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弟のレクスが引っ越してきたのを期に、俺は、廃人を脱出しようと思った。リアルでもぼっちだが、ゲームでもぼっちなので、変わろうと思ったのである。ひきこもりで全くお外に出ない俺だけど、たまにこれからはお外にも行こうかなと思っていたのだ。レクスと一緒に! だけど、レクスは――……
「兄上、俺はゲームで忙しいから声をかけないでくれ」
「!!!」
とのことだった。俺は現在二十三歳。十一歳から十年くらいほぼ廃人で、二十代になって時々在宅でデザイナーとかをして暮らしてきたが(それもゲーム内でリアルマネーで売れる制度ができたからだけど)、これではレクスも俺のように何もない人生になってしまうと思って、俺は、言った。
「ちゃんとお外で遊ばないとダメだ」
「うるさい黙れ」
俺は涙ぐんだ。けど、俺だって、レクスと同じ十七歳くらいの頃は、ずーっとゲームをしていたから、気持ちはよく分かる。しかも、俺とレクスのゲームは同じだ。クラウンズ・ゲートである。仕事を始めても、それもゲームに等しいし、そのゲームもクラウンズ・ゲートであるし、結局俺は、レクスが来てからも変わらずクラウンズ・ゲートをしている。だけど俺は、超ぼっちだ。大昔は攻略でパーティを組んだりとかもあったが、全部カンストして生産もカンストした現在は、特に何もない。初期からのフレと時々連絡を取るくらいだ。クラン制度とギルド制度があるのだが、俺は、クランに五つ入っている以外は、特に何もない。
クランは、『桃花源』『鴉羽クラフト』『ゼスペリアの教会』『ハーヴェストクロウ大教会』『アンチノワール』の5つだ。お店・お店・特別抽選ギルド・特別抽選ギルド・特別ギルドクラン枠、である。桃花源は、ルシフェリアとイリスとのお店クランだ。鴉羽クラフトは、俺オリジナルだから、俺のみ。『鴉羽商會』と同じだ。ゼスペリアの教会は、ゼストやルシフェリアとのギルドだったものの残りである。ハーヴェストクロウ大教会は、特別クラン枠を得るために、それが無くなる前に誘われてゲットした称号で、ここはギルドも存在しているが、そちらには入っていにあ。ラフ牧師や英刻院閣下と一緒だ。アンチノワールは、ギルドを一つクラン枠に移せるというので作ったもので、これも俺が前にいたギルドの残骸と言える。高砂・時東・榎波・橘と一緒だ。
クランというのは、お店や、チャットのみのギルド、同盟のようなもので、使い方は各自だが、俺が入っている所は、緊急時の社交場や気が合うから雑談したり、みたいな使い方をしているが、全員普段は自分のギルドとかがあるから、ポツポツとしか話さない。
ギルドは、俺が入っていた所は、今どっちもクランになって無くなったような存在するようなという感じなので、特に無い。ギルドホームは、そのまま使えたから、あんまり困っていないのだ。ギルド露店も、お店クランと同じ扱いで使えるからだ。クランは、一人3つまでなのだが、俺が入っているのは全部イベントの特別枠だから、俺は後3個も入れる。ギルドも一人2個入れるのだが、俺は2個とも空いている。
超ぼっちである。そもそもフレも、ゼスト・ルシフェリア・イリス・クラウ・ハルベルト・義兄弟二名・ヴェスゼスト・ミナス・ラフ牧師・英刻院閣下・高砂・時東・橘・榎波・副・クライス・アルトという――十八名しかいないのである。
けど俺には自慢がある。全部カンストしていて全スキルを持っていて生産も全部カンストで、レシピも全部持っていて、さらに習熟度も全部カンストなのは、ゲーム内に俺だけだ。さらに、大陸が6つあるのだが、これを全部攻略経験があるのも俺だけだ。かつ、俺が作っている、鴉羽銘の武器はプレミアが付くほどである。これは、リアルマネーと一体化する前からだし、一体化させたのは、『ルージュノワール』という新ブランドだから、関係もバレていない。リアル企業の参画の中では、ルージュノワールのオシャレアイテムはかなり人気だったりする。これは俺の側では、鴉羽クラフト内の、鴉羽商會とルージュノワールに分けられる、非営利と営利のそれぞれの店舗だったりするのだが、誰も知らない。話すフレがいない……。ま、まぁ、それはそうと、そんな俺は自作武器で超強い。
ゲーム内マネーもあるし、課金もフル課金で来たから、生産系課金アイテムとかも全部あって、家とか超豪華である。なんかこう、もう、何もやる事ないレベルなのだ。その代わり――リアルも何もない……レクスには、こうなって欲しくない……。
さて、レクスが今夜も夕食をすっぽかした。俺はゲームで覚えて以来、料理が好きなのと、団欒のために、作って待ってるのに……。冷めちゃったが、タバコを吸いつつ待っていた。夜七時の約束なのに、レクスは九時半手前にやってきた。
「兄上、待ってなくて良いって、何度言えばわかるんだ?」
「レクス! すっぽかしてそれはどういう言い分だ?」
「だから、いらないって言っているんだ」
「……あのな、体は何事にも大切だ」
「その通りだな。兄上も、俺のように少しは外に出て日光を浴びたらどうだ?」
「うっ」
「いただきます」
「……いただきます」
こうして俺達は食事になった。俺は、意地でも一緒に食べているのである。今日は、レクスの好きなおろしハンバーグである。ちなみに「美味しい」と言ってくれる。それにしても、レクスは美少年だ。俺の自慢の弟である。日光というのは、レクスはモデルのバイトをしているから、それに出かける事であり、レクスはそれ以外は、月に一回、定時制のおぼっちゃま私立の通学で高校に行くことくらいだ。毎日が休みみたいなものであるが、一応学校が夏休みになったらしく、レクスはバイトもしばらく休むと言っている。
「――というわけだから、ゲームに専念するから、本当に明日から声は一切かけないでくれ。新イベントで忙しくなるかもしれないんだ。今夜の零時から」
「お前それ、クラウン・クエストだろう?」
「ん? そうだが」
「お兄ちゃんも気持ちはわかる。けどな、十七歳の貴重な夏をゲームに費やしたら、とっても後悔すると思うぞ」
「それは俺の自由だろう。兄上には関係がない――しかし、クラウン・クエストだとよく分かったな。兄上もクラウンズ・ゲートを始めたのか?」
「始めたといえば、う、うん……前からちょっとやってたんだけど、レクスがあんまりにもやってるから、気になって、またちょっとやってみたんだ。そ、その、俺もレクスくらいの頃に、やっていたというか」
廃人だという部分を俺は濁した。やっているというのは、実は初めて言ったのだ。