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「そうだったのか。つまり、経験談か」
「うっ」
「ただ、そういう事なら、もっと早く聞きたかった。兄上も一緒にどうだ? それならば、俺が今、どんなに楽しいか分かるだろう。俺も、兄上と遊びたいな」
「レクス!」

 いつになくレクスが微笑した。俺は嬉しくなって、思わず笑顔で頷いてしまった。レクスが俺を誘ってくれた。いつも「あっちに行っていろ」だというのに。しかも、一緒に遊びたいだなんて! 俺がデレデレになったら、レクスが、なんかこう、「ちょろいな」とか言っていたが、俺は気にしない。

「兄上は何ていう名前でやってるんだ?」
「ゼクスだ。レクスは?」
「俺も本名のままで、レクスだ。アバターは変えてるのか?」
「うん。今は、福の神アバターだ」
「課金のか? なんでアレ?」
「可愛いだろう」
「そ、そうか? 俺はこのままで、髪の色だけ金髪だ。俺は、零時前に、ギルメンとセントラルの初心者街で待ち合わせているから、それまで、兄上も一緒にセントラルにいないか? フレ登録をしよう」
「ああ、分かった。セントラルのどこに行ったらいい?」
「初心者街の、南の時計の下のベンチでどうだ?」
「行ってみる」

 こうして、食後、十時過ぎに、俺達はセントラルで合流する事になった。福の神アバターで、星空の下を進んでいくと、既に広場は混雑していた。目的地周辺は比較的すいていて、金髪になっているが一発で分かったレクスが座っていた。

「レクスか?」
「兄上、本当に福の神なんだな……すごく何とも言えないな」
「あ、フレ、有難うな」
「ああ。まぁ座れ」

 レクスはキラキラしている。ゲームの中は、美形アバターが多いが、その中でも目を引く。横の俺も、課金ネタアバターだからある意味目を引いている。巨大な三段腹である。

「兄上は、職は?」
「今はもうほぼ錬金術師の商人系だけど、基本職は暗殺者だ」

 全部上げきっているので、最近使っているスキルを念頭に応えた。「全部だ★」とか、ただの廃人である。

「生産をしているのか?」
「ああ」
「――意外とコアユーザーだったんだな。生産をしているとは。てっきりちょっとINして交流メインかと思っていた」
「ぶはっ」

 俺は自分の迂闊さを呪った。普通はその見解で正しい。俺は、『生産をしているなんてまったり系の交流ユーザーだな』と思われると思ったのだが、ライトユーザーはそもそも生産なんかしないのだ……。やっても錬金術師スキルで上げたりしないのだった……。

「ほ、ほら! 昔からちょっとずつやってるから、生産も楽しいかと思ってな!」
「なるほど」
「レクスは、職は?」
「俺は死霊術師だ。暗殺者と召喚者と聖職者と僧侶と錬金術師も上げている。生産は料理と個別調理だな。基本的には、ユレイズ大陸にいる」
「そうなのか」

 俺は頷きながら考えた。死霊術師は、召喚者と聖職者の派生か、後発だと単独で取れるという職だが、多分、この構成だと、アクセ的にも暗殺者が基本職だ。僧侶は攻撃力と範囲カバーで、錬金術師は生産よりだろう。意外とチョイスとして、レクスもコアだ。生産は資産集め特価だし、他の構成は、特に攻略重視の高戦力型で、回復と中衛も可能、という感じである。

 アバターの衣装を見てみる。外套の貴族装備はオシャレだが、首の装飾具とかピアスとか十字架とかは、攻撃系装備である。

 なんと外套は、俺がリアルマネーと一体化で出しているルージュノワールの製品だった。攻撃系装飾具は、『エクエス・トルネード』というブランドで、ルシフェリアの弟子連合のブランドである。ルシフェリアも生産をしているのだ。ちなみに、『エクエス』だと、ルシフェリアの個人ブランドである。

 俺はルシフェリアに鴉羽武器をあげて、代わりにエクエス武器をもらって、みたいなのがあるから、いっぱい持っている。エクエスは高くて買えないが、トルネードは沢山出回っているというのもあるだろうなと思った。ちなみに俺の全身はオシャレ装備だが、これも、普通の課金品である。レクスに廃人バレしたくなくて変えてきたのだ。

「レクスが明日から一緒に夕食を食べてくれるなら、俺、レクスに、エクエスブランドのルシフェリア銘武器と、ルージュノワールの好きなのなんでも5個と、鴉羽商會の好きなのなんでも10個あげるぞ」
「――!?」
「夕食次第だ」
「待ってくれ兄上。それが事実なら、ルージュノワールの赤貴族セットの一番高いシリーズの、外套・時計・ブーツ・体装備・カバン変化アイテムの5つ。鴉羽商會の鴉羽銘の武器の、アイゼンバルドの双剣・アイゼンバルドの闇霊杖・氷剣レイナルド・青精霊の癒しの杖・雷竜フェンネルの両手銃で武器5つ、死霊術師の闇竜装備の体装備・手袋・装飾具・靴・帽子の5つで鴉羽商會の合計10をくれ。ルシフェリア銘は、暗殺者武器が良い。見せてくれたら考える」
「良いだろう。倉庫に行ってくる」
「俺も行く」

 こうして歩き出した。レクスは仏頂面になった。無言である。俺をじーっと見ている。俺は福の神アバターはデフォルト笑顔なので、内心で笑っていた。チョイスが結構すごいなと思ったのである。

 ちなみに課金アイテムは譲渡不可だが、俺は売っている側だからポストにフレ登録をした今、送信可能なのだ。レクスは、そこに関してもまだ何も言わない。俺が着てみせると思っているのかもしれない。ただ、それに関しては、普通に外で課金してのプレゼント可能性を考えているだろう。だが、他こそが気になっているに違いない。だってもうチョイスがやばい。

 鴉羽武器、全部ルシフェリアが愛用していると雑誌に出ていた奴だからだ。俺があげたやつだ。持ってるの、ルシフェリアと俺しかいないのもある。イリスとゼストが一部持ってるとか、時東にも一個あげたとか、そんなのだ。

 闇竜装備は、俺は全部持ってるが、ネットで『理想の装備』と書かれている組み合わせで、これは鴉羽で揃えている人はゼロだ。だって俺、売ってない。趣味用と自分用に作ったのを持っているだけだ。聞いた限りもうルシフェリアファンは確実なので、暗殺者武器も、俺とルシフェリアのお揃いで、かつ売るようの予備で貰っている奴に決めた。光暗愚エルネスの神剣である。喜ぶだろうなぁ。試しにルシフェリアと俺がお揃いの桃花源の十字架も用意した。

「パテ申請をくれ。用意したのが全部入ってるカバンと、受け取りポスト窓口をトレード画面で見せる。それで一式とルージュノワールの全部が見えるだろう。約束したら、二個ともトレードしたら、全部お前のものになる」
「……見せてくれ」