【3】時東の逆マインドクラック(★)
――なんだか白昼夢を見ていた。
「……」
帰宅して紫色のソフトクリームのようなローブのフードを取り、ゼクスは手を洗った。それから冷蔵庫を開けて、目を細めた。中には、ピクルスの瓶が二つと、固いチーズのかけらが一つ入っているのみだ。あと二ヶ月、これで乗り切らなければならない。
溜息が漏れた。常に表情を変えないので、それも珍しいことである。
そうしながら、左の二の腕を、右手で押さえた。血で濡れた。
――珍しく、仕事でミスをしたのである。
ゼクスの仕事は、最下層の地下に広がる、廃棄都市遺跡を徘徊している古代の生体兵器の駆除である。表面的には、最下層のゼスペリア教会の牧師をしているのだが、そちらの収入はほぼない。年収三万円程度だ。生体兵器の方は、年収三十億程度になる。円という通貨は、生体兵器が生み出された頃から使われているらしい。既に滅びた文明の名残だ。それは各地にある。例えば漢字名の家柄なども古い。
椅子を引いて座った。簡素な木の椅子である。
背を預けるとギシギシと音がして、壊れるかと不安になるが、意外と頑丈だ。
腕だけでなく、肋も折れた。脇腹は生体兵器が飲み込んでいた鉄パイプでえぐられ、右の足首と膝も痛めている。これではしばらく動けない。
普段は服装を変えて紛れて、王都の中央の露店街で、人ごみに紛れて食料を調達している。最下層最寄りの西地区の店は、最下層の人間には食べ物を売ってくれない。
ゼクスは、王都の西のはずれにある、最下層と呼ばれる被差別地域で暮らしている。気づいた時にはそこで生きていた。孤児である。最下層の住民は人間扱いをされない――そのため、殺し屋連中なども大勢いる。ゼクスもその一人だと思われている。否定したこともない。その時目眩がして、椅子ごと倒れた。床に打ち付けた側頭部がいたんだが、それ以上に全身が痛み、眠かった。意識を手放すようにして、ゼクスはそのまま目を閉じた。
「最近、ゼクスを見ないな」
榎波の声に、皆が動きを止めた。皆、というのは、榎波と共に王宮から委託を受けて生体兵器の討伐にきたメンバーである。表だってではない。各武力集団から一名選出で、合同で討伐に来たのである。王宮の裏の護衛集団である猟犬からは、表向きは近衛騎士団長の榎波が来ている。蒼き弥勒の仏教からは、万象院列院総代の高砂が来ていた。普段はロストテクノロジー兵器の研究者だ。ギルドからは、いつもは医療院医師をしている時東が来ている。ギルドの議長であるし、PSY融合兵器の知識を買われた。医学で度々使うから詳しいのだ。研究者としては他に、こちらもロステク兵器の専門家である王族の橘大公爵が来ている。近くにいたのはこの三名であり、他にも大勢いた。
ゼクスというのは、幻の殺し屋などと言われている、暗殺で生きるガチ勢だ――というのが、全員の共通認識である。素性はしれないが、死ぬほど強い。こちらが大勢で生体兵器を倒す横で、単独で一人であっさりと駆除を行う、宗教院派遣の闇猫だ。正確には、闇猫という宗教院の暗部から委託を受けた、フリーの殺し屋、らしい。誰も事実は知らなかった。どこの誰なのかも不明だ。いつも布で全身を覆っているから、顔すらわからないし、正確な身長や体型も不明だった。印象としては、細長い。ソフトクリームのようなフードをかぶっている。
――榎波の言葉は事実だった。自分達がローテーションで週に一度来る時、必ずゼクスはいたし、臨時できた場合も、大抵廃棄都市遺跡で討伐しているのを見かけた。だが、この二週間半は、噂を聞かない。
「あー、だから生体兵器が最近多いのか」
納得したように橘が頷いた。彼はのほほんとしている。
「死ぬようなタイプには思えないが、ついに死んだのか?」
時東が呟いた。何度か見たが、自分や高砂に匹敵する強さだと感じる。
そうである以上、余程の不意打ちでなければ、致命傷は避けるはずだ。
「偉大だったね、思えば。今の俺たちの仕事量――ゼクスがいる時の三倍だからね」
高砂も時東と同様の考えだったが、念のため、心の中でお教を唱えた。
誰しも、いつ死ぬかなんて分からないというのが、高砂の考えである。
「仕事が増えて迷惑だ。働けと言いに行こう」
「榎波、お前それ、単純にフードの中を見たいだけだろう? 俺、わかる」
「橘、私は好奇心旺盛なんだ」
「俺も俺も。すげぇ気になるよなぁ。高砂と時東も気になるだろ?」
「俺は気になる相手がいるから別に」
「時東、誰もそんなことは聞いてないよ。俺は、まぁ、機会があるなら見たいし、ないなら別にいいや」
「えっ、時東好きな奴いるの? 俺はそこを突っ込みたいよ?」
「橘、時東はな、最下層の牧師に惚れてるんだ」
「へぇ! じゃあ先にそっちを見に行こうぜ」
「……――最近、見かけないんだ」
「「「!」」」
時東以外は、ピンときた。殺し屋は最下層に住んでいることが多い。最近見ない殺し屋、まさしくゼクスである。しかし時東に気づいた様子はない。
「前は毎朝七時に門を開けて、朝十時と夕方四時の定時の祝詞を読んでるのが聞こえてきて、夜七時には門を閉めていたんだけどな。ベンチからよく見えるんだ。ただ、最近は全く見ない。留守……かと思ったが、気づくと門は開いてる。もしかして俺は避けられてるんだろうか……」
「体調不良とか?」
高砂が言った。橘が大きく頷く。
「見舞いに行ってみよう。それにお前医者だし、具合が悪ければその場で診察してやれるだろう。俺達も一緒に行くから! 牧師で門を開けてるなら、教会に礼拝客が言っても問題ゼロだろ? それとなく、さ!」
「その牧師、名前は?」
榎波の言葉に、時東が呟いた。
「ゼクス=ゼスペリア牧師だ」
「「「……」」」
三人は、何とも言えない気持ちになった。時東は、わざと言っているのか悩んだほどである。名前で気づかないのか疑問だった。まだ見ぬうちから、三人は確信していた。
こうして――翌朝、討伐後にそのまま四名は最下層に向かった。
時東はいつも、出勤途中の一服を装い、最下層と王都をつなぐ路地のベンチから見守っていたらしい。ストーカーだとは、思ったが皆言わなかった。朝五時のことである。門はしまっていた。そして見守っていると――朝七時、門が開いた。
「「「「!?」」」」
四人は目を疑った。勝手に開いたように見えたのだ。いいや、違う。早すぎて見えなかったのだ。そんな人間――幻の殺し屋ゼクスしか思いつかないと三名は思った。
「やっぱり俺は避けられているんだろうか、そうだよな……」
「いや待って時東、自意識過剰」
「ああ。お前の存在など、今の人物は微塵も気に留めていなかったと私は思うぞ」
「なにあれすごいな、PSYかと疑う速度だった」
「慰めてくれるなんて、お前ら思ったより良い奴だったんだな」
「「「……」」」
時東が復活したので、榎波と高砂は顔を見合わせ、橘が笑顔で仕切りなおした。
「よし、行ってみますか」
こうして四人で、最下層へと向かった。
道行く人々が、次々に膝を地について、頭を下げる。
最下層の人間には人権がないので、貴族や華族、富裕層に逆らえば、その場で殺されても文句を言えないので、こういう態度になるのだ。こういう態度をしたくない人間は、早々に姿を消している。これは当然のことであるので、四人とも気に止めない。そうして歩いて行き、最下層孤児院街のはずれにある、ゼスペリア教会の前にたどり着いた。開け放された門の奥を、全員がチラっと見た。
――……絶句した。尋常ではない美形の青年が、軒先で煙草を吸っていたのだ。高砂も榎波も橘でさえも、目が釘付けになった。少し痩せ気味だが、均整のとれた体躯、白い肌、猫のような青い瞳、黒い髪――決して中性的でも女性的でもないのだが、言い知れない色気がある。普段から美人を見慣れている三名だったが、思わず唸った。
「あれか?」
「あの人?」
「うん。惚れるの分かる。話したことなくても見てるだけで、ちょっとクる」
全員生体兵器討伐時より気配を押し殺して、ゼクスをじっと見た。
あれがソフトクリームなのかと、三名は悩んだ。
それから無言の時東を見れば――硬直していた。緊張しているのが分かる。
見かねて、高砂が門を軽くノックした。
すると牧師服の青年――ことゼクスが顔を上げた。息を飲んで目を瞠っている。
「失礼する。私は近衛騎士団の団長をしている榎波男爵だ」
榎波がよく通る声で言った。本来ならば、これを聞いたら、最下層の人間は土下座する。ゼクスの反応を榎波は見たかった。美青年が土下座するのも、あの幻の殺し屋が土下座するのも気分がいいが、それ以外の対応をした時にネチネチ嫌味を言うのも楽しそうだし、いつも廃棄都市遺跡で遭遇した場合は、殺し合いに近い模擬戦をして楽しむので、この姿でそれをするのもいいと思っていた。
高砂は、そんな榎波を半眼で見ていた。呆れている。橘は苦笑。時東だけが焦った顔をしていた。
当のゼクスはといえば、榎波へと静かに視線を向けた後、再び煙草を吸い込んだ。その後、小さく首を傾げた。
「……」
「「「「……」」」」
「……」
ゼクスは何も言わなかった。余計なことは言わない方が良いと昔から思って生きてきたのだ。それに、そもそもの話、許可がなければ最下層の住人は言葉を話してはならない。何か用があるならば、来た側が話すだろうとゼクスは思っていた。そして無礼だとして手打ちになるのならば、最後にはタバコを吸いたかったので、喫煙は続行した。結果、その場には、奇妙な沈黙が横たわった。じっと美貌の青年が自分達を見ているため、時東以外も思わず息を飲む。それから青年は、俯いた。全員振られた気分になった。無視されたのが分かるが、自分達側のレベルが低かったのだと思わされる色気だ。しかし別にゼクスは無視したわけではなく、首が疲れたので下を向いただけである。下を向いて、そのまま煙草を吸う。
「――礼拝に来たんですが、朝のお祈りは、何時からですか?」
「十時だ」
高砂の問いかけに、ゼクスが下を向いたまま答えた。会話する気がないわけではないと判断し、榎波が一歩前に出る。
「最近祝詞を休んだことはあるか?」
「無い」
「聞こえないと聞いた」
「――?」
その声に、ゼクスが顔を上げた。
「誰に?」
「――こちらの時東修司医師に」
「お、おい」
榎波が時東を指で示すと、時東が完全に焦った声を上げた。
橘は笑顔で見守っている。高砂は面白いので腕を組んだ。
ゼクスが時東を見る。真正面で、ここまで近くからまじまじと顔を見たのは初めてで、時東の心臓が高鳴った。頭の中で、鐘の音がする。完全に恋している顔の時東を三人は眺めた。じっとゼクスは時東を見た後、小さく頷いた。
「礼拝堂の窓を閉めているからだ」
実に簡潔な答えが返ってきた。それだけ言うと、ゼクスは視線を下ろした。聞いている通行人がいたのかと漠然と考える。雰囲気として殺気は感じないが、いつでも逃げっられるようにしておかなければと思っていた。
「どうして閉めているんだ?」
榎波が聞くと、ゼクスが煙を吐いてから、再び顔を上げた。
「礼拝客を中へ招けない場合は閉める。今日もそうだ」
「では、私達は礼拝できないのか?」
「近くにハーヴェストクロウ大教会がある」
「何故招けないんだ?」
「……」
ゼクスは答えなかった。内心では、きちんと、『負傷している場合は、血で汚れるから祝詞を民衆に聞かせてはならない』という規定を思い出していたが、それをわざわざ口に出してみせる必要性を感じなかったのだ。興味があるならば自分で調べるだろう。
「あ、怪我!?」
そして橘がすぐに気づいた。納得して高砂も頷く。
「確か、血を流す怪我をしているとダメなんだったよね」
「そうなのか。私は興味が無いから知らなかった。怪我をしているなら、時東に診てもらえ」
「!」
時東が目を見開いて榎波を見た。ゼクスは、『医療費がない』と思っていたが、やはり黙っていた。
「そうしたら? 時東はしばらく医療院の仕事は休みだったはずだし」
「そうだな。英刻院閣下には俺から言っておくから、ロイヤルもお休みでいいよ」
「聖書に出てくるゼスペリアの医師に違いないと言われる凄腕の時東が一緒なら、私も安心だ。時東、つきっきりで住み込みでしっかり治しておけ」
「!!」
三人は、時東を置いてそのまま帰ることにした。一応友達であるので、恋心を応援したいというのもゼロでは無かった。また、最下層の人々には人権がないが、彼らには道徳心があるので、怪我人は普通に心配もする。
残された時東は、呆然としていた。
しばらくの間、ゼクスと庭で二人、無言でいた。
それからゼクスが顔を上げた。
「帰っていいぞ。もうあいつらは最下層から出たようだから、文句も言わないだろう」
「え、あ、いや――怪我をしているんだろう? 見せてくれ。放ってはおけない」
「……」
黙っているゼクスに、時東が歩み寄った。するとゼクスは小さく頷いてから、立ち上がった。どこかおぼつかない足取りに、慌てて時東が支える。思いのほか腰が細かった。
「それなりに痛むから、酷くはしないでくれ」
「ああ、俺は丁寧かつ痛みを与えないことでも評価されているから安心しろ」
「そうか」
ゼクスは、静かに頷いた。納得していた。貴族が最下層に来る場合、基本的に買春目的が多い。中でも最下層の教会の多くは、買春宿を経営していて、孤児を働かせているし、聖職者本人も男娼が多い。自分も男娼だと思われているのだとゼクスは思った。油断した――普段であれば、家になど招かないのだが、ゼクスから見て時東に隙は無かった。生体兵器の討伐でも、時東と高砂は特に強いと直感していたからだ。負傷して動けない今、撃退することは困難だ。
しかし時東は治療の話だと信じて疑っていなかった。安心させようと、そう口にしたのである。時東は最下層の事情には疎かった。
靴を脱いで二人で中に入る。よく磨かれた床に、時東は胸が暖かくなった気がした。時東は寝に帰っているため、掃除は業者に頼んでいるから、バケツと雑巾というのが家庭的に思えたのだ。ゼクスと自分が結婚した場合を考える。圧倒的に女性が少なく、子供もPSY医療で生まれる現在は、同性婚の方が主流だ。
キッチンと、簡素なテーブル、横長のソファがある居間へと入り、ゼクスはソファを見た。ここで良いのだろうかと考えながら、窓を閉める。誰かに見られるのは拒否感があった。もし噂がたてば、他の客も呼んでしまうかもしれない。いつかはこういう日も来るかも知れないとは思っていたが、これまでに一度もゼクスは客などとったことは無かった。だから一応聞いてみる。
「ここで良いか?」
「ああ、座って服を脱いでくれ」
「……」
俯き、ゼクスは首元に手をかけた。黙々と服を脱ぎ、牧師服の上着をソファの端に置く。それからインナーを脱いで、上半身を顕にした。
「下もか?」
「とりあえず上でいい――ひどい怪我だな。包帯を巻いただけでは、治療とは言わない」
「萎えたか?」
「この程度で萎えるようじゃ医者は務まらない」
「……」
萎えてくれれば良かったのにと、ゼクスは悲しくなった。
「っ、痛」
「ここが痛むか?」
時東が腕に触れた。包帯の位置の少し上である。治療行為である。
しかしゼクスは、時東が鬼畜なのかもしれないと、狼狽えた。
最下層の人間は、何をされても文句は言えない。首を絞められながら行為をする場合もあると聞いたことがあったし、傷をつけられることもあると聞いていた。
「酷くはしないでくれ、さっきも――」
「少しは我慢しろ」
「……」
「包帯を取るぞ」
時東は、その後、いつも持ち歩いている医療用具を取り出し、てきぱきと治療を行った。ゼクスは怯えながらそれを見ていた。表情はほぼ変えなかったが、内心では恐怖していた。腕の次は、一番ひどい脇腹、その後肋骨を治療され、続いて足だった。下を脱ぐように言われて、いよいよだと覚悟した。だが――……
「終わりだ、とりあえずは。あとは安静にして、動かさないように。身の回りのことは、その――俺やるから心配はいらない」
「……?」
「歩かない方がいいから、しばらくは祝詞自体もやすんだ方がいい。俺は無神論者だが、唱える時に、聖職者が立たなければならないという程度の知識はある。しばらくは座っていろ」
「……何もしないのか?」
「ん? いやむしろ何でもする、なにかして欲しいことはあるか?」
「……できれば優しくしてくれ」
「!?」
時東は、そこに来てはじめて、ゼクスの瞳に僅かに不安の色が宿っていると気がついた。だが、想定していたのは、水を持ってくるだとか、そういう具体性のある行為であり、優しくと言われて――困った。それは、それこそ、好きなのだから、ドロドロに優しくしたい。だが、それをどう表現すればいいのだろうか? 悩んだ末、時東はゼクスの頭を撫でてみた。怪我をして不安になっていると思ったのだ。
「安心しろ、すぐに良くなる」
「!」
ゼクスは目を見開いた。小さな期待を込めて、何もしないのかと聞いたのだが、しないようだ……。自分を治療してくれただけで、何もしないようだ。信じられなかった。今までこのような扱いを受けたことは、一度もない。頭を撫でられた点だけが不穏だったが、一気に全身の力が抜けた。思わず大きく息を吐いてしまった。
それが、色っぽすぎて、時東は硬直した。気づけば、ゼクスは下着以外、何も身につけていない。包帯は別だ。思わず片手で口を覆う。怪我人に対して不純だとは分かっていたのだが――眼福だった。赤が強い乳首を、もっと赤くしたくなったし、白い肌には痕をつけてみたい。普段は、患者に対してそんなことは思わないのだが、ゼクスは特別だった。
だからこそ、慌てて顔を背け、キッチンへと向かった。
そして何か軽食でもと考えて、冷蔵庫を開けて、目を疑った。
「なぁ」
「なんだ?」
普通にゼクスが答えてくれたことに、少しだけ感動しつつも、時東は嫌な汗をかいた。
「その怪我では、遠出ができないと思うんだが、食事はどうしていたんだ?」
「ピクルスが、まだもう少しある。思ったより長持ちしている」
「――この瓶か? 俺なら一度で食べきる自信がある」
「最下層では二ヶ月は持つ。贅沢な方だ」
「これ以外は食べていないのか? 二ヶ月とすると、一日にきゅうりの輪切りを二枚程度しか食べられない計算だと思うんだが」
「ああ。十分だ」
時東は目を細めて振り返った。幸い、ゼクスは服を着ていた。
「このクッキーを食べろ、俺が復古した栄養食だ」
「っ」
カバンから時東が取り出した、甘い香りのクッキーを見て、ゼクスが目を瞠った。甘いものなど、もう何年も食べていなかったのだ。生体兵器の討伐報酬の八割は孤児院街への寄付と決まっている。そして孤児院街は、年に約三十億円国に収めなければならないのである。殺し屋連中は払わないので、ゼクスが一人で担っているのだ。
受け取り、一口齧った。広がる甘さに、目を閉じて感動した。一気に食べてしまいたい衝動にかられたが、もう二度と食べられないかもしれないと思い、一口ずつ大切に食べる。
時東にはそれが上品に見え、ゼクスの薄い唇に釘付けになった。
ドクリと心臓が脈打つ。
ゆっくりと食べ終えたゼクスを見て、吸い付けられるように時東は歩み寄った。
唾を飲み込み、思わず手で、口元に触れていた。
ゼクスは、今度は安心しきっていたから、まるで子供のように首を傾げる。
時東は、指先を動かした。そして――我に返った。
「――口元に、ついていたんだ、その、クッキーが」
「そうか、悪いな」
ゼクスが微笑した。初めて見る笑顔に、時東は心臓が早鐘を打って苦しくなった。
ドクンドクンと非常にうるさい。耳に心臓があるのかと錯覚しそうになる。
聞こえてしまったらどうしようとさえ思った。
「食べ物を買ってくる。動くな、こ、ここにライチジュースを置いていくから!」
時東は叫ぶようにそう口にして、足早にゼスペリア教会を出た。
ダメだった。あのまま同じ空間にいたら、押し倒してしまう気がしていた。
途中で立ち止まり、唇を片手で覆う。あの美しさは犯罪だ。
それから深呼吸をして、最寄りの露店街へと向かい――買い物を終えた後、ちらりと風俗店の看板を見上げた。行ったことはないが、無性にヤりたかった。相手が居る必要はない。それは恋する相手がいる以上、時東の中ではあり得なかった。そうではなく、強姦等の犯罪行為に及ばないよう、自分の手で処理するか悩んだのだ。風俗店の二階は、一人で入れるのだ。ラブホである。少し悩んだ。だが――手に抱えた紙袋を見る。ゼクスはお腹を空かせているだろう。そう考え、時東は煩悩を振り払った。自制心、そう一人念じた。
時東が帰宅した時、ゼクスはソファで眠っていた。いつもだったら、人が門をくぐれば気づくのだが、時東に隙がないこと、時東の打った鎮痛剤の効果、痛みが取れてやっときちんと眠れるようになったこと、精神的に疲れていたこと――と、様々な要因から、ゼクスは睡魔に襲われ、そのまま眠っていたのだ。
思わず時東は紙袋を取り落とし、空中で慌てて音を立てずにキャッチした。
目が釘付けになった。襲ってくれと言っているようにすら思えた。
自分の勘違いだと分かっているので、純粋なゼクスの寝顔を目に焼き付けてから、テーブルの上に荷物を置く。長いパンを取り出して、無心に切った。そこにレバーペーストを載せて、冷蔵庫にしまう。他にも冷製スープを作った。無音で、気配なく、ゼクスを起こさないように気を遣った。途中で思いついてタオルケットをカバンから取り出して、静かにかけた。その際、静かな吐息にクラクラした。それからサラダやデザートも用意し、時東は外へと出た。ゼクスが煙草を吸っていた場所に行き、時東も煙草に火をつけた。
どうして良いのか分からないほど、動揺していた。
見ているだけで幸せだった人物が、同じ室内に居るのだ。
しかも警戒心を解いて、眠っている。自分は――少しだけ心を開いてもらったのだと、時東は感じた。実際、それは事実である。
そのまま夕方を迎えた頃、室内でゼクスが起きる気配がしたので、時東は中へと戻った。二人で食事をし、嬉しそうなゼクスを見た。寝室へとその後ゼクスを送り、自分はソファでその日は眠った。泊まってしまった事が、無性に照れくさく思えた。翌朝は、ゼクスがシャワーを浴びる音を聞き、傷の心配をしつつも、動揺が止まらなかった。
そんな調子で――……一週間が経過した。二度ほど出勤要請があったが、断った。普段多忙であるから、医療院も王宮も、時東の休暇願いを受理してくれた。
最近では、ゼクスが笑顔を浮かべてくれるようになった。それが尋常ではなく嬉しい。はじめは外見に目が釘付けだったのだが、今では時東にとっては何でもないことにいちいち喜んでくれるゼクスが愛おしかった。声も仕草も眼差しも好きになり、幸せにしたいと強く思い始めた。控えめなゼクスが愛おしすぎて、日に日に時東は自分を抑えることに必死になった。
一方のゼクスは、時東はなんて良い人なのだろうかと、感動していた。世界は広かった。こんなにも優れた人格者がいるのかと、尊敬していた。最下層の人間にも等しく優しい。下心なく、食事を提供してくれ、怪我を診察してくれる。会話も対等で、扱いも対等で、人間扱いしてもらえた。
ゼクスは、これほど長い間、他者と一緒にいたことは、これまでには一度もない。だから、他人を観察したのは、初めてに近かった。時東は、格好良かった。アーモンド型の目をしていて、黒い髪に黒曜石のような瞳をしている。しなやかな体型で、自分とほぼ同じ身長だが、わずかに背が高い。世の中には、こういう綺麗な顔の持ち主もいるのだなと、まずひとつ驚いていた。性格しか最初は見ていなかったのだが、長く一緒にいたので、やっと外見にも目がいったのだ。また、時東は指が綺麗だ。長い指をしている。メスを持っている手だ。服の趣味も良く、白衣の下が、毎日違う。
時東はゼクスと一緒だから服に気を遣っているだけだったが、ゼクスはそんなことは知らない。
さらに時東は、博識だった。ゼクスが知らないことをたくさん知っていて、会話が面白い。ゼクスから見て、時東は完璧だった。そんな完璧な、医療院というエリートしか働いていない場所に所属する医師が、この最下層の教会において、自分を診察してくれているのか、ゼクスは不可思議だった。男娼扱いもされない。不思議だからまじまじと見ていると、時東と目があった。
――ゾクリとした。恥ずかしくなって、ゼクスは咄嗟に顔を背けた。
たまに、時東が色っぽく感じるのだ。艶というか、目が欲情しているというか――時東に見据えられると、呼吸が止まりそうになるのだ。こんな経験は初めてだったので、ゼクスはいつも視線を逸らす。トクンと心臓が高鳴る事が増えた。一緒に会話をしていると、ほんのりと胸が暖かくなるのだ。だが、時折感じる眼光を受け止めた時は、何か、獣のように見えることがある。おかしな事に、食べられてしまいそうな印象になるのだ。時東が動物の狼に思える。自分は草食動物――いいや、もっと小さい何かだ。
最近は距離が近い。これは、時東の方も、最初よりは少し慣れたというのがある。
今も、二人で並んでソファに座っている。
その時、時東がペンを取り落とした。二人揃ってほぼ同時に手を出した結果、指先が触れた。時東は硬直し、ゼクスは何故なのか恥ずかしくなって手を元の位置に戻した。それから恐る恐る時東を見る。そのゼクスの、少しだけ赤くなった頬に、時東は気づいた。小さく息を飲む。脈があるのではないかと、自分に少しは好意を抱いてくれているのではないかと、時東は思った。じっと覗き込むように見つめられ、今度はゼクスが硬直した。すっと目を細め、錯覚でも良いと思いながら、時東が顔をちかづける。純粋に、ゼクスの表情をもっと見たかった。ゼクスは、近づいた唇に、キスをしてみたいと気づくと考えていた。誰ともしたことはないし、身分が違いすぎることは分かっていた。だが、うっとりしてしまい、思わず目を伏せる。時東は、それを見て、すっと目を細めた。もう我慢の限界だった。
「っ、ん、ぁ」
そのまま貪るように時東はキスをした。巧みな舌にゼクスは翻弄された。ゼクスの想定していたキスは、触れ合うだけのものだ。だから恐慌状態に陥ったが、息が上がりそうになるたびに、時東が角度を変えて息継ぎを誘導してくれるうち、安心感が強まり、次第にキスにのめり込んだ。
「ッ、は」
ゼクスは思わず時東の首に手を回した。やはり僅かに怖かったからだ。だが時東は、プツンと何かが切れてしまい、ゼクスを押し倒していた。そうしてじっとゼクスを見る。ぼんやりとゼクスはそれを見上げた。上がった息のせいで浮かんだ涙が綺麗だった。
「ゼクス、俺はお前が好きだ。俺の恋人になって欲しい」
「俺もお前が好きだ」
自然と口にし、そうして初めて、ゼクスは自分の気持ちに気がついた。
時東はその言葉を確認するように、再びゼクスに口づけた。
長い間、二人はキスをしていた。次第にゼクスはゾクリと体に何かが走るのを感じ――それが時東の時折見せた瞳から感じたものと同じだと思った。舌を絡め合い、ゼクスは――治った体を動かして、高速で時東を逆に押し倒した。ヤりたい。人生で初めてそう思った。そしてゼクスの中で、時東は、抱く対象に化けていた。
「っ」
時東が狼狽えたように声を上げた。ゼクスは思ったより積極的なのかと一瞬我に返った。ゼクスはそんな時東のシャツを脱がせる。そして積極的にキスをした。時東からたった今学んだに等しかったが、ゼクスは――元々器用だったので、既に吸収済みだった。その甘さに少しの間時東はされるがままになった後、やっと違和感に気づいた。なんとなく、襲われている気分になったのだ。だから慌てて、ゼクスを押し倒し返した。こちらも鍛え上げているため、隙を付けばそれは可能だった。
「「……?」」
その体勢のまま、二人は少しの間沈黙した。どちらともなく、冷や汗をかいていた。
「え、っとだな、ゼクス。俺は、お前に、その、挿れたい」
「え」
「……嫌か?」
「い、嫌というか……嫌か良いかで言えば嫌だ。え? 時東、お前……そんなに格好良い顔をしているのに、抱かれる側じゃないのか?」
「ん? 格好良いのは、その、挿れる側じゃないのか?」
「へ? 鑑賞する人間というのは、押し倒される側だろう? 俺は、お前を見ていると幸せな気分になる。時東のように優れた良い人は知らないし、時東みたいに端正な顔の人は見たことがない」
「待ってくれ、そのままお前に返したい。褒められたのは嬉しいが、お前こそ、どう見ても抱かれる側だ」
「え!? 俺が、か? 自分で言うのもなんだけどな、俺はお前より男らしい」
「それはない」
「え」
「俺は男前だと評判だ。ゼクスは美人だ」
「俺は男前だとは言われたことがないが、美人だともお前以外に言われたことはない。時東は目が悪い」
「視力は良好だ。そんなに嫌か?」
「逆に聞くけどな、お前こそ嫌なのか?」
「嫌だ。俺はお前を抱きたい」
「!!」
ゼクスは困ってしまった。予想外だった。最初こそ、自分を買いに来たのだから上なのだろうと思っていたのだが、手を出してこなかったし、受け身なのだろうと半ば確信していたのだ。時東のことは好きだ。それは自覚した。だが、自分が挿入されるなどというのは、恋人関係だとすると、想像したこともなかった。ゼクスの中で、恋人がいつか出来た場合の予想は、優しくして、押し倒すことだったのだ。衝撃を受けた。
「時東、とりあえず、話し合おう」
「――結論は変わらない。もう二度と機会はないかも知れない。頼む、俺に流されてくれ」
「そう言われてもな、こればっかりは!!」
時東も焦っていた。しかし、絶対に負ける気はなかった。さらに、ここで押さなければどこで押すのかもわからない。もう勢いだった。止まらない。
「ゼクス、頼む、絶対に好くするから」
「え」
「一回だけ、頼む!」
「いや、あの、その――時東、逆に一回だけ俺に試させてくれ。お願いだ。今まで俺のお願いは全部聞いてくれただろう!」
「だからこそ、一つくらい俺のお願いも聞いてくれ」
そう言われると、ゼクスは返す言葉がない。やれお水を持ってきてくれ、やれチーズケーキが食べたいなどと、ここのところ、贅沢三昧我儘放題だったのだ。
「よし、時東! 押し倒したほうが、ヤろう!」
「――良いのか? 怪我人だからといって、容赦はしないぞ? 俺はお前に突っ込みたい!」
「ぶは」
直接的に言われてゼクスはむせた。しかし時東は既に臨戦態勢だ。ゼクスが緩めていたネクタイをさらに緩め、白衣からメスを取り出している。慌ててゼクスも立ち上がり、いつも隠し持っているナイフを構えた。負けるわけにはいかない。二人の間に火花が散る。さらに刃物が舞った。
――勝者は、ゼクスだった。
だが、ゼクスは、必死な時東を見て、そこまで自分の貧相な体に執着してくれているのかと悩んでいた。一回くらいなら、後ろを差し出しても良いのか。自分に抱かれると思って絶望的な顔をしている時東を見たら、とても抱ける気がしなかった。時東が可哀想だった。ゼクスは一瞬のうちに悩みに悩んだ。思考が高速で回転した。時東を失いたくなかった。時東のためならばなんでもできるかもしれない。そう決意し、ひとり頷いた。
「分かった……俺が下で良い」
「!!」
時東は目を見開いた後、歓喜した。そしてゼクスの気が変わらないうちにと押し倒した。それから再びキスをする。ゼクスは時東のキスが好きだと思った。性急に時東がゼクスの服を脱がせる。その指先が、ゼクスの乳頭を弾いたのは、すぐのことだった。
「っ、ン」
摘まれ、ゼクスは怖くなった。だが、時東の手は、見ているのが好きだったし、温度も好きだ。だから変な感覚がしたが、耐える。そうしていたら、時東のもう一方の手を下衣の中へと入れられた。下着の上から一度なぞられ、続いて中へと入ってきた左手が、ゼクスの自身を緩く握った。
そのまま時東はゼクスの服を脱がせ、乳首を唇に含んだ。舌先でちろちろと舐める。そうしながら、左手では、ゼクスのカリ首を重点的に刺激した。
「ん」
ゼクスが鼻を抜けるような声を漏らした。それに気をよくした時東は、さらに手を動かす。ゼクスは、初めて他者から与えられる快楽に、腰が震えそうになるのをこらえた。だが、無理だった。
「あ」
「……」
「と、時東、出る」
「出せ」
「え、あ、いや、待ってくれ……あ、ああっ、ッ、ま、出る、汚れる」
「……」
「うあ、あ、あああっ」
放ってしまい、ゼクスは涙目で息をした。気持ち良かった。力が抜けてしまい、ソファにぐったりと体を預ける。
「俺も時東のする」
「いや、いい。もうガチガチだ」
「――……え、ええと……だ、だからこそ」
「ああ、挿れる」
「!!」
ゼクスが硬直した時、時東は念のためにと用意しておいた潤滑油を取り出し、蓋を開けた。ローションを指に垂らして、ゼクスの中に迷わず人差し指の第一関節まで入れた。息を飲んだゼクスは、時東の服をギュッと掴む。それが逆に時東を煽った。
「ぁ、ああっ……ッ、ん」
時東の指が奥まで入り込み、少ししてから二本になった。粘着質な音がする。
抜き差しされるたび、ゼクスは震えた。
「ひっ」
「ここか?」
「あ、そこ、変だ」
ゼクスの前立腺を時東が探り出したのは、じっくりと慣らしてからのことだった。位置は想像が付いていたが、痛みがないように解そうと、精一杯の理性で時東は考えていたのだ。
「あ、あ、ああっ、ン――ッ、あ」
同時にゼクスの前をつかみ、中の刺激と快楽を一致させる。ゼクスは震え、そのうちに、前の手が離れても、中だけで射精感が募るようになった。
「ああああ」
それを見計らい、時東が腰を進めた。ゆっくりと入ってきた巨大な質量に、思わずゼクスが目を伏せる。まつげが震えていた。
「あっ、ああっ、あ」
「ッ、やばい――悪い、持たない」
「ああああン――!!」
時東がそのまま中に飛沫を放った。その一瞬激しさを増した動きに、ゼクスもまた放ってしまった。肩で息をしながら、ゼクスはこれで終わりだと思った。だがその艶のある表情を見ていた時東には、終わるつもりはなかった。
「あ!!」
中に挿れたまま、時東が硬度を取り戻す。そして体を揺すった。ゼクスが泣き叫んだ。
「ああっ、や、待ってくれ、俺もうできない」
「大丈夫だ」
何を根拠にしているのか、時東が断言した。
そのまま、今度はゆっくりと高められていき、ゼクスは全身が熱くなるのを感じた。
だが、もどかしく、イけない。二度放っているのも原因だろうが、時東が意地悪くそれた場所を付くのだ。気持ちいい場所から少しそれている。
「時東、頼む、前触ってくれ」
「ああ」
「ひっ」
頷いて時東がゼクスの根元を押さえた。出せない。ゼクスの太ももが震えだす。涙がこぼれ、髪が綺麗な肌に、汗で張り付いた。
「いやぁ――!!」
こみ上げてくる快楽に、ゼクスは首を振った。
「あ、あ、ああ」
そのまま、出せないままなのに、ゼクスは果てた気がした。頭が真っ白になる。バチバチと何かが散った気がした。
「やだ、やめてくれ!!」
途端、時東が激しく動き始め、感じる場所ばかり突き上げてきた。わけがわからなくなってゼクスは制止の声を上げたが、時東は聞かない。そのままガンガンと突き上げて、ゼクスの快楽を強制的に煽る。恐ろしい程の快楽に――ゼクスは陥落した。
「あ……ああっ、う……うああああああああ」
そこでゼクスの陰茎を強くこすり、時東がゼクスの前を解放した。許可した、に、近かった。虚ろな瞳になったゼクスの体を、時東が反転させる。時東は、まだ放っていない。体重をかけて、ゼクスの動きを封じ、首の後ろを舐める。ゼクスは気持ちよすぎて、ぼろぼろと泣いた。時東が動き始める。今度は、また、ゆっくりとだ。そして次第に激しくなっていく。むせび泣いたゼクスは、その日、時東に抱き潰された。
気が付くとゼクスは、ソファに裸で寝ていた。たっぷりと中へ注がれた時東の白液が、下腹部を汚していることに気がついた。羞恥に駆られる。時東は既に服を着ていて、シャワー上がりらしく、髪の毛を拭いていた。ゼクスの目が覚めたことに気づくと、ライチジュースをくれた。ストローで飲みながら、やはり時東は獣のようだったと、ゼクスは思った。
以来、二人は恋人同士になり、付き合い始めた。
仲睦まじい二人に、高砂や榎波は辟易していたし、橘はニヤニヤしていた。
なにせ生体兵器討伐中もイチャイチャベタベタしているのだ。時東が腰を抱き寄せ、ローブのフードを取っているゼクスが真っ赤になる。時折キスしそうな距離で、二人は何かを話したりする。ゼクスの耳にと息を吹きかけて、時東が意地悪をしたり、頬を舐めたりしている。もう、ドロドロの溺愛っぷりで、ゼクスもそれに嬉しそうにしているのだ。ふたりの周囲の空気は、桃色だ。
また、討伐速度が上がった。それは、ゼクスが復帰したからというより、討伐後にイチャイチャしたい二人が、少しでも多く時間を取ろうとしているようで、すぐに倒すからである。こうして、ふたりはハッピーエンドを迎えたのだった。