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「じゃ、お祖父様としての見解。まず、アルトくんは、アメリカの某州の某番地あたりに、というかなるべくこの近所、できればこの場所に、家を一軒用意してください。そこで研究しながら、空音と君と、俺とひ孫で暮らします。俺、子育て慣れてるから安心して! 約一年で、君達は現地に戻っていいから。部屋は、君たちの使う分は好きに、ひと部屋は俺の仕事専用でベッド付き、もう一つはソファセット対面式付きでベッド付きで鏡台付きの比較的狭い部屋でベッド隠れるレベルだけど背の低い大きな仕切りを念のため二つ用意しておいてください。そしてもうひと部屋ダブルベッドの俺の寝室。ここはベッドしかなくていいけど遮光カーテンと暖色の明かり付きで。あとキッチンはできれば広いといいな。頭良さそうだからメモなくていいよね?」
「……ええ、記憶しました。分かりました。後ほど理由を伺わせていただきます。その後は?」
「緑の結婚の知らせに嬉しくなって行っちゃった感じで、空音と一緒に俺がドイツに行く。君はアメリカで待機。俺は滅多に約束しないけど、したら守る人間だ。必ず空音とひ孫を連れて、アメリカに戻る。そこの家に。それまで今日から君と空音は接触なしだ。この家の外まで、おそらくは君のお宅のSP、そのちょっと向こうにオーウェン先生が雇ったらしきSPがいる」
「……!」
「現地は自殺対策万全な分、多分具体的なところまでは露見してないだろうし、ここに来る途中も空音の性格的にいちゃこらしてないだろうから今はまだ疑惑段階だろうけど、既に双方、君らの関係を怪しんでいる可能性がある。このお祖父様のおうち、俺の趣味で、防犯対策完璧なの!」
「……」
「俺はドイツにオーウェン先生夫妻も呼び出す。まぁ呼ばなくてもあの人達行く予定だろうから別にいいんだけど、伏線に喜び勇んだ感じで電話して、オーウェン先生にだけ俺が行くのをお知らせしとく。で、俺の予定通りになれば、俺と一緒にオーウェン先生夫妻と紫先生が、俺と空音と一緒に、君が用意したアメリカの家に来る。伊澄……空音の母は予測できない。その段階で改めて紹介する。紺は多分、来ないな、今回は。そのうち遊びに来るだろうけど。あと、君という男の恋人が居ることは、ドイツで暴露しとくから、安心して出迎えて。となると、応接間と一室くらい客室も一階あたりに作っておいて。ただしいつかれると困るからベッドは小さいの一つで」
「……分かりました」
「で、養子に関しては、俺も君をひ孫をまかせていい人かちょっと知りたいし、ぶっちゃけ君のお父さんとも相談してみたいことがいくつかあるし、紫先生やオーウェン先生夫妻とも話さないとダメな部分もあるから、一年間様子見。俺がOKって判断したら、そこからは全力で説得に回る。今のところ、説得手段の方を考えていて、よほどのことが起きない限り、この考えは変わらない。俺は君達の養子にすることに賛成」
「ありがとうございます」
「理由はね、説得の時に、オーウェン先生達を俺で釣るから。だから世話ってより、俺が行かないと難しいって感じ。しかも君たちいないと俺が行くの変だし。そして君のお父さんに会うのにも、君がいるほうが、俺としてやりやすいんだ。同席するって意味じゃなく。住所に関しては、オーウェン先生達のおうちから算出した一番最適な距離。比較的早く帰ってもらえるし、場合によっては泊まりになるけど。ただし彼ら専用の客間は不要。さっきの部屋割りでいいから。この理由は、とりあえず今は説明不要な情報だから言わない。面倒くさいから」
「分かりました。本当にありがとうございます」
「いえいえいえ! 君と空音も結婚みたいなものだもの! お祖父ちゃんとしてW幸せ的な! よし、じゃあ行動開始! アルトくんはしばらくバイバイ! 空音はここに数日間お泊り! 俺席外すから、お別れしてから,行っちゃいな! 後俺のことは、唯純とよんでくれていいからね!」
こうして空音のお祖父様は奥へ消えた。
「空音、待ってるから」
「ああ。その……絶対アメリカに行くから」
「うん」
俺は空音のほほに手を添え、口づけた。
それから深く唇を貪りしばらく抱き合ってから、一人で家を出た。
そして歩きながら、実際にSPがいることに気づき、少しひやりとした。
お祖父様は本当にすごいようだ。気をつけていて何人かは既に俺も巻いてきたが、まだいるとは思わなかった。明らかに現地農民風だ。逆に田舎でみんな顔見知りで気づいた可能性も0ではないが、限りなく低いだろう。心強い味方を得てしまった。無論一年以内に失態を犯せばお断りだとあんに言われたので、細心の注意が必要ではあるが。
電車の電話スペースで、まず早急に家の手配をした。
それから空港で研究停止の報告をし、サンプル収集と治験の続行だけを命じた。