【4】弟




 弟が同居する事になったのは、その頃だ。ゼクスが二十三歳の事である。前十年よりこの二年の方が密度が濃いかも知れないと思いつつ、出迎えた。弟のレクスは十六歳で、やはり大学まで卒業している。ゼクスが日本展開を初めて少ししてから、レクスもモデルをしていたので、レクスにも撮影をお願いして、時々会うようになった。それまでほとんど会った事はなかった。だってゼクスはひきこもりである。

 何が良かったのかは分からないが、レクスは、『兄上の所でモデルをやりたい』と言い出したので、ゼクスはOKし、その数が増えていって、レクスが日本に来たいと言い出したのが一年前だった。高校入学をきっかけに、日本にそれからレクスはいたのだが、今回、ゼクスと暮らしたいと言いだしたのである。正直嬉しかった。

 なんだか懐かれているのは知っていた。こんなに密な人間関係は初めてなので、気づくとゼクスもレクスがとっても好きになり始めていた。ゲーム内でも、弟の話ばっかりしていて吹かれた。「ブラコンだったんだ」と、よく言われた。

 こうして一緒に暮らし始めたら――なんかこう、いくつかイメージが変わったり、驚いた事があった。レクスは、『ゲームから製品化したアンチノワールのモデルを格好よく身につけているモデルのゼクス』が、好きらしかったのだ。現在もう、クラウンズ・ゲート=アンチノワール=ゼクスみたいな風潮は、テレビにもネットにもゲーム内にも確かにある。デザインとイケメンモデルの兄も好きみたいだったが、一番は、クラウンズ・ゲートみたいだったのである。

 最初は恥ずかしかったのか、ちょこちょこ探りを入れてきたレクスは、今ではもう『ゼクスが兄で自慢だ』と言い切る程になった。ヴァイオレット・ムーンや紫月の方がゲーム内企業ブランドでは=ゼクスだし、アンチノワールはリアルのブランドの方で=ゼクスとして有名なのだが、レクスは、ゲーム内のアンチノワールと=ゼクスのパターンが好きらしい。だから、「お前も何か付けて一緒にアンチノワールで撮るか?」と聞いたら大歓喜された。何が良いかと聞いたら、「装備だったら良かったんだがな……」なんて呟いた。

 しかもその後、焦ったようにハッとされた。滝汗のレクスに、ゼクスは首を傾げた。「何の職が好きだ?」「えっ……死霊術師」「そうか」と話して、その後は電話が来たので、席を立った。久しぶりにゼクスは、その後、ゲーム内でオーダーメイド装備を作成した。レクスのイメージは紅で金淵かなと考えながら、死霊術師の装備を一式作り、ゼクスの中で最強の武器もオーダーメイドした。

 アンチノワール名で、オシャレから実際の装備まで一式作ったのである。二人分で一ヶ月くらいかかった。時計とかブーツとかもある。指輪や聖遺物アイテムの十字架とかも超格好いい。ちなみに十字架を作っていたらルシフェリアから連絡があったので、十字架はルシフェリアと共同制作だ。

 銘がルシフェリア&ゼクスという初パターンである。そうしたら、武器もそうしようというから、ルシフェリア&ゼクス銘になった。こうして完成したので、そちらは紫月のショップ倉庫に入れて、平行再現していた現実でも取り掛かった。指輪と時計はルシフェリアにもリアルでもプレゼントする事にした。超喜んでいた。これに二ヶ月かかり、さて覚えているかなと思いレクスに話した。

「!!!!!!!!!!!!!!」

 と、声を失われて泣かれて、撮影に行く前に装備を確認された。「兄上、これ、アバターで使っても良いか? 俺は普通にゲームを前からしていたんだ」「ああ、いいぞ」「うわあああああああああああああああああああああ!!!!」と、喜ばれた。死ぬ程装備が嬉しかったらしい。後、ルシフェリアの大ファンだったようだ。ルシフェリアとお揃いの十字架と聞いて号泣していた。俺も持ってるんだけどな……。その後、リアルで撮影した。俺的に完全にコスプレだなと思ったのだが――これが死ぬ程大反響だった。

 俺とレクスの死霊術師コス――……人気が出過ぎて引くレベルだった。兄弟モデルとしても一躍脚光を浴びた。二人で歩いていると、ざわっとなって人ごみができる。しかも、レクスは、『レクス』だったのだ。歴史まとめで俺も見たことがあるユレイズの攻略組で、琉衣洲と一緒にギルドを作った『レクス』だったのだ。

 ギルマスのレクス、サブマスの琉衣洲である。琉衣洲を知ってると話したら大興奮されて、レクスも琉衣洲から聴いていた『アンチノワールのゼクス』が俺だと知り、なんでも琉衣洲とは今現在高校が一緒だとかで、遊びに来ることになった。すっごい美少年だった。が、あちらは俺に赤面し、綺麗だと言ってくれた。照れる。この日、時計を直接取りに来たいと言っていたルシフェリアも来たので、レクスはそっちに泣いていた。

 かつ、ルシフェリアが俺をおだててくれたので、レクスの中で俺の株が上がった。ちなみに、レクスはブログをやっている。ゲームブログだったが、普通にモデルの写真を最近あげているらしく、ゲーム内キャプションとリアル映像で、同じ服を並べていたりする。『兄とルシフェリアと琉衣洲と食事をした』みたいな日記もあるので、ゼクスとルシフェリアが知り合いだという話は広まった。

 キャラのゼクスではなく、モデルと伝説のプレイヤーが知り合いみたいな話である。これは、俺がモデルの方で外見年齢がある程度わかるわけであり、プレイヤーのゼクスの方のゲー歴を考えると本人ではないという説、名前を貸した説がかなりあったのも大きいだろう。

 こうしてレクスの自慢のお兄ちゃんになった。モデルのゼクスがクラウンズ・ゲートをやっているのかいないのかは不明だが、レクスがやっているのは、みんな知っている。ちなみに、俺とレクスは、フレ登録をした。

 レクスとルシフェリアもしていた。俺は一体何をしたかというと、レクスと琉衣洲のギルドに装備や家を作ってあげたのである。レクスは俺にべったりだ。レクスは俺とルシフェリア以外にデレないからテンションが上がる。レクスとは、クランも作った。『レッドクロス』である。

 ただ、3Pした事があるイリスとリアルで顔を合わせた時も恥ずかしかったが、今はルシフェリアと顔を合わせると恥ずかしい。ルシフェリアは暴露ったりはしないが、ゲーム内では変わらず俺を抱く。その時たまにリアルの話が出ると、死ぬ程恥ずかしいのだ。

 そんなある日、高砂に「モデルのゼクスの僧侶ポスターとかは企画にないの?」と言われて、一緒にいた時東が「それなら白衣と術服も頼む」と言われた。なんだそれは面白そうだなということで、早速作ってみた。後、ゲーム内では高砂と時東にもそれぞれを一式ずつ渡して、俺は、モデルのゼクスとして、僧侶コス和服と、白衣&手術服を撮影した。

 ほぼ同時期に、イリスと紫月でもコスを作り、これはゼストにあげた。聖職者コスである。イリス&俺の錬金術師コスと魔術師コスもあり、錬金術師はルシフェリアにもあげた。

 これもまた爆発的ヒットだった。白衣と術服は、普通にお医者さんに売れてしまった……商品化したのである。イリスもモデルもやるので、俺&イリスのポスターも結構出た。後は料理に参入を決めたので、アンチノワールのお茶ブランドだとかが、リアルで人気になった。橘がこれにすごく喜んでいた。榎波もである。

 そして気づいたら二十四歳になっていて、7つ目の大陸であるセントラルに行けるようになって三週間が経過していた。セントラルは、どこかを攻略しなくても、誰でも必ず行ける大陸だ。