募集も、一個もないと嘆いていた。自分で募集してもみんな来ないらしい。笑った。
「うん、これ、確実に生産者の生産レベルが一つある。鍛冶レベルと採掘レベルはわからないけど。後、ゼクスとルシフェリアが一緒だとすると、俺がゼクスの鴉羽の方で威力が上がるのは、俺のステータスに由来してるのか、それともゼクスのステータスに由来してるのか、だけど、ゼクスの方だと思うな。ゼクスがゼスペリアの青を持ってるから、同じの持ってる俺のも強化されるって感じ」
「ゼストは頭が良いな」
「ぶは」
「いや俺、そういうの全然考えてなかったから」
「あはは。ゼクスって面白いよね」
「そうか? うーん、あ、ダンジョンどうする? 正直、敵はここからは、この前俺達がついた所の手前まで、そんなに強さは変わらないんだ。思うに、ゼストが前衛と自分回復、俺が後衛とその他範囲で回復・攻撃で、行けるような気がする」
「本当!?」
「多分だけどな」
「行きたい!」
「じゃあ行こう。詰まる所まで」
「ぶは」
こうして俺達は進み始めた。ここからは、夕方に解散などは無くなり、お互いそれこそ廃人のように、ずーっとやっていた。気分的に俺も、自分のレベルより、もう一回旅をしているのが楽しかった。これは、急いでないから風景を眺めたりできたのが大きい。知っている場所だから、次に何が出るか怯えなくて良いのもある。フィールドは広いが、次のフィールドに向かう道を知っているから、その探索時間がほぼ無いので、断然早い。こうして、次の街、次の街、と、進んで、俺達の最新の『ワーゼルダウンの都』の二つ前まで来た。次のダンジョンを終えたら、ワーゼルダウンである。一ヶ月かからずに来たのだ。とってもすごいと俺は思った。ゼストもそう言って喜んでいた。何せ俺達のギルメン以外、ゼストしか来たことが無いのだ。これならば、ワーゼルダウンの次が開放するまでに、ゼストも追いつく。ただし次は、俺も回復してくれる人が欲しいという感じだった。そこで久方ぶりにギルドチャットで話した。
「なぁイリス今何してる?」
他のメンバーがパーティで他を支援しているのは知っていたので、イリスに聞いたというのもあるし、イリスが回復専門というのもある。
「んー? 暇を活用して生産をしてるけど、暇だよ」
「メルギセスのボス手伝って欲しいな」
「え? 全然良いけど、連戦でもしてたの? 最近ゼクスを見てないけど」
「いや、遊んでる」
「「「「「ぶは」」」」」
なんだか全員に反応された。俺がフレと旅をしていると聞いて、みんな何だか笑っていた。攻略速度が早いと突っ込まれた。後で紹介しろと言われて頷き、イリスとはボス前で合流にした。一度攻略していれば、転移で俺達はボス前に来られるのだ。ゼストにも、ボス前でギルメンが来てくれると話した。という事で、合流してパーティを組んだ。
「はじめまして」
「はじめまして。イリスだよ」
「あ、ゼストです」
「なぜ敬語?」
「だって、桃花源のイリスってゼスペリアの薬剤師でしょ?」
「「ぶは」」
「なんだそれ? イリスはゼスペリアの薬剤師なのか?」
「ゼクスうるさいよ。まあ僕の実力です」
「ぶは」
「笑うなし。ゼスト、僕を褒めたたえていいからね」
「検討しておきます」
「「ぶは」」
と、こうしてボスを倒して、そのままワーゼルダウンの都に向かった。そうしてひと段落して話していたら、イリスが教えてくれた。なんでもゼストはブログをやっている――というのは前にも聞いたのだが、マイセスの都にいた時点で有名なブロガーで、最近はそれ以降の攻略と武器検証(俺と一緒にやったやつだ)で有名で、一緒に攻略しているフレがいるというのも有名だったらしい。フレは、最初からやっているという情報だが心当たりが無いとイリスはハルベルトと前に話したそうだ。イリスは生産ブログをやっていたのである。二人もブロガーがギルドにいて、フレもそうだったと知り、俺は驚いた。
ゼストは、それからワーゼルダウンの都を本拠地にレベルを上げ始めた。俺とイリスと三人で上げていた。これは、イリスも普通に他の職スキルや攻撃・回復スキルが上がるし、俺のまだ上げていなかった職スキルも上がるしというのがあり、一緒にやったのだ。後は、クラウと義兄弟二名が、一週間くらいリアル都合で忙しいと聞いていたので、九ヶ月目のダンジョン攻略は、一週間後から開始と決まっていたのもある。それまで三人でレベルを上げたのだ。ルシフェリアとハルベルトは、二人でマイセス近辺にいるようだった。
そして攻略する日になった。
「じゃあ、ゼストとゼクスと僕とクラウで」
「ああ、こっちは俺とハルベルトと義兄弟だな」
合流時に紹介すると話していたのでゼストを紹介し、その後イリスが言って、クラウが頷き、ルシフェリアが答えた。ゼストが息を飲んでいた。
「えっ、行っていいの?」
「行かないの?」
「行きたいけど」
「じゃあ行こう」
俺も聞いていなかったけど「行こう」って言った。イリスが「行かないの?」っていったし、誰も反対者もいない。道中は全員だ。基本、ルシフェリアとゼストが話していた。ハルベルトとクラウがその前で道を探していて、俺とイリスと義兄弟が後ろの方だ。いつもルシフェリアが、前か俺達側のどちらかに動くだけで、大体こうである。和やかに進んだ。次のダンジョンには、六日半くらいで到着した。そしてダンジョンの中自体が、今回はすごく強くて、ボスは前回と変わらない強さだからそれなりに強いという感じで、ダンジョンだけで五日かかった。こうして十一日半で攻略し、その後もフィールドが広大だったので三日かかり、合計で十三日半、約二週間かかった。開始が一週間ずれたので、もう残り一週間で十ヶ月目突入だ。
ついた日に、ゼストが『ゼスペリアの教会』に入った。ギルメンになったのである。全員と仲が良い。ゼストは何だか最初は恐縮していたのだが、この頃にはもう馴染んでいたので、すごく嬉しそうなのが逆に驚きだった。憧れのトップギルドだったんだと言われて照れてしまった。こうしてゼストも『ゼスペリアの教会』の称号を得た。ブログを更新したら、すごい反応だったらしい。