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僕は(隠れ)腐男子だ。
普段はファンタジー小説を書いているのだが、PNを変えてBL小説を沢山書いている。
最近熱いのは、王道学園モノだ。
チャラ男会計受けと巻き込まれ平凡に萌え萌えしている。
風紀委員長という語など、見ただけでクラクラしてくるほど大好物だ。
腐が至る病の一種である、好きなキャラクターが全て受けにみえてくるところは、もう通過して久しい。最近では擬人化に萌えていて、星座×星座などがすごく好きだ。今の時期だったら双子座受けかな。相手は誰が良いだろう。対角星座の射手座か。射手×双子×射手……ノリが良さそうで良いな。
ポット×水とかも嫌いじゃない。いや、あっン、ポット止めて、体が沸騰しちゃう! というようなノリで。我ながら何を考えているんだか。
今日は何を書こう。
連載ものの続きでも書こうかな。
両親が亡くなり早三年。僕はその遺産を食いつぶしながら、引きこもって暮らしている。
PCが発光しはじめたのはその時のことだった。
唖然としながら、片手で目を覆う。
しかし光に飲み込まれ、最終的にはきつく目を伏せていた。息苦しさまで感じた気がする。脳裏が二重にぶれた感覚がして、次の瞬間僕の体は投げ出された。慌てて目を開け、手をついて、体勢を立て直す。
見れば周囲は、中世欧州風(?)の公園のような場所に変わっていた。
多くの人々がそこに、僕と似たり寄ったりの体勢で放り出されたらしいことが分かる。
ゆっくりと立ち上がりながら、僕は辺りを見渡した。どこだ、ここ。第一、僕は先ほどまで引きこもっている自室にいたわけで……唾液を嚥下する。まさか、まさかだ。
――異世界トリップ……?
仮にも僕はファンタジー書きなので、大好物だ。
「よい子の皆さんならもうここがどこか分かるよね? そうでーす、異世界です!」
その時声が響いてきた。反射的に声の方を見ると、公園中央の時計台の上に、遠目にシルクハットのようなものがみえた。僕の位置からだと、真正面に声の主を見ることが出来ない。それにしても異世界……本当に?
「この度は、皆さんにはここ、ピーチティ王国で、『ひきこもり対策支援事業――異世界における行動矯正更正プログラム』に参加して頂きます。簡潔に言えば、この異世界で、戦って頂きまーす」
周囲がざわつき出す。事態が飲み込めず、僕は言葉を待った。
「先日異世界が発見されたことはご存じですね? そこで君たちには、ネットの世界で一番多く接していた区画ごとに異世界トリップして頂きました。この区画は、恋愛&ファンタジー&BLの3サイドの某小説投稿サイトの書き手と読み手と両刀の皆様にそろって頂いています! 書いた場合は貰ったポイント、読んだ場合は入れたポイントを現在取得しています。そのポイントを駆使して衣食住を確保し好きな職につき、魔物を倒してアウトドア派のコミュ力ばっちりな人間になって、日本に帰還しましょう! 詳しくはお手元の本に! では! さらば!」
声が消失したのとほぼ同時に、僕の手元には巨大な本が一冊現れた。
ぺらぺらと捲ると、『ひきこもり対策支援事業――異世界における行動矯正更正プログラム』についての覚え書きの後、ポイントについて書いてあった。
ポイントはお金代わりでもあり、攻撃(防御)力であるらしい。
この区画の参加者についての説明も載っていた。
恋愛サイド。
FTサイド。
BLサイド。
……僕は自分がどのサイドなのか確認した。するとファンタジーとBLそれぞれで公開している作品数およびポイントを確認できた。視界の片隅に様々なアイコンが浮かんでいるのだ。その中の【情報】タブを押すと、現在の作品数とポイント数を見ることが出来る。
そこに『スイッチ』がついていて、【FTスイッチ】と宣言すればファンタジー、【BLスイッチ】と宣言すればBLの作品群が表示された。読んだものに関しては、【既読スイッチ】なるものが存在する。それぞれのスイッチの下に、【ポイント合計スイッチ】というものもある。各ジャンル、既読ごとのポイントを合計できるらしい。さらにその枠を超えた【総合スイッチ】と言うものも存在した。
それからもペラペラと紙を捲る。すると、『サーバー』について書いてあった。
なんでも各作品とそのポイントを保管している巨大な魔導石を指すそうだ。
挿絵が着いていたので空を見上げてみれば、なるほど、三つの巨石が浮いていた。
ピンク色が恋愛、緑色がFT、水色がBLのサーバーなのだという。
全てのサーバーが一度に落ちると、作品情報が全て消去されるためポイントが無くなるので注意するようにと書いてあった。ポイントが無くなると、新しく入手していかなければならないとある。
なお、睡眠欲食欲は消えないが、尿意などは消失し、トイレには行かなくて良い体になっていると書いてある。異世界に転移すると、日本人の体には変化が起きるらしい。その上何でも不老不死になるらしかった。現実に戻るまでに一体どれほどの時がかかるのかは知らないが、怖い……。現実世界では時間は経過しないらしい。
なんでもこのピーチティ王国の王様が沢山の『クエスト』を依頼するらしく、冒険者となってそれを皆で攻略し、全てクリアしたら現実に帰ることが出来るのだという。魔物退治もそこに含まれているようだ。
冒険者には様々な職があるらしいが、基本的に一つの職しか選択できないとある。
そこは迷わず、僕は魔術師を選ぶことにした。
すると脳裏でキラリンと音がして、視界の隅に、猫の形のマークが出現した。
なんだろうかと触れてみると、『ランキングに掲載されました――貴方には称号【チェシャ猫】が付与されました』と出た。ランキング……? 称号?
本を捲っていくと、ランキングとは【高ポイント保持者ランキング】である事が分かった。
まぁ無駄に多く作品数があるので、皆様のおかげで総合してみれば、ポイントは多い方だろう。称号は、童話やお伽噺のキャラクター名が与えられるらしい。なるほど、不思議の国のアリスからきているのだろう。
そのマークを弄っていたら、手紙型のアイコンが点滅した。なんだろうか。触ってみると、文字チャットのようなウィンドウが開いた。
『アリスの称号を貰った者で集まりませんか? by三月兎』