【釣り合うわけがなかった!】後夜祭
文化祭当日が訪れた。本日相葉は各所で司会をしているからすごく忙しい。
こうして見ていると、本当に芸能人を見ているようだ。
監修の一人の僕。
それでもやっぱり好きだから見にいく。
相葉が本気なのかはいまだにわからないけれど、あれ以来連れ回される日は増えた。
本日も、自分で観に行こうと思っていたら、優先席のチケットを渡された。
ぼけっとステージを眺めている僕。
視線があったのはその時だった。5回目だ(なぜ僕は数えているんだろう)。
ただいまは、みんなのことを見ているのではなくて、僕を見たんじゃないのかなくらいには、少しだけ自信が持てている。
ちょっとは釣り会えるところもあるのかなと思うのだ。
その日相葉が空いたのは、後夜祭のオープニングが終わった時だった。
ここからは、各自打ち上げなのだという。
かくいう僕も屋台をやったりしていたから、料理部の打ち上げに顔を出す予定……だったその時だった。
誰かに腕を引っ張られて、驚いて立ち止まった。
「翠」
「相葉……」
「……そろそろ名前で呼んでよー」
それはいまだにできない僕がいる。
僕の中で、今、相葉は相葉なのだ。多分これは変わらないと思う。
「ねーねー二人で打ち上げしよー」
「僕はこれから料理部の打ち上げがあるし、相葉だって色々あるんじゃ……?」
「全部俺は断ったしー、料理部長には翠のこと借りるって言っといたよー。だから俺、外堀から埋めることにしたんだって。わかってないー?」
相葉はそういうと、ぎゅーぎゅーと僕を抱きしめてきた。
暗がりだけど人目があるというのに……。
ただ僕は、相葉のこの腕の温もりが嫌いじゃ無い。
「二人で打ち上げって何を?」
「んー、お疲れ様のチューしてよー」
「っ」
「いつも俺からしかキスしてないの地味に寂しいんだよー?」
そうなのだ。最近僕と相葉はキスをする関係になった。
恋人を相葉が名乗るようになってからは、まだそれ以上のことは一度もしていないけど。そして確かに僕からキスをしたことは無い。
「だめ?」
「……」
「俺もうさ、翠のことが愛おしすぎて気が狂いそうなんだよねー」
「……」
「お願い。軽くでいいから」
僕は、その言葉に抗えなかった。意を決して目を伏せる。
そして唇に触れるだけのキスをした。
瞬間後頭部に手が回り、相葉の側から深々と唇を貪られた。
驚いて息を飲んだ瞬間、入り込んできた舌に、口腔を蹂躙される。
何度も角度を変え深く口付けられるうちに、僕の体からは力が抜けた。
「ごちそうさま」
相葉はそう言って笑いながら僕を支えると、優しい顔をした。
僕は……結局相葉のことが好きなんだなと改めて思った夜だった。