【5】新クエスト
この日、正式公開から十三周年のイベントとして――クラウン・クエストなる、大陸を跨いだ新クエストが公開されると発表されていた。現在、ゲーム人口は、5万4000人くらいとされている。その全員が参加可能との事だった。夏休みである。夜0時にカウントダウンしてから発表されるそうで、発表場所は、セントラルの初心者タウンだった。
どんな内容かは不明だし、それにもよるが、俺は久しぶりにガッツリゲームをやろうと思っていた。だからモデルの仕事にも一区切りつけ、デザインも今年発表分プラス三年分提出し、会社の経営は他の人にしばらく任せて名前だけに戻った。クラウン・クエストが楽しくなくても休暇予定だったのである。
俺は、高砂と一緒にタウンにいた。他のアンチノワールメンバーも、レクス達もルシフェリア達もタウンにいるのだが、一緒に発表を聞こうと約束していたのが高砂という事である。他にも大量の知り合いがいるし、タウンにいなくても、俺のフレや各クランの人々は、全員がログインしていた。二人で、端の時計のそばのベンチに座っていたら、カウントダウンが始まった。そして、それが終わった瞬間――正面の余白が全部消えた。
「!?」
驚いていたら、所狭しと人で溢れたのだ。みんな移動してきたのかな、と、最初は思ったのだが――いや、違った。街の人数カウントが見られるのだが、53605人と出ているのだ。確かに超巨大な初心者タウンであるから、5万人以上、つまり全人口は入れる。だが、唖然としてしまった。通路なども満杯なのだ。
そして、それだけではなかった。視界の人々が真っ白だと気づいて、改めてみたら、最初からいた人も含めて、装備が全員、白いジャージに茶色いローブという、初心者のデフォルト装備に変わっていたのである。下を見たら自分もそうなっていたから分かったのだ。え、俺の装備はどこに行ったんだ!? と思って、カバンの中を確認したら、入っていた。『装備』として一個のアイテムになっていて、特別枠で出ていたから、これならみんな消えていないだろうとホッとした。
なんでホッとしたかは不明だ。それ以外は、最初からカバンに入っていたアイテムで、カバンに入る数も、拡張したままだった。それを確認した時、周囲がざわざわざわっとなった。改めて顔を上げたら、多くが鏡を持っていたのだ。それは、特別枠に、自動的に『手鏡』というのが入っていたからそれだろうと思った。俺も出して、自分を見てみた。
「……」
リアルの俺になっていた。十七歳くらいの想像アバターではなく、二十四歳モデルのゼクスである。なんかこう、切なかった。
「なんだろうな、これ。酷いバグだな」
「……きっとそうなんだろうとは思ってたけど、本当にモデルのゼクスなんだね」
「あ、ああ、うん」
高砂の声で我に返って顔を上げた。高砂は、俺よりちょっと年上くらいだ。アバターをちょっと成長させた感じだ。つまり、元々リアルと同じで、現在が成長した姿なのだろう。あちらも二次性徴が終わっていたから、あんまり変化はない。イケメンだ。
「なんか恥ずかしいな。アバターの方が綺麗だろう? キラキラしてるらしいし」
「――俺はこっちのほうが断然好きだけどね。そもそも子供は趣味じゃないし。むしろ、こっちがアバターだったら良かったのにと何度か思ってたから」
「あはは。高砂は、どっちも高砂という感じだな」
「それどういう意味?」
「頼りになりそう」
「うん、褒め言葉で良かったよ」
なんていうやり取りをしていたら、超巨大ピエロが空に出現した。そうして、なんかこう、驚愕のアナウンスをした。『ログアウト不可』『デス・ゲームになりました』『トイレは不要』『それ以外は全部必要』『全部R18制限許可と同じ』『五感がリアルと同じになった』『餓死しても死亡』『モンスターを倒さないとならない』『レベルやスキルは今のまま』『クラウン・クエスト攻略成功で外に出られる』という感じだった。
俺は混乱したが、ログアウトボタンが消えている事は理解した。遠隔チャットは、一回につき一個しかできなくなっていた。街で直接話すのは別で、近くのは聞こえる。クラン枠やギルド枠は同じらしく、今後も入ったり脱退したりできるそうだった。フレンドリストは、たった今からの新しいリストも一個追加された。
前のも使えるが、今後の追加はそちらになるらしい。新規追加の方に、古い方のも入っている。違いは、新しい方には『生死』が出るのだ。また、フレンドに公開可能情報が変更できるようになっていた。名前は偽名も使える。高砂が俺にフードを被せて、早急にそれを操作しろというから、そうした。3つ作れた。
1つは、『ゼクス』である。レベル350、全職生産カンスト、クラン『桃花源』『ゼスペリアの教会』『ハーヴェストクロウ大教会』『アンチノワール』『猟犬クラウン』『レッドクロス』に入っていると公開している。オリジナルブランドは、『鴉羽商會』で、『鴉羽・銘』『ゼクス銘』が可能だ。生死は『生』である。これは、既存フレに全部公開状態だが、それ以外には、非公開とした。高砂の勧めだ。
2つ目は、『鴉羽ゼクス』である。レベル350、錬金術師350、生産カンストで、『アンチノワール』と『猟犬クラウン』のクラン、オリジナルの『鴉羽商會』だけが情報として存在している。銘も『アンチノワール』と『鴉羽銘』だ。生死は、生である。そして、既存の加入クランメンバーの直接のフレ以外からは、こちらを公開とした。ゼスペリアの教会のみ、ゼクスの方を公開しているが、他はフレ以外は、こちらになる。鴉羽とつけたのは、わかりやすいからだ。
最後の3つ目は、こちらも『ゼクス』なのだが、『レベル50以上』という表示で、職は、基本職の『暗殺者』で、生産も含めて、他の情報は無い。生死は生だ。今後の追加はこれとなる。
みんなは普通、ギルド名が出ているようで、二個入れる中の、メインにしている方を出しているようだった。これが終わるまでの間に、ルシフェリアとレクスから別々に連絡が来ていて、その間に高砂と時東も連絡をとっていたようだった。
周囲は阿鼻叫喚である。一番は、出られないというより、見た目が変わってしまった事のようだった。恋人の可愛い女の子が、非常に巨体の中年男性だったとか、そういう悲劇が多い。巨体側も貢がせていたとかだから、結構救えない。