【三】




 その後、半年の間、道徳の来る頻度は更に増え、雲中子が道徳について思考する頻度……胸中を道徳が占める時間は、格段に増加した。帰り際には、必ず道徳が、雲中子の唇を奪う。頬を撫でられ、時には首元の服を開けられて、首筋や鎖骨のそばに口づけられる事もあるように変わった。雲中子は入浴時、たまに肌に散る鬱血痕を目にするようになった。

 道徳の温度に次第に慣れていく。だが、未だに、『好きだ』と告げる事には慣れられない。道徳を想ってばかりいるというのに。

「なぁ雲中子」

 その日。
 道徳はソファに座り、いつもであれば帰る時間帯、じっと雲中子を見た。帰宅を告げられるのだと考えていた雲中子は、湯飲みを両手で支えたまま、何気なく顔を上げる。

「今日――泊まっていっても良いか?」
「別に構わないけど」

 反射的にそう返してから、雲中子は道徳の意図を悟って、赤面した。動揺し、湯飲みを持つ手が震える。道徳は微笑すると、立ち上がった。

「風呂、借りて良いか?」
「う、うん……その……――私は、さっき実験後に入ったから、ええと」
「余裕が消えてる雲中子、珍しいな」

 悪戯めかして道徳に笑われて、雲中子はきつく目を閉じた。
 その後、浴室に消えた道徳のためにと、雲中子は適当な道服を用意する。バスタオルと共にそれらを脱衣所に置いて暫くした後、道徳が戻ってきた。その黒い髪が、まだ僅かに濡れていた。

 居室で待っていた雲中子が立ち上がると、道徳が正面から雲中子を抱きしめた。石鹸の爽やかな香りがする。

「寝室に行きたい」
「分かってるよ」

 僅かに雲中子の声が震えた。しかし道徳は、雲中子の体を抱きしめたまま離さない。代わりに、落ち着けるようにその背中を撫でた。

 こうして二人は、雲中子の寝室へと移動した。真新しいシーツが敷かれているのは、雲中子が几帳面な部分があるから、と言うわけではなく、付き合い始めてからいつかこの日が来るはずだと考えていたからだ。

 寝室に入るとすぐに、今度は後から道徳が雲中子を抱きしめる。そして、首元から順に道服の留め具を外し、雲中子の服を乱していった。されるがままになっていた雲中子が、寝台に押し倒されたのは、それからすぐの事である。

「優しくする」
「別に、過度に気を遣わなくて良いよ」
「――嫌がられるかと思ってた」
「どうして?」
「雲中子からは、あんまりこういう気配がしないからな」

 一糸まとわぬ姿になった雲中子の胸を、道徳が撫でる。平らな胸を覆うように片手で覆ってから、道徳は中指と人差し指の間に、雲中子の左の乳首を挟んだ。そして舌で、右の乳頭を舐める。

「っ」

 初めて感じる湿った異質な体温に、雲中子が息を呑む。そんな雲中子の乳頭を、道徳が軽く吸う。すると雲中子の体に、ツキンと熱が走った。指先を振動させられ、もう一方の乳首を唇で嬲られる内、普段は意識しないその箇所を無性に意識してしまい、雲中子は朱くならずにはいられなかった。

 気づけば雲中子の陰茎が僅かに持ち上がっていた。それに気づいた道徳は、左手でそちらに触れる。そして握り込むと、ゆるゆると撫で上げた。

「ぁ……」
「声、もっと聞きたい」
「っ、ン……」

 道徳が顔を雲中子の陰茎へと近づける。そして片手で持ち上げた雲中子の陰茎を、口に含んだ。咥えられた雲中子は、その生温かい道徳の口腔の感触に息を詰める。唇に力を込めて道徳が口を上下させると、すぐに雲中子の陰茎は硬度を増した。それを確認するようにしてから、道徳は、右手の指先で雲中子の後孔をつつく。

「あ、あッ」
「ゆっくりするから」

 口を離した道徳は、二本の指を唾液で濡らすと、雲中子の菊門へと挿入した。ゆっくりと第一関節、第二関節と、道徳の指が進んでくる。道徳がその指先を折り曲げた時、的確に前立腺を刺激され、雲中子は目を見開いた。

「ア、ぁ……っ、ァ、そ、そこは……」
「ここか?」
「ン――!!」

 雲中子の感じるそこばかりを、道徳が指先で刺激し始める。規則正しく指で突かれ、雲中子は涙ぐんだ。内側から響き始めた快楽が、陰茎に直結したようになる。それから丹念に雲中子の中を、道徳が解し始めた。時にかき混ぜるように指を動かされ、またバラバラに指先で広げられ、雲中子は体を震わせる。

 暫くの間そうした後、指を引き抜いた道徳は、己の陰茎を雲中子の菊門に宛がった。

「あ、あ、あ」

 ――挿ってくる。
 指とは圧倒的に違う質量と存在感に、雲中子の喉が震える。白い肌は汗ばみ始めていて、上気していた。最も太い先端が入りきった所で、道徳が荒く吐息する。

「あ、ああ……あ、ァ」
「きついな」
「ダメだ、道徳。う……っ、ぁ」
「辛いか?」
「違う、体が熱くて――ああああ!」

 雲中子の声を聞いた直後、一気に根元まで道徳が突き立てた。深々と楔で穿たれた雲中子は背を撓らせる。熔けあう温度、快楽由来の熱が怖くなり、雲中子は思わず道徳に抱きついた。そんな雲中子の腰を持ち、先ほど見つけ出した雲中子の感じる場所を道徳が貫く。

「あ、ああア、ン――っ、あ、ハ」
「気持ち良い」
「わ、私も……うあァ、ぁ……道徳、道徳……」
「もっと俺の名前を呼んでくれ。な?」
「道徳……う、うあ、ア……」

 ゆっくりと道徳が抽挿を始める。限界まで引き抜いては、奥深くまで貫く動作を繰り返し始める。次第により深い場所を暴かれる感覚に、雲中子が髪を振り乱す。交わっている箇所から蕩けてしまいそうだった。

「あ、あン、う……あ、あああ!! あ、あ、道徳、っ、も、もう……」
「俺も限界だ。雲中子の中、絡みついてきて――もう余裕が無い」
「あああああ!」

 そうして一際強く突き上げて、道徳が雲中子の中に放った。その衝撃で、雲中子もまた吐精した。道徳の腹部を、雲中子が出した白液が濡らす。一度道徳が陰茎を引き抜くと、内部からどろりと道徳の放ったものが零れた。

 肩で息をしながら、雲中子がシーツに沈む。綺麗な黒髪が、白い肌に張り付いている。その隣に寝転び、道徳が雲中子を抱きしめた。

「好き。本当、好きだ」
「っ、ぁ……」

 まだ虚ろな瞳で、雲中子が道徳を見る。凄艶なその眼差しに、道徳は苦笑した。まだ足りない。しかし雲中子の方は、初めての快楽に限界が来たようで、そのまま意識を落とすように眠り込んでしまったのだった。

 このようにして、二人の間には、交わりが加わる事となった。


 その後の二人の恋人関係は、非常に穏やかに続いていく。
 それは崑崙山が地に落ちる、その日まで。




     【END】