シークレット・レコード(SS)
俺は中一のとき、王者を見た。
当時高三だった、十川梓。
幼稚舎から大学まで一貫性のこの学園には、”俺様ランキング”なるものが存在する。
その年は、三年連続、俺様ランク一位、”抱かれたいランク一位”という成績の持ち主だった。
学業は常に主席、運動神経抜群、生徒会長をしていた。
中高合同の学園祭で一目ぼれした俺は、生徒会に興味があるといって会いに行ったのだ。
一言でも話せたら良いなと思っていた。そうしたら――……
「十年たったら、必ず会いに行くから――そうしたら、俺の恋人になってくれ」
――……!! そう言われたのだ。
有頂天になって、俺は信じた。きっと十年というのは、俺が子どもだから、大学を卒業するまでを数えて言ったのだろう。俺は早く大人になりたい。それに十川梓ともっと話がしたい。
それからはもう、十川梓の事を想う人生の開始だった。
しかし十年目、大学四年の年――十川梓は、ついに俺のところには来てくれなかった。凹んだ。
そんな俺に、サークルが一緒だった松山早人(先輩)に、『十川梓に会いたいんなら、学園の採用試験を受ければ』と言われた。受けた。しかし、十川梓は俺に言った。
「はじめまして」
もう俺は泣きそうだった。しかも十川梓の人気は、レベルアップしていた。
”俺様ランク”はここ数年、不動のNo.1。現在では、”抱かれたい男ランキング”では、殿堂入りを果たしているらしい。
早人(先生)が言う。
「お前が待ってるのは、こういうすごい人なんだよ。さっきも『あの”王様”に手伝わせる?』って感じで、職員室の空気変わっただろ」
「それでも好きなんだもん――!!」
まぁでも俺も正直、忘れられて、このまま失恋するんだと思ってた。
そうしたら二人で話す機会があって――付き合うことになった!! 人生、言ってみるものである。
しかし、付き合ってみたら、十川梓は全然俺様ではなかった。
手をつなごうとして、指先が触れそうになり……その時、近くを自転車でも通ろうものなら、手をしまう。
肩に手を回そうとして、俺が口を開けば、手は宙をさまよう。
キスとハグは必ず許可を求めてくる。
――総合して一言で言うなら、ヘタレじゃないだろうか? 全然俺様ではない。
ただ、十川梓を想う、俺の十年越しの記録は、永遠の宝物だ。
いつも自信無さそうにキスをする十川梓。
だけど今日は積極的だ。ベッドの上では優しいけど、ちょっと強引なときもある。
ただ壮絶な俺様だと想われている十川梓がヘタレだと知ったら、みんな驚くんだろうな。
まぁ、今は知っているのは俺だけで良い。
俺には人並みに独占欲があるから。
十川梓が本当はヘタレだって言うのは、恋人である俺だけの秘密ということで!
おしまい