【第一章】 - 八話
「それで、どうするんだ?」
食後、紫峰が俺を一瞥した。
俺は何を問われたのか分からず、率直に首を捻る。
「何を?」
「――仕事をしない他の役員共の話だ」
「……」
思わず沈黙した。
確かにみんなが仕事をしていないのは事実だ。
それを紫峰には確認されてしまった。
だが……俺はみんなが戻ってくると信じたい。
きっと以前にように、平和な生徒会が戻ってくるはずだ。
楽しかった日々が脳裏に焼き付いて離れない。
「……連れ戻す」
「どうやって?」
「説得する」
「それが可能だとは到底思えない」
「何故だ?」
「転入生の由良は、この学園の人気者を次々と陥落させているんだ」
「……?」
「その筆頭が、生徒会役員だ」
紫峰はそう言うと、深々と溜息をついた。
「それをそもそも犀堂は、把握すらしていなかったんだろう?」
「ああ……生徒会室に詰めていたからな……」
「俺としては、犀堂が由良に近づく事も歓迎できない」
「説得対象は、役員だ」
「だが、生徒会の連中のそばにいくというのは、必ず由良とも接触する事になる」
「どうして接触したらまずいんだ?」
俺の素朴な疑問を聞くと、紫峰がスっと両目を細めた。
「犀堂まで転入生に惚れ込んだらと思うとゾッとする」
ありえない事を言われて、俺は目を見開いた。
「俺が?」
「そうだ。転入生は、それだけ魅力的らしい」
「らしいって……紫峰はどう思ってるんだ?」
「俺には風紀を乱す問題児にしか思えない」
冷ややかな顔で、紫峰が言った。
俺は上手く転入生について思い描けなくて、腕を組む。
「人気者を陥落というのは……具体的には?」
「孤独な心に入り込んでいくらしい」
それは過去に会計の晴真に聞いた事と違いはない。
「親衛隊がいても、崇拝はされても、心を開ける人間が少ない者がそれだけ多かったという事だろうな」
「……紫峰。それは俺が、生徒会の奴らと本当には親しくなかったと言いたいのか?」
「どうだかな。俺は生徒会について詳しくはないし、これまであまり興味は無かった。目障りだとは思っていたが――理由は、生徒会役員の親衛隊が大規模で問題を起こすからだ。個々人に興味を抱いていたわけでもない」
嘆息した紫峰を見ながら、俺は頷いた。
「それで何かと敵対してきたのか?」
「犀堂、その言葉が正確だと思うのか?」
「どういう意味だ?」
「風紀委員会は適切な対応をしてきただけで、敵対意図なんてなかった」
「生徒会の関係者が問題を起こすのが悪いって意味か?」
「そうだ」
断言した紫峰に、思わず俺は苦笑した。
それにしても、このように紫峰と会話が続く日が来るとは思ってもいなかった。