【序章】 - 一話
生徒会室で、放課後。
一杯の珈琲を飲む時、俺は無性に幸せを覚える。
紅茶を淹れるのが趣味の副会長、筥崎奏は、微苦笑しているが。
「終わったのか?」
アッサムを飲んでいる副会長を俺は見た。
王子様然としている奏は、俺の片腕である。
俺は生徒会長、奏は副会長――即ち女房役のような存在だ。
「ええ。本日の分は終わりましたよ」
「そうか」
俺はノートパソコンに向き直りながら、小さく頷いた。
副会長の仕事能力は、俺がよく知っている。
中等部でも奏が副会長で、俺が会長だった。
ここ――天隆学園は、中高一貫制の私立男子校である。全寮制だ。
生徒会役員は、抱きたい・抱かれたいランキングという代物と、家柄及び実力で決定されている。
見目が良い等の人気者の生徒のランキングがまず制作される。
その中で、家柄を判断されて、篩にかけられる。
続いて、成績等で最終判断が下される。
俺は、この中で、まず、抱かれたいランキング一位に輝いた。
中等部一年生の時に、一気に二次性徴が訪れた俺は、タチとして注目を浴びていた。
タチ……閉鎖的な全寮制の男子校だからなのか、この学校には同性愛者が多い。
続いて家柄。
俺は平安時代から連綿と続いてきた旧華族、犀堂家の跡取りだ。
犀堂の家は、二度の大きな戦時に上手く立ち回り、財を成した。
旧財閥の御曹司、やんごとなきお血筋――というわけで、家柄も認められた。
そんな我が家の家訓。
――何事にも全力を尽くせ。
幼少時よりこれを叩き込まれてきた俺は、当然勉学でも全力を尽くした。
結果の首席である。
どんなに順位を落としても、学年三位だ。
完璧――それが俺、犀堂時野である。
俺はその事実に満足している。
……ちなみに、テスト順位の三位以内は、俺と奏、そして風紀委員長の紫峰昴流で争っている。
風紀委員は指名制度だ。
もしも紫峰が風紀で無ければ、奴も今頃、この生徒会室にいた事だろう。
いいや、それは無いか。
俺の犀堂と肩を並べる筥崎家とは別で、紫峰家というのは聞いた記憶が無い。
思い浮かんできた紫峰の顔を、俺は頭を振って打ち消した。
珈琲が不味くなる。