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 さて――俺は、俗に言う億ションという所に住んでいる。
 超高級マンションだ。
 レクスが来たのは、8階にある俺の家だ。

 ワンフロアが俺の家で、この時点で実は珍しい。
 他の住人は、1階につき、3軒から5軒が入っているのだ。
 3階と4階が5軒で、5階と6階が3軒である。

 7階と8階は2軒、9階と10階は1フロア販売だったのだが――俺が7階から10階まで購入した。それでレクスが来たのは、8階の南側、俺の完全居住スペースである。

 他の階も俺だというのを、おそらくレクスは知らないだろう。

 まずここの、3LDKの、滅多に来ないが人が来た時に泊める部屋(父上とか)に、レクスが住めるようにした。と言っても、俺の私物を撤去しただけである。クローゼットを空にしたくらいだ。

 そうしながら、父上にまず連絡したら「それは良いねぇ」と一言で終わった。
 会議前で忙しかったらしい。

 次に執事にかけたら「お久しぶりでございます」と喜ばれて、レクスと会社を興そうと思う、レクスの商才も上がるし経営学は俺が足りないし、逆にレクスも手に職としてVRの内部環境デザインを覚えるそうだし、というのを、俺はこう、大企業創業家長男風に語ったら、俺のイメージを間違って抱いている執事が感動して泣き始めた。

 俺とレクスが仲悪くないけど良くもなかったのを心配していたみたいでそこも嬉しそうなのと、何よりレクスのゲームの愚痴三昧だった。課金と中毒がやばいという。

 俺、多分、負けてないんだけど、それは言わなかった。

 企画と、レクスにデザインを教えるのと、逆に経営を教えてもらうので、頻繁に食事もするし、大丈夫だと話しておいた。

 すごく喜ばれた。
 そもそもゲームをしている暇があるか分からないと俺は話した。

 ゲームの時間が=デザインの時間と俺の口は変換したのだ。
 だって、ほら、市場調査とかである。市場調査に膨大な時間がかかるとは話したのだ。

 あとは課金に関しては、俺名義だから俺が把握できるし問題ないといった。
 把握するだけで制限もしないとは言っていないが。
 執事とのやり取りは、俺の方が上手なのだ。
 付き合い長いからな。こうして無事に電話を切った。

 そして8階の北の部屋からは、7階と9階、10階への内部階段があったりする。洒落た螺旋階段だ。お気に入りである。黒くて、観葉植物がそばにある。

 まず10階に行った。ここに、超ひっそりと、最新型のVR設備がある。ゲームセットも、レクスが言っていた以上で、デザインの国内No.1どころか、それ込みの、ゲーム系世界No.1の機材がガツンとある。

 そう――俺も、というか、俺こそが廃人なのだ……それも、アースタロット・オンラインの。泣きたい。中央に機材室があり、本来はそこでVRをするのだ。6人まで同時接続可能である。そこにもチェアはあるが、俺は落ち着いてやりたいので、ここには入らない。ここはどちらかというと、大学の研究室とか病院なみの根幹基盤機材があるだけだ。

 さて、螺旋階段は、左の端の部屋に出る。そこから見て中央がそれで、左右に個室がある。右が俺用デザインVR室。ここにまず、俺のみのVR機材――バレないように、デザイン系特化の、レクスが言っていたシステムがある。

 ゲーマーとか俺は名乗らないのだ。

 そして左が、たまにデザイナー友達と会議をしつつ使っている、チェアが6つのVR室だ。同時接続は6人だが、チェアはいくつでも置ける。ここから3つの移動準備をした。

 それで部屋を出て、しばらく進むと奥の部屋が3つある。1つは、俺のガチゲーム用、1つは、父上とかがVRを使いたいと言って使う客用娯楽用のVR室。

 最後の1つは、俺のガチゲーム予備室。滅多に使っていないが、何かに備えて置いてあったのだ。

 どちらが良いか迷ったが、ゲーム用だろうなと思って、そこから俺私物のゲームにいらないものは撤去して、とりあえず娯楽用の部屋に移した。

 位置は、一番奥が客用、真ん中がレクス用、端が俺用になって、俺用はVR中央室にも繋がっている。

 チェア移動は、自動配置システムとエレベーターで行ったから、8階北に1つ、7階に2つ降りた。それが終わったので、俺は次に8階北に戻った。ここは俺の、デザインの資料室やデザイン部屋である。

 こちらも3LDKだ。1部屋が俺のデザイン部屋、1部屋が資料室で、最後の1部屋が試作品物置だったのだが、この物置の品を、俺は資料室に移動した。位置を変えて壁を移動したので、資料室が広くなった形だ。

 最後のひと部屋が、結果的に、デザイン机とデザイン機材、壁の本棚と、低めのチェストのコーヒーサーバーだけになった。ここには、VRチェアが無かったので、レクス用に下ろしたのだ。

 機材は俺のデザイン部屋と共通なので、椅子だけで接続可能である。
 デザインの練習室だ。VRシステム自体は、10階から流れている。
 まぁ良いだろう。

 こうして7階に降りた。ここが俺のデザイン事務所である。

 キッチンは大きいがテーブルは小さい。
 あくまで来客用の、給湯室だ。冷蔵庫もあるが。

 それで、エントランスの次が、共通の応接間リビングだ。トイレと洗面所はエントランスとリビングまでの廊下にある。

 応接間の突き当りの窓から見て、右側に大きい部屋が2つ。1つが、リアルの俺個人のブランドである、『アンチノワール』の職場である。

 その横の玄関側が、俺個人のVR専門デザインの企業の『エクエス・クラフト』だ。『黒騎士』とも言う。

 それで左側が3つで、キッチンよりの手前が、お祖父様と父上から渡された、役員をやっている会社の俺個人オフィスだが、まぁ、物置である。一部、二人からオーダーがあったリアルおよびVRデザインもここでやっている。

 そして奥の一つが、螺旋階段があって、完成品物置となっている。これまで、真ん中ひと部屋は、会議室としていたのだが、そもそも滅多に人は来ないし、来ても、アンチノワールか黒騎士のオフィスで会議するから、テーブルしかなくて空いている。

 ここにチェアを二つ下ろして、予備で置いてあったVRシステムと繋いだ。なお外部モニタリングの設備は最初からある。

 アンチノワールと黒騎士のオフィスには、俺専用のVRチェアが既にある。予備と客用にあちらは2つずつあるので、計3つずつある形だ。実家会社用も通信連絡に使う俺用が1つある。

 8階北に螺旋階段で戻った。ここはリビングに直通だ。そのまま9階に向かった。こちらは、階段の場所に小さな座れるスペースがある他は、3部屋だ。1部屋は、リアル衣装の完成品置き場。

 その横が、アクセサリーやカバン類といったその他である。最後の1部屋が、奥はカバン類の部屋から入れる、VRとの共通のアイテム置き場だ。既存の仮装ショップからいくつかはゲームのアイテムなどである。

 アースタロット・オンラインのものは無い。

 手前の扉から入れる部屋は、本置き場である。ひっそりと俺は読書が好きだ。

 さて、ここの衣装室を奥に押しやって、仕切りを配置して、空いている空間を作った。

 次に、アクセサリー類の部屋もそうした。中間の仕切りも自動移動システムで移動して、図書室脇にひと部屋作ったのである。

 そして扉を一個収納して、横長の、アースタロット・オンライン置き場を用意したのだ。これで試作品も置ける。かつ、壁側に狭い仕切りを作り、空いた扉を設置して、撮影スタジオを設けた。

 これにより、リアル商品撮影が可能になった。最近使っていなかったスタジオを物置から出して設置しただけである。

 データは、VRシステムに同期されるから、7階でも見られる。

 こんな感じかなと思って8階南側に戻ると、レクスが来ていた。テーブルの上に、VR以外の衣類とかのみ、レクス用の部屋に移動しておいてくれと書置きしておいたので、そうなっていた。

 もう終わっていたようで、設備の箱の隣にいる。自前のものも持ってきたのだろう。

「待たせたか?」
「い、いや……設備は他にあるのか? ここじゃできないのか?」
「ここでもできるけどな、まぁ見た方が早いだろう。ついてきてくれ。ゲーム用から案内する」
「ゲーム用!? あ、ああ」
「箱も一応な」

 俺の言葉に驚きながら、レクスが立ち上がった。そして南側に連れて行ったら、その時点で驚かれた。まさか扉の向こうがもう1フロアだとは思わなかったらしい。

 それはそうだろうと苦笑して、螺旋階段を登ったら、それにも驚かれた。足元に気をつけるように伝えて10階まで上がる。

 そしてレクスをゲーム用の部屋に連れて行った。

「個人チェア!? え!? こ、こ、これ、デザインセットもある、が、が、が、ゲーム最高峰!?!?!?!?!?」
「みたいだな。今ある中では、一番ゲームに対応しているみたいだ」
「うわああああああ!!!! そうか、ゲームデザインをしているからか!」

 そういうわけじゃない。俺の私物だ。だが言いにくい……。レクスは感激したようにそれを見つめている。頬が紅潮している……。

「兄上、こ、これは、俺も使っていいのか? 何時から何時まで!?」
「――これは、レクスがゲームをするみたいだから、持っていたもののゲーム用で使わないものを設置したものだ。だから、仕事以外の時は、いつでも使って良いし、逆にレクス以外は使わない。俺のは俺が持っているし、客用の娯楽VR室は別にあるからな。案内だけ先にするから、持ってきた設備箱はここに置いてくれ」
「!?!?!?!?!?!? え、え!?!?!?!? 本当か!?!?!?!?」
「ああ。デザインもそうだけど、集中する時は、一人が良いかなと思ってな」
「兄上有難う!!!!!」

 レクスが感涙した。まぁ分かる。

 個人用チェアの時点で、1台5000万円はするから、普通存在しない。
 俺が持っている理由は、開発者が俺の友人だからだ。

 次に隣の客間、その横は、『俺のゲーム系の動作確認室』と説明して、中央のメイン設備を見せた。レクスの想像は、このメイン設備が、8階の北側への扉の向こうにある感じだったらしい。笑った。

 その後、デザイン特化VR専用室と、その会議室バージョンを見せた。

「ここで仕事をしているのか? 今後その、ここで俺もやっていいのか?」
「ここは確認用だな。確認の特殊なのは、レクスもここでも良いけどな。仕事と事務所とデザインの部屋は下に用意したから、ついてきてくれ」
「あ、ああ!」

 次に9階に行き、奥のリアル完成品庫とゲームなどとの共用庫を見せた。共用庫のテンションがやばかった。書庫も一応見せたのだが、レクスは電子書籍派だという情報を得て終わった。

 そして空室に、今後のアースタロット・オンラインの商品を置く話とスタジオを見せたら、再度大興奮された。

 想像以上に現実的な状況で、話にリアリティが増したらしい。吹いた。
 そして8階北側に戻り、レクス用のデザインの部屋に連れて行った。

「ここでデザインしているのか?」
「いいや、俺は横の横だ。真ん中は資料室だから、レクスも使ってくれ。その向こうが俺の私的なデザインの部屋。ただそこは、趣味勉強用で、職場じゃない。この部屋は、レクスがこれから勉強したりデザインを個人的にやったり、覚えたり、そういうのに使ってくれ。レクスの私的なデザインの部屋だ」
「俺の!?」
「うん。逆にここの学習システムで覚えると、アースタロット・オンライン内のデザインもやりやすかったりもするかもなと俺は思う、ただ、それは自由だ。レクス次第だから、その内資格とる時だけ使っても良い。分からないのがあれば聞いてくれ――それで、職場が下だから、最後にそっちに行こう」
「あ、ああ……有難う」

 こうしてレクスが、ちょっと緊張した顔をして真面目に言ったので、俺は笑顔で下に向かった。まあデザイン事務所なので、このフロアは、ちょっとオシャレだし、オフィス風だ。レクスは、オフィスが入っているとは思っていなかったそうで、びっくりしていた。

 それで、俺の個人の3つを紹介したのと、階段の部屋および応接間が共通の打ち合わせの場所だけど人は来ないと説明した後――俺達のオフィスに通した。

 そして、外部からのアースタロット・オンライン接続画面を見せた。初めて見るそうで、レクスが感動していた。

 そこから、登録参入企業に渡されている、商品設置や企業情報画面を見せた。

「最初の仕事としては、この画面で会社情報を整える事になる。まぁ気楽にで良いけど、ここからは一応仕事となるから、スケジュールを決めて、そうやって動こう。レクスもこちらのVRでのアースタロット・オンラインの動作確認をしておいた方が良いだろうし、VRデザインのシステムも、アースタロット・オンライン側での実装前に上の学習システムで少しやってみた方が良いかなと俺は思う。だから、そうだな、明日の午後くらいに1回目の会議をして、ブランド名とか話すのはどうだ? 時間は任せる。今後のスケジュールもその時に」
「分かった。本当に有難う。明日の二時か夜の七時か九時半が良い。できれば七時」
「了解。じゃあ七時にしよう。ご飯食べながらよりは、ここでが良いと思うけど、大丈夫か? 今後の食事だけどな、冷蔵庫とかは自由だけど、俺は朝昼一緒のブランチで10時にいつも食べてる。夜はバラバラだ。自炊もできるけど、1階のコンシェルジュにルームサービスで頼める。その日でも大丈夫だ。2階には、コンビニとスーパーとパン屋さん、ケーキ屋さんが入ってるから、そちらでも良いしな。1階はレストランがある。マンションの鍵は、テーブルにあったの分かったか? 横に俺の連絡先と課金コードも置いた」
「ああ! 鍵と連絡先と課金は分かった。1、2階は――ルームサービスは知らなかった。便利だな……」
「それがあった所にメニューあるんだけどな、クリーニングサービスもあるから、洗濯も大丈夫だ。家の掃除は、俺はこれまでは、ロボット業者を頼んでいたけど、一緒でいいなら、そうだな――月に1度水曜日の朝九時から十二時にしようか?」
「よろしく頼む。掃除それが良い」
「ああ」

 俺は微笑したが、実は元々そうだったんだったりする……。

「基本来客は無いけど、あっても7階だし、8階以外は、たまに父上とかお祖父様が来るくらいだ。もし、レクスが誰か連れてくる場合は、レクスが一緒なら自由で良い」
「――娯楽VR室、貸しても良いのか?」
「ああ。型落ちで良ければ、二期――前期のゲーム用がセットで3つ入ってる」
「有難う兄上! 呼ぶか不明だけど嬉しすぎる!!!」
「良かった。後、父上と執事はOKだった。学校への住居変更とかもやってくれるそうだ」
「本当か!? 感謝しかない!! 兄上、本当に、本当に有難う!! 行ってみて良かった。絶対無理だと思いつつ言ったんだけど、言って良かった」
「あはは。あんまり気を使わなくて良いからな。兄弟だしな」
「有難う。兄上との距離が近くなった。今夜はアースタロット・オンラインに慣れてくる! 明日また!」
「ああ。また明日」

 こうして、まだ午後四時すぎだが、レクスと別れた。
 そして俺は、8階リビングに戻り、コーヒーを飲みながら、タバコを銜えた。