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 一度行った街には、街の移送鏡や無色透明で転移できるし、無色透明だとフィールド単位で移動できるので、俺はとりあえず初心者の街に行ってみた。大混雑だった。すごい、人がいっぱいだ……。レベルも名前も見えないし、誰も俺の顔を知らないので、「ゼスペリアの教会だ……」とは言われない。しばらく歩いて、露店を眺めて、それからフィールドに出た。こちらは以外と人が少ない。見ていると、林檎がなっている木の前にいる巨大なハチのモンスターを倒してレベルを上げている人がいた。頑張っているが、見ていると死亡して、街からすぐに戻ってきて再開していた。暗殺者みたいだ。暗殺者は、俺のように友人がいて最初のように周囲に沢山いないと、ソロ用の職ではあるが、すぐに死ぬことが多いのである。全部できるがHPが少なくMPも少ないのだ。見た目は、リアルの俺と同じくらいの年齢だ。つまり二十歳前後である。黒いちょっと天パの髪に、青い目だ。俺もリアルは黒い髪で青い目だから親近感がある。今は大福様であるが。

 次に死にそうになった時に、回復してあげた。ヒールである。聖職者のデフォルトのスキルで強くないが、まだ低レベルの相手ならば全回復余裕だった。すると驚いたように振り返った後、またすぐに前を見て、その人がハチを倒した。見ていて和んだ。それから改めて振り返った。

「ありがとう」
「いえいえ」
「ハチが強い……俺はもうダメかと思ってた」
「あはは。俺も最初にハチに殺された時、もうこれはダメだと思ったけど、案外行けた。何とかなる」
「本当に? 一人で?」
「いや、二人でハチに殺されて、それから二人で乗り切った」

 ルシフェリアとの記憶である。懐かしい。イリスと二人でも同じ事があった。最初は度々死んだのである。ヒヤッとするものだ。

「二人でもすごいよね。ここ、六人フルパーティでみんなやってるみたいだった」
「そうなのか?」
「うん。けど、暗殺者ってパーティ入れてもらえなくて」
「えっ、そうなのか?」
「そうなんだよ。盾・魔術師・回復の2・2・2のパーティばっかり」
「あー、安定はするかもな。俺の周りでは見た事無いけど」
「職差別は酷いよ。見た事無いって、職何?」
「俺? 暗殺者」
「ぶは」

 吹き出された。一気に笑顔になられた。俺はデフォルトが笑顔のアバターだ。

「じゃあ先輩だ。名前なんて言うの? 俺はゼスト」
「俺はゼクスだ。先輩って響き格好いいな」
「――ゼクス? 暗殺者で、ゼクス?」
「うん? うん」
「ゼスペリアの青を持ってるゼクス?」
「うん」
「ええええええええええええ!? 俺、死ぬ程話が聞きたいから教えて」
「ん? 何を?」

 これが雑誌効果かと、ちょっと内心でテンションが上がりながら首を傾げた。

「あのね、俺、公式を見て、ゼスペリアの青と混雑型と朱匂宮と緑羽万象院が出るまで、二ヶ月半リセマラしまくって、三日前に始めたんだ」
「ぶはっ」

 あまりの衝撃に咳き込んだ。この展開は考えていなかった。リセマラというのは、リセットマラソンだ。出るまでやるという事だ。期間からして、公開テスト後すぐに開始してずっと作っていたという事だろう。

「二枚目は、何を選んでるか分からないから、とりあえず両方全部!」
「俺も全部だ」
「本当!? 良かった……けどさ、全部って序盤死ぬ程弱いよね」
「んー、俺の時みんなが弱かったから、差が分からなかったんだ」
「いいなぁ。俺も早く、みんなと同じレベルという感覚を味わいたい。エルナに行くと大体みんなレベル止まってて、他の職業を上げたり、生産を始めたりしてるって聞いたから、せめてそこに」
「そうなのか? 知らなかった。行ってみるか?」
「えっ、いいの?」
「うん。一緒に行こう」
「ありがとう! フレ良い?」
「こちらこそ」

 こうして俺に、フレができた。始めてのギルド外、という事になった。フレはレベルなどは見えないが、パーティを組むと見られる。するとゼストに吹かれた。

「カンスト!? 99!?」
「あはは」
「すごっ、本当に本物だ……疑ってたわけじゃないけど」

 ゼストが俺をまじまじと見た。瞳がキラキラしている。ちなみにゼストは、レベル3だった。ハチはレベル5である。他にはギルド名と基本職業が表示されるので、俺は『ゼスペリアの教会』と『暗殺者』と表示されている。

「先に、荷物整理と装備を整えに行こう。街に戻ろう」
「うん。けど俺の荷物無いし、装備もこれ以外ないよ」
「倉庫から?」
「から。全部売ってる」
「じゃあ今のハチのも売ったら良い。俺は、薬剤POTとか生産品とか見てくる」
「分かった!」

 こうして街に戻り、レベル10まで使えるHPとMPのPOTとレベル20まで使えるちょっとその上のPOTと状態異常解除POTの初級を99個ずつ倉庫から取り出した。余ったら一人でレベルを上げる時に使える。装備は、俺がレベル10から25の頃に一番好きだった奴の、俺がオリジナルで作ったもの一式だ。鴉羽銘か鴉羽商會か桃花源作である。

「完全にからになったか?」
「うん」
「よし、じゃあこれをあげよう。先輩風に」
「――ぶはっ、え、良いの!?」
「うん。作るの好きなんだ」
「そうなの? POT類は兎も角、三つ共、プレミアだよ? 超高い。出世払い?」
「え、高いのか? 出世払いは素材が良いな」
「素材は分かった。高いも何も、これ買えたら、ちょっと上級者のお金持ちだから。外部掲示板とかブログですごい評判だけど、見てない?」
「えっ!? 俺、見る間も惜しんでクラウンズ・ゲートをやってる……」
「ぶはっ。なるほど、それも良いな。特にさ、桃花源はPOTで見るけど、鴉羽商會はオシャレ、鴉羽銘は高性能高レベル武器しかないから、そういうので有名だ。なんかこう、一気に上級者気分になった」
「あはは。じゃあ行こう」
「うん、ありがとう!」

 こうして二人で、旅を始めた。最初のダンジョンまで雑談しながら進み、ゼストが攻撃して、俺は回復と攻撃、で、進んだ。パーティだから、経験値は低い方に多く入る。そして俺には入ってもあんまり変化は無いレベルだったりするが、雑談が楽しい。ゼストはブログとかそういうのに、すごく詳しかったのだ。代わりに俺はゲーム内部に詳しい。しかし、外部の方が色検証などは進んでいるようで、知らない事も沢山あった。攻略サイトなどがあるらしいのだが、俺達はそれができる前にもっと大分先をやっているから、全然話題が出ないというのがよく分かった。ちなみに攻略サイトは、ハルベルトがやっていると聞いて吹いた。知らなかった。ハルベルトは、『攻略サイトの管理人』として有名らしい。

 午後一時くらいに出会い、午後四時くらいにボスを倒し、午後五時半過ぎに、次の街であるエルナの街に到着した。サクサクと進んだのである。ほぼ倒したのは俺であるが、ゼストのキラキラした瞳を見ると楽しかった。満足感がある。ゼストも、都度興奮してくれるのが良い。

「本当にありがとう! ここまで来た!」
「あはは。どういたしまして」
「俺はここからレベル上げを頑張って、素材は逐一送るけど、いるのといらないのある?」
「そうだな、ここの一個前と二個前と、二個個先がレベル上げに丁度良いんだけど、二個先の『マンドラゴラの幼生』が落とす種は、いくらあっても困らない。けど暇な時に、で」
「分かった、ありがとう! レベル上げもそこがおすすめ?」
「暗殺者なら、そこのフィールドに入って右にまっすぐ進んで、大きな岩についたら、その正面の森に入った所にいる狐が良いと俺は思う。ソロなら、だけどな。パーティだと一個前をやる方が上がる」
「そうなの!? パーティしか知らなかった。ソロ情報ほとんどないんだ」
「あはは。俺、ソロは詳しいかもな」
「ぶは。やってみる。ありがとう。ブログに書いても良い?」
「ああ。ソロ情報が無いんなら、きっと役立つだろうけど、俺より自分をあてにした方がいいと思う」
「あはは。うん、分かった。また遊んでくれる?」
「うん。遊ぼう。俺、基本暇だけどコミュ障だから自分から連絡しないかもしれないけどいつでもしてくれ」
「ぶはっ、分かった」

 こうして、俺はゼストと別れた。なんだか俺もやる気が新たになり、その後は自分のレベル上げに励んだ。