【第一章】 - 九話



「とにかく、犀堂。無理に動くな」

 紫峰の強い語調に、俺は視線を下げた。
 そうは言うが、役員達を呼び戻せるとしたら、それは俺だけだと思う。
 俺は、嘗ての日々を取り返したい。

「犀堂?」
「――何もしないではいられない」
「どうしてもか?」
「ああ、どうしてもだ。仮にどんな噂を立てられようとも、あいつらだって間違っただけで、本当は良い奴らだと俺は知ってる」

 そう言いながらも、俺の声は小さく消え入りそうだった。よりにもよって紫峰の前で、こんな風に不安そうな声なんて出したくなかったというのに。

「そうか。お前がそう言うのならば、生徒会役員共については、少し様子を見ても良い。だが、奴らに接触する時――由良に近づく時は必ず俺を伴え」
「紫峰を?」
「ああ。俺がお前を守ってやる」
「な……俺は守られるほど弱くない」
「そんなフラフラの状態では、説得力が皆無だな」

 痛いところを指摘された。

「約束しろ。いいな? 犀堂」
「俺に命令するな」
「本当に、それだけ由良は危険なんだ。お前が信じる役員達を、陥落されたという現実を見ろ。今、学園を混乱に陥れているという事実があるんだ。それにお前が加わったら、より騒動は過激さを増す。それに、俺は犀堂が心配だ」

 淡々と紫峰に諭されて、思案した末、俺は小さく頷いた。

「分かった。分かったよ。お前を連れて行けば良いんだな?」
「ああ、その通りだ。バ会長にも理解可能な頭があって、本当に良かった」
「だからバ会長と呼ぶな、アホ風紀!」

 食事をしたからか、少し元気が出てきて、俺はそう言い返した。
 俺の言葉に、紫峰が吐息に笑みをのせる。

「そろそろ俺は帰る。今日は約束通り、ゆっくり休むんだぞ」
「分かってる」

 俺が頷いたのを見て、紫峰は帰って行った。
 玄関で見送ってから、俺はリビングのソファに座った。
 そして一息ついてから、改めて考える。

「――ん? 俺の説得に紫峰がついてくるということは、あいつ……俺が説得するのを、間接的に手伝ってくれるということか?」

 今さらながらにそれに気づき、俺は虚を突かれたように息を飲んだ。

「……」

 紫峰は、昨日と今日で知ったが、本当に善良だ。真面目で正しい風紀委員長だと思う。

「なんだか、敵対していた自分が情けねぇな。あいつは、もしかしたら何も悪くなかったのかもな」

 まぁ、正論を言いすぎる嫌いはあるが。世の中は、正論だけで回っているわけでは無いと俺は思うから、紫峰の言葉は、たまに耳に痛い。

 それでも、今は紫峰の存在が心強く、俺の心を温かくしてくれる。
 瞼を伏せた俺は、来週からも頑張れそうだと、そんな風に思ったのだった。